STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
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世界線変動率、1.130205
β世界線
2010年8月21日(土)
17:51
タイムマシンのハッチが開く。
「うぉ!もう帰ってきたお!まだ1分も経ってないのに」
「…オカリン?」
鈴羽に支えられて、俺はゆっくりとマシンから出た。
「オカリン!」
俺なんかに話しかけないでくれ。
1人にしてくれ。
「ちょ、オカリン血まみれじゃん!どうしたん⁉」
「オカリン、大丈夫?しっかりして……死なないで」
「大丈夫。怪我してるわけじゃ、ないよ」
何が紅莉栖を助ける、だ。助けるどころか、彼女の命を奪ったのは俺自身だったんだ。
3週間前のこの場所で。
俺が殺した。
俺は人殺しなんだ。
「無駄だったんだ……何をやっても……無駄だ」
「は、はは……。全部、決まってしまっていることなんだよ…」
「同じだ……まゆりのときと、同じなんだ……」
「どれだけもがいたって……結果は同じになる」
タイムマシンがあるんだから、もう一度タイムトラベルすればいい?
そんな簡単な話じゃない。
まゆりのときと同じように、何度リトライしたって、“紅莉栖は死ぬ”という結果にのみ収束する。
俺があのとき、自分の行動を自重してナイフを捨てていたとしても、別の理由で紅莉栖は死んだだろう。中鉢に殺されるか。俺がナイフ以外の狂気で結果的に殺してしまうか。
過程は関係ない。だが、結果は必ず同じ。
タイムリープだろうとタイムトラベルだろうと、過去に遡って結果をねじ曲げることはできない。あらゆる手を尽くしても、すべて無意味。
「無駄だよ…無駄なんだ……なにもかも無駄なんだよ…」
「俺は、やっぱり、紅莉栖を助けられないんだ……。は、ははははは…」
「分かってた……。分かってたんだ……。こうなるって、予想してたんだ…」
「もう疲れた…ずっと、休んでないんだ…。だから、もういいよ…」
「は、はは…」
「オカリン!」
パシン
乾いた音が響いた。
「なに……を……?」
まゆりがこんな行動に出たのは初めてで。
俺の頬を打った?
俺はあまりの驚きで、我に返っていた。
「………っ」
まゆりが俺を睨んでいる。
「オカリンは…途中で諦める人じゃないよ。まゆしぃは知ってるもん。いつもね、絶対に最後まで諦めたりしない。覚えてる?まゆしぃがおばあちゃんのお墓の前で、毎日“助けて”って心の中でつぶやいていたとき、オカリンも…毎日まゆしぃに会いに来てくれたよね……。雨の日も雪の日も、諦めずにまゆしぃの横に来て、まゆしぃの名前……ずっと呼び続けてくれたよね……。まゆしぃはね、オカリンが最後までそばにいてくれたから……おばあちゃんと、しっかりお別れすることが出来たんだよ。ね?だからオカリン。まゆしぃはよく分からないけど、諦めちゃ、ダメだよ……元気……出してほしいよ」
「でも……俺が殺してしまったんだ…」
俺の一番大事な人を……。
助けたいと願った人を……。
「俺が……っ、殺した……っ」
「オカリン……」
紅莉栖の胸に深々と突き刺さったナイフ。その残酷な感触が、まだ手に残っている。絶望で心が張り裂けそうだった。罪悪感で、胸が張り裂けそうだった。
けれどこれは、時間を遡るという神に等しい力を手に入れた俺が、それを使って過去をめちゃくちゃにしたことに対する自業自得。チート能力を使って、普通の人にはできないこと——神に等しいこと——をやろうとしてはいけなかったんだ。
紅莉栖は、救えない。まゆりがどれだけ俺を励ましてくれたって。
「無駄なんだ……」
「無駄じゃないよ」
鈴羽は、まゆりが持つ俺のケータイを指さした。
「オカリン、メールが……」
鈴羽はまゆりからケータイを受け取ると、俺に渡した。メールを見る気力すらなかったが、なぜか見るように促してくる。
受信メール
受信日時:2010/08/21 17:59
件名:(件名なし)
テレビを見ろ
なんだこれ?
送信者は見たことのないアドレスだった。
戸惑いつつも何気なく送信時間を見て、息を呑んだ。
2025年8月21日17時59分。
「2025年……」
まさかこれって……。
「Dメール!?」
間違いなく、未来から送られてきたものだった。