STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「聞いた通りだ…!本当に、届いた…!」
鈴羽は2036年から来ている。このメールは2025年。11年もの差がある。このメールは鈴羽とは無関係なのか?
「テレビってどういうことなのかな?」
「見ろって書いてあんじゃん!何かを伝えたいんだよ!」
ケータイのワンセグをつける。
『成田発モスクワ行きのロシアン航空801便が、飛行中に火災事故を起こしたと、ロシア当局から発表がありました。ロシアン航空801便は、日本時間11時5分に成田空港を出発しましたが、モスクワへの到着直前になって、貨物室から火災が発生。ドモジェドヴォ国際空港に緊急着陸し、速やかに乗客の避難が行われました。この事故で負傷者はありません。事故を起こしたロシアン航空801便には、ロシアへの亡命を表明していた、日本の——』
「ドクター、中鉢…」
『ドクター中鉢氏こと、牧瀬章一さんが乗っており、先ほど、現地にて報道陣に向けてコメントしました』
中鉢がロシアに亡命…?現代の日本において、亡命なんていう言葉を聞くとは思わなかった。
『無事にこの素晴らしきロシアに亡命することができて、実に喜ばしい限りだ。私を受け入れてくれたロシア政府には深く感謝している。機内が焦げくさかったが、私はまったく冷静だったよ。一部の乗客が騒いでいたが、私が一喝してやるとおとなしくなった。無事着陸させた機長には賛辞を送りたいね。彼は、この私と、私が書いた人類史に残る論文を救ったという意味で、まさに英雄だよ。もしこの論文が失われたら、人類科学の発展は100年の遅れを見ることになっただろう。未来の人類の在り方を決定づけるほどに重大な論文なのだよ、これは!人類史上初の、タイムトラベル実現に関する論文だ。分かるかね!?タイムトラベルだよ!この私、ドクター中鉢がその発明に世界で初めて成功したのだ!』
中鉢は封筒を見せびらかすと——。
『この中だ!この中に私がまとめた人類の夢が詰まっておる!近いうちに学会で発表する予定だがね。そのとき全人類は驚愕し、やがて私を称えることになるだろう!』
刺された紅莉栖を見捨て、あの封筒をもって1人で逃げていった中鉢を責める資格は俺にはない。ないのだが——。
死人に口なし、ということなのかよ。
『元々この封筒は、スーツケースに入れて貨物室に預ける予定だった。実際、そうしていたら論文は貨物室で焼け焦げ、人類の夢はそこで終わってしまっただろうな。しかし!まるで神が私に“世界にドクター中鉢の偉大さを知らしめよ”と言わんばかりに、幸運な運命のイタズラを起こした。その神による業がこれだ!これが封筒に入っていたおかげで、荷物を預ける際に金属探知機に引っかかってしまってな。私は封筒だけをスーツケースから出して、機内に持ち込んだのだ。先ほど、機長は英雄だと言ったが、人類の夢を守った真の英雄は、この小さな人形であると言えよう』
「あー!あのときなくした『メタルうーぱ』だ!ほらほら見て、まゆしぃのサインが入ってるー」
「げ、マジだ!なんでそれをドクター中鉢が?」
「あの発表会の会場でね、落としちゃったのー。探したけど見つからなくて、諦めてたんだけど、このおじさんが持ってたんだー。ロシアじゃ、返してもらいにいけないよー」
「ぁ……ぉ……バタフライ、効果(エフェクト)……」
東京、秋葉原で3週間前に行われた発表会の会場で、まゆりがなくした小さな小さなオモチャが、第3次世界大戦のきっかけとも言える『中鉢論文』が失われるかどうかを左右した。
結果的に、あの『メタルうーぱ』があったおかげで、『中鉢論文』は火災から守られた。そして世界はこの結果により、やがて第3次世界大戦を迎えることになる……。
「鈴羽、お前はこれを……知っていたのか?」
「…………」
「さっきの、2025年からのDメールは、誰が送ってきたんだ?」
“テレビを見ろ”というのが、このドクター中鉢に関するニュースであることは明白だ。
「ごめん……」
なにが“ごめん”なのか。
「ちゃんと説明しなくて、ごめん。でもさ、どうしてもオカリンおじさんには一度、牧瀬紅莉栖の命を救うのを“失敗”してもらわなくちゃいけなかったんだ」
「俺を、騙したのか……?」
「騙したわけじゃない。段取りとして必要なことらしいの。そう指示された」
指示って…誰に?
「オカリンおじさんに辛い思いさせちゃったことは、謝る」
「どういうことか説明しろ……」
「その必要はないよ。聞けば分かる」
「聞くって……何を?」
「そのケータイに、“もうすでに”入っているはずだよ。2025年のオカリンおじさん自身からの伝言が」
「……え?」
「ムービーメール。そのケータイに、受信してるよね?」
「あ………!」