STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「あ、岡部さんも一緒だったんですね」
「お、オカリン。久しぶりじゃん!」
部屋にはダルと由季さんがいた。2人は俺を見て目を丸くした。
「あ、ああ。久しぶり」
素早く部屋の中を見回す。鈴羽の姿はなかった。そのことに少しだけホッとしている自分がいた。
「…入っても?」
「自分のラボで遠慮とかねーよ」
「…それも、そうだな」
俺が来たことを喜んでくれているのが分かる。事もなげにそう言ってくれたのが、俺も嬉しかった。
俺はひとまずソファに腰を落ち着かせたが、気持ちは全く落ち着かない。やたらとソワソワしている自分がいる。
“紅莉栖”を呼び出せる雰囲気でもない。
俺は由季さんの様子をチラリとうかがった。
「由季さん、そのお洋服可愛い~」
「まゆりちゃんにそう言ってほしくて着てきたんだよ」
「いいなぁ、まゆしいも着てみたいのです」
そう言いながら、まゆりは何度もダルの方を見ている。そのたびにダルは、目をつむって首を横に振っている。
なんだ?まゆりはダルに何かを伝えたいのか?
「後で、お洋服取り替えっこしてみる?」
「サイズ合うかなぁ。由季さん背が高いから…。まゆしぃの体型だと、そんなに可愛いお洋服がなかなか着れないのです…」
と、またもやチラチラとダルを見ている。
まゆりの言動を観察していると、由季さんの服をやたらと褒めている。
「おい、ダル」
そこで俺もようやく気付いた。
由季さんは未来のダルの結婚相手だ。俺も以前、鈴羽から聞かされていた。こんな美人な人が、ダルと結ばれるとは到底信じられない。
「な、なんだおオカリン」
俺はまゆりたちに聞こえないくらいの小さな声で耳打ちする。
「さっきからまゆりがお前を見ているのは、お前に由季さんの服を褒めろっていう合図じゃないのか?」
「なっ……なんで分かった……!」
やはり正解だった。
「由季さんも、服の事に触れられて喜んでる感じじゃないか?お前からも何か言ってやれば……」
鈴羽が生まれてくるためには、2人が結ばれなければならないのだ。まゆりの反応も過剰な気もするが、これくらいしなければダルは何もしないだろうしな。
「さ、さっきオカリンたちが来る前に、その話はもうしたんだお。でも、服のこととかよく分からんから、どう褒めればいいのか…」
それについては、俺にも良く分からん。由季さんがオシャレな格好をしているのだということは分かる。だが、どこがどうオシャレなのか、と聞かれると困ってしまう。
「でも、とにかくお前が頑張らないと、鈴羽がだな……」
「うぅ…それは分かってるんだけどさ…」
恋愛経験などろくにない俺たち二人では、解決策なんて見出せそうになかった。
「オカリン?どうしたの?」
「あ、いや…」
と、ここで“紅莉栖”からの着信が入った。
(出るべきか……いや)
まゆりたちがいる状態で話すべきではない。全員のことを聞かれて全て説明しなければならなくなる。あいつには悪いが、ラボはまた今度の機会にしてもらおう。
「まゆりは由季さんと料理だったか?」
「うん!キッシュの作り方を教えてもらうのです!」
「あ、岡部さん。お台所、使わせてもらっていいですか?」
「あ、ああ。気にせず好きなだけ使ってくれ」
「よかったぁ。じゃあまゆりちゃん、作り始めよっか。岡部さん、出来上がったらぜひ食べてくださいね」
「由季さんの料理、楽しみにしてるよ…は、ははは……」
これは逃げられそうもない。せめてまゆりが手を付けていない方を食べられることを願おう。
もう一度部屋を見回す。すると、足元に古い掃除機が無造作に置かれていることに気付いた。
これは『未来ガジェット5号機』だ。なぜこんなところに出しっぱなしにしているんだろうか。未来ガジェットは全て奥の部屋にしまっておいたはずだ。まさかこれで掃除でもしようとしたのだろうか?魔改造されていて掃除機としては機能しない代物なのに。
とりあえず邪魔だからしまっておこう。
5号機を持って奥の部屋へ。夏ごろに比べてさらにごちゃごちゃしてきているような気がする。増えているのはほとんどがダルの私物だ。オタクグッズ関連が目立つが、それ以外にも見覚えのないパーツや機械類が増えている。ダルがタイムマシン研究に本腰を入れ始めたという話は本当だったようだ。
「ボクはひとりでもやるよ。鈴羽と約束したからね」
以前、タイムマシンを巡ってダルと一度だけ喧嘩らしきものをしたことがある。その時に言われた言葉は、まだ俺の耳にはっきり残っていた。ダルがそこまで自分の意志を表すことは珍しいことだったからだ。
「ん?」
今、物音がしたような……。
ネズミか?
「おーいダル。ネズミが——」
「しーっ!しーっ!」
「おわ!ネズミじゃなくてガラガラヘビか⁉」
「ヘビってなんだよヘビって⁉おじさん、静かに!」
聞いた事のある声。気配がする。デスクの下で何かがもぞもぞと動いている。腰をかがめて恐る恐る覗き込んだ。
「うわっ!」
そこに、鈴羽がいた。
「ちょ、おま……なんでここにっ⁉」
困惑していると、ダルがどかどかと足音を立ててやって来た。
「またネズミとか迷惑すぐる!」
まずい!
慌ててダルを押し返そうとしたときにはもう手遅れで。
「やだ、ネズミがいるんですか?」
「ネズミ?ヘビ?どこ~?」
ダルの後ろから、まゆりと由季さんが恐る恐る顔を覗かせていた。
「す、鈴羽さん⁉」
あぁ……。遅かったか。
「や、やぁ由季さん……あはははは……」