STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
世界線変動率、1.048596
シュタインズゲート世界線
あれから1か月が過ぎた。俺の傷は結構深く、手術しなければならないほどだった。入院している間に夏休みも終わってしまい、季節は秋になろうとしていた。
長い間、病院に閉じ込められていたこともあって、今日、こうして久しぶりにアキバの路地を歩いてみると、妙に心が浮き立ってしまう。
『ふざけるな!おい、ふざけるなぁっ!火災だと⁉こんなバカなことがあるか!』
何の因果なのか、何気なく通りかかったIPXの街頭ビジョンに、あの男の姿が映っていた。
『人類の未来にかかわる重要な論文が燃えてなくなってしまったのだぞ!悠長にインタビューなどしている場合か!ロシアン航空は絶対に許さん!あの機に乗っていた乗員は全員ぶち殺してやる!金の問題ではない!いいか、もう一度言うぞ、人類の歴史を塗り替えるほどの論文が燃えてしまったのだ!くそ!なぜ私はスーツケースを貨物室などに預けてしまったのだ!自分で持っていればこんなことには………!』
その論文の内容は?
というテロップが画面に現れた。
『タイムトラベルだ!過去から未来までの、あらゆる時空を支配することさえ可能な発明だったのだ!』
『——などと、意味不明な事を話していました。繰り返します。ロシアに亡命したドクター中鉢氏こと牧瀬章一氏が、モスクワのドモジェドヴォ国際空港に到着後、ロシア当局に拘束された模様です。なお、警視庁は、7月28日に秋葉原で起きた傷害事件で、牧瀬氏を重要参考人として調査中だったとの話もあり——』
中鉢はもはや、誰にも相手にされることはないだろう。
第三次世界大戦は、少なくとも『中鉢論文』がきっかけで起こる事は無い。
どうやら、紅莉栖は俺が刺された件について、警察に通報したようだが、今のところ被害者が行方不明ということで捜査の進展はないようだ。
他にラジ館で殺人事件は起きていないとダルから聞いたし、その日、アキバ周辺でも人が亡くなる事件、事故は1つも起きてなかったことだけは調べた。
だから紅莉栖が生きているのは間違いないが、連絡を入れたり会いに行ったりすることはしなかった。
そもそも、世界線が変わったのに、どうして俺が怪我をしているのか、という話だが。それは歴史のつじつま合わせ、というやつだ。
紅莉栖を救ったのは“この世界線の俺”ではなく、別の世界線から来た俺だ。だが、別の世界線から来た俺は、このシュタインズゲートには存在していない。だから、紅莉栖にとっては、自分を救ってくれたのは、“この世界線の俺”ということになる。
紅莉栖からすれば、俺が中鉢に刺されたことで流れた血の上に、気を失って倒れていたわけで、“この世界線の俺”が負傷していなければおかしいことになる。
だから、この世界線へと移動してきた俺も、同じように刺し傷があった、ということだ。
あの日、中鉢の記者会見に一緒に行っていたまゆりからすれば、俺は突然殺傷事件に巻き込まれた、ということになる。気が気でなかっただろう。ずいぶんと心配してくれていた。
まぁ、そんなことはどうでもいい。紅莉栖が生きている事が確認できたのだ。それだけでじゅうぶんだ。