STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「お前に私の気持ちが分かるか!なぜお前はそんなに優秀なのだ!私はお前が憎い……!存在そのものが疎ましいのだよ!私より優秀な人間などこの世にいてはならんのだ!分かるか?屈辱なのだ。娘が親より優秀でいい道理などない!」
中鉢は紅莉栖を押し倒し、首を絞めつける。
「だからお前を遠ざけた。お前と親子だと思われるのが耐えられなかった!お前がいたせいで……お前のせいで!」
俺は神をも超えるマッドサイエンティスト。
望むのは混沌。
確定した未来など必要ない……!
「よせ!」
ゆっくりと、物陰から進み出た。
「お前……さっきの……!」
中鉢が俺を睨みつけてくる。
「お前のせいで……お前のせいで私の発表会は台無しだ!」
中鉢の手が、紅莉栖から離れた。
「ごほっ、げほげほげほっ……」
「よくもぬけぬけと、私の前に顔を出せたな……!どいつもこいつも、私の邪魔ばかりする……!さてはお前、紅莉栖と示し合わせていたな?そうだろう?そうなんだろう!」
中鉢は後ろポケットに手を突っ込む。
「許さん……許さんぞ……ガキども!」
それを見て、俺は挑発するように言い放つ。
「やってみるがいい」
「小僧……何者だ⁉」
そして、ナイフを取り出した。
「我が名は———」
それを見て、俺はニヤリと笑いながら、高らかに宣言する。
「鳳凰院凶真」
「…なに?」
「知らないなら覚えておけ。フェニックスの鳳凰に、院、そして凶悪なる真実で、鳳凰院凶真だ……!」
恐れるがいい。悔しがるがいい。貴様の言うとおり、俺はお前の邪魔をする存在。
「俺は混沌を望む者。世界の支配構造を破壊する者。そして……お前の野望を、打ち砕く者!」
「逃げてっ!」
ナイフを見た紅莉栖が叫ぶ。
「断るっ!」
お前は、自分が助かる事だけを考えていればいいんだ。
「どうした、ドクター中鉢。お前の威勢は口だけか?この俺を殺すのではなかったのか?」
「くっ……」
「もっとも、神に等しい力を持つこの俺を殺すことなど、お前如きには無理だろうがな!フゥーハハハ!」
「ふ、ふざけるなーっ!」
「ダメ……、パパ、やめてっ!」
中鉢の目が血走っている。
ならばその衝動を——。
「貴様には俺を殺すことは出来ない!絶対にな!」
「死ねぇっ!」
——俺が受け止めてやる。
「が……はっ………!」
肉を抉り、深く深く突き刺さっていく感覚。
腹の中をかき回されているかのような痛みが全身を走り——。
「あ、があ……あ、あああああああ!」
傷口から、おびただしい量の血がこぼれ落ちた。
「は、はひひ、はひひひひひ………」
中鉢は狂ったように笑っている。
俺はあまりの激痛に、意識が途切れそうだった。
「っ……!」
その場に崩れ落ちそうになるのを必死で耐える。
中鉢はナイフから手を離し、後ろへと倒れこむ。ドサッと尻もちをついて、俺の腹に刺さったままのナイフを見つめる。
「ざ、ざまあ見ろ………私を、バカにするからだ——」
それを見て、俺はニヤリと笑った。
計画、通りだ。
「よ……くも……」
腹からナイフを抜き取り、座り込んでいる中鉢に向ける。
「よくも……がはっ………やって、くれたな……」
「は、ひ?」
「殺して……やるよ。殺してやるよ……ジジイ……」
ジリジリと、中鉢に近づいていく。
「ひ、ひぃっ!」
自分のしたこと、そしてこの状況を理解したのか、中鉢は狂った笑いを止め、心の底から怯えている。
「お、お前が……私をバカにするから……あいつと一緒になって、私をバカにするからっ!」
激痛のせいで息も絶え絶えの中、それでも俺は怒りに打ち震えていた。
「ま……だ、言うの……か。貴様は………科学者として…だけでは、なく、親としても………最低の、クソ野郎だ、な」
「な、なに……を?」
「娘の成果を………喜べない親が、どこに……いる、んだ?自分……の、娘が……天才で、優秀で………それに嫉妬して……あまつさえ、殺そうと……する……なんて……」
親の風上にも置けない。
「動いちゃダメ!横になって!今すぐ、救急車を呼ぶから……!」
流れ出す俺の血を見て、紅莉栖は俺に近づいてくる。目の前で、父親がナイフを向けられていることなど、気にも留めていないようだった。
ツンデレの癖にお人好し。まゆりを救おうとしてもがいていた俺の支えになってくれたのは、いつもこいつだった。
「お前は、俺が………助ける」
俺はポケットからスタンガンを取り出すと——。
「え?何を……?」
ケータイを取り出して、救急車を呼ぼうとしていた紅莉栖に、それを押し当てた。
「っ————」
糸が切れたかのように、紅莉栖は倒れた。
「……………」
すまないな。こんなことをして。心の中でそう謝っておく。
「残るは、お前だけだ………ドクター、中鉢」
中鉢の方に向き直り、再びナイフを突きつける。
「フ、フ、フハハハハハ………」
血まみれになりながら、ナイフを突きつけ、笑っている俺はさぞ恐ろしいだろう。逃げ出したいだろう。
鼻先まで近づけたナイフの刃先から、血の滴が一滴落ちた。それは中鉢の鼻の頭にポツリと落ちた。
「ひいいいい!」
絶叫と同時に、中鉢は通路の奥のエレベーターに逃げて行った。落ちている紅莉栖の封筒だけはしっかりと拾い上げていくあたり、抜け目のない男だ。