STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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刺した——。

 

「あ…ぐっ…」

 

俺が刺したのは——。

 

「なん…で…」

 

「は、ははは、ははははは!バカどもには、ふさわしい末路だ、はははは!」

 

なんていう……ひどいオチだよ……

殺したのは。

牧瀬紅莉栖を殺したのは——。

 

「ごめん…ね」

 

消え入りそうな声、紅莉栖がささやいてくる。

ナイフを握る手に、液体状のものがかかる。

 

熱い。

 

それは血。

紅莉栖の、赤い血。

 

「はぁ……はぁ……うぅっ……」

 

寄りかかる紅莉栖の身体が、痙攣するように小刻みに震えている。

その震えが、紅莉栖の痛みを俺に想像させて。

泣きたくなる。

 

「どうして…」

 

 

「あれでも…父親……だから。私……ずっと、認められ…たかった。パパに…認めて、ほしくて……いつも、勉強を…。でも、いまさら…分かった」

 

「パパは、私なんて…認めたく……なかったんだ……。バカみたい…よね。なのに、なんで…私……パパを……かばった…のかな……」

 

「ごめ……んなさい……見ず知らずの……あなたを、巻き込んで…。うぅ…いた…い」

 

「ねぇ……わ…たし、死ぬの…かな……。……死にたく…ないよ…。こんな…終わり……イヤ…」

 

 

死ぬな。お願いだから、死なないでくれ…。

 

 

「たす……けて……」

 

「たす……」

 

 

殺した——。

俺が、殺してしまった—。

 

 

「あ、あ………」

 

「ああああああああああああああ—————!」

 

 

2010年8月21日

17時51分

 

「無駄だったんだ……何をやっても……無駄だ」

 

「は、はは……。全部、決まってしまっていることなんだよ…」

 

「同じだ……まゆりのときと、同じなんだ……」

 

「どれだけもがいたって……結果は同じになる」

 

タイムマシンがあるんだから、もう一度タイムトラベルすればいい?

そんな簡単な話じゃない。

 

まゆりのときと同じように、何度リトライしたって、“紅莉栖は死ぬ”という結果にのみ収束する。俺があのとき、自分の行動を自重してナイフを捨てていたとしても、別の理由で紅莉栖は死んだだろう。中鉢に殺されるか。俺がナイフ以外の狂気で結果的に殺してしまうか。過程は関係ない。だが、結果は必ず同じ。

 

タイムリープだろうとタイムトラベルだろうと、過去に遡って結果をねじ曲げることはできない。

あらゆる手を尽くしても、すべて無意味。

 

 

「無駄だよ…無駄なんだ……なにもかも無駄なんだよ…」

 

「俺は、やっぱり、紅莉栖を助けられないんだ……。は、はは、ははは…」

 

「分かってた……。分かってたんだ……。こうなるって、予想してたんだ…」

 

「もう疲れた…ずっと、休んでないんだ…。だから、もういいよ…」

 

「は、はは…」

 

***

 

「オカリン!」

 

パシン

乾いた音が響いた。

 

***

 

 

そんな気がした。フラシュバックのように脳に広がった光景。だが、目を開けると、目の前にはうずくまった俺を抱きしめてくれるまゆりの姿があった。

 

「オカリン…いったいなにが…」

 

ほんの一瞬の夢、だったのだろうか。あのまゆりが、俺の頬を引っ叩くなんて。あるはずがなかった。

 

「俺が…俺が、殺した……殺してしまった………バカみたいだ………全部、俺のせいだ…」

 

「牧瀬紅莉栖をさ、刺し殺しちゃったんだ」

 

「殺した……うそ?そんな…」

 

「でも安心して。まだもう1回分、タイムトラベルはできる」

 

「ほっといてくれ…俺のことなんか…。何度やったって、結果は同じだ…」

 

「なに言ってんの?諦めるつもり!?オカリンおじさんの肩には、何十億っていう人の命がかかってるんだよ!?たった1回の失敗がなんだって言うんだ!」

 

「紅莉栖は、どうやったって、助けられない……。世界線の収束には、逆らえない…」

 

それが世界の真理なんだ。とっくに分かり切っていたことなんだ。

 

「く……!こうなったらビンタしてでも気合い入れ直して——」

 

「だめだよ……!無理強いするのは、よくないよぅ……!こんなボロボロになってるオカリン、見てられないもん……」

 

「でもさ、このままじゃ未来を変えられない…」

 

「どうして?どうして未来のことをオカリンひとりに押し付けるの?そんなの、重すぎるよ…」

 

「オカリンおじさんには、世界の観測者としての能力があるからだよ」

 

「オカリンが、望んだわけじゃないのに…!それにもう一度やったって、またオカリンが傷づくだけだって、思うな……。未来のことを、人ひとりで変えようなんて、きっと無理なんだよ…」

 

「だからそのためのシュタインズゲートで……」

 

「………」

 

「気持ちは分かるよ。でもさ、あたしも未来をかけて、ここまで来てるんだよね。どっちにしろ2036年には戻れないんだ。そう簡単に諦めるつもりはないから」

 

「………」

 

「オカリンおじさん。1つだけ忠告しておく。このタイムマシンに残されてる燃料は有限なの。さっきは往復2回分しか残ってないって言ったけど、実はまだそれなりに余裕はある。それでも、移動できる時間はおよそ344日分。片道のタイムトラベルだとしても、今から1年と経たないうちに、7月28日には届かなくなる。覚えといて。その日になったらさ、あたしはたとえ一人でも跳ぶよ」

 

「………」

 

 

誰かが、なにかを俺に向かって言っている。でも、言葉の意味を聞き取れない。何も聞きたくない。今は泥のように眠りたい。

 

もう、いいだろ・。

もう解放してくれ…。

 

 

「オカリン?」

 

「オカリン……ねぇ、オカリン?」

 

「もう、頑張らなくてもいいからね?」

 

「泣いてもいいんだよ、オカリン」

 

「まゆしぃはそばにいるからね……オカリン……」

 

 

「………」、

 

まゆりがそう言ってくれたからかどうかは分からないけれど、涙が溢れて、何もかも忘れようと決めた。

だからその日以来、俺はラボ——未来ガジェット研究所に行くのをやめた。

 

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