STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
街を歩きながら、ポケットに手を突っ込む。中にはピンバッジが入っていた。
未来から来た鈴羽が持っていた、未来ガジェット研究所のピンバッジ。入院した時、ちょうどいい機会だからと、ダルに作っておくように頼んでおいたのだ。あの怪しげな日本語の露天商も元気だったそうでなによりだ。
そうして完成したのは、鈴羽が持っていたものをちょっとだけアレンジしたもので、なかなかの出来だった。
最初、11個あったそれを、俺は退院したその足で、持つべきみんなに手渡してきた。
まず、足を運んだのは柳林神社。
「今日……退院だったんですか?」
「ああ。そうだ」
「そんな……すみません。僕、何も知らなくて……」
「知らなくて当然だ。教えていないからな」
「でも、無事に退院できて、よかったです……僕、僕………うれしい」
ルカ子は、俺が入院している間に鮮烈なコスプレデビューを飾っていた。長年に渡るまゆりの説得工作に、ついに折れたのだ。コミマには間に合わなかったが、9月のコスプレイベントに、まゆりのコスを着て参加したという。その結果、ファンクラブまでできたとか。
写真を見せてもらったが、他のどのコスプレイヤーよりも可憐で可愛かった。……だが、男だ。
「成長したな……ルカ子」
「岡部さ……じゃなくて、凶真さんが教えてくれた、清心斬魔流のおかげです。心頭滅却、出来ました!」
「ふ。では……。ラボメンナンバー006、漆原るか。お前にこれを授けよう」
「あの、僕、ラボメンにいつ入ったんでしょう?」
「その記憶は、遥か彼方……あるいは、前世まで遡るかもしれない」
「ぜ、前世……?」
「お前は、生まれた時からすでにラボメンだったのだ。故に、誇るがいい」
「…………」
「イヤ、か?」
「いえ、すごくうれしくて……ぐすっ」
きっとルカ子は覚えていない。だが、俺が言った事は誇張などではなく、事実。そしてその意味を知っているのは……俺だけでいい。
次に向かったのはメイクイーンだった。
「お帰りニャさいませ、ご主人様♪あ、凶真!退院したのかニャ?」
「あ、ああ。地獄の底から蘇ってきた……」
「さすが鳳凰院の血ニャ……。不死鳥の名を抱くのは伊達じゃないニャ。そうそう、メイクイーンは2号店を出すことが決まったのニャ。しかも中央通り沿いなのニャン。すごいニャ?すごいニャ?」
フェイリスはこの1か月ほどの間に、雷ネット・アクセスバトラーズの大会に出るようになった。以前は開催側ということもあって、出場は控えていたようだが。で、公式大会初参加で、いきなり優勝をかっさらうあたり、ある意味で役者である。
メイクイーン2号店の事も含め、フェイリスは以前よりもさらに生き生きとしているように見えた。
「そうだ、これを渡しておこう」
「ニャ?」
ラボメンバッジを手渡す。
「これは……!凶真、いつの間にこれを手に入れたのニャ⁉」
「…入院している間に」
「心の試練を乗り越えたというのかニャ……。やっぱり凶真は大した男ニャ」
このままでは、こいつのペースに飲まれてしまう。
「ラボメンナンバー007のピンバッジだ。秋葉留未穂よ」
「きょ、凶真、その名前はここでは……」
「ふん。どうしても俺の助けがほしいときは、そのピンバッジを握りしめて、“ラ・ヨーダ・スタセッラ”と唱えるがいい」
「ありがとニャ!未来ガジェット研究所はアキバの希望ニャ!」
メイクイーンに行った後、ラボに戻った時には、意外な人物と顔を合わせた。
いずれは探し出すつもりではあったが、あれほど近い場所で遭遇するのは予想外だった。
「よお、岡部。おめえ、退院したのか」
「ええ、まぁ……」
ごりごり筋肉だるまの天王寺に話しかけられ、俺は思わず顔が引きつった。
「そうそう、紹介しとくぜ。今日から、ウチでバイトすることになった子だ」
「…………」
「っ……!」
そこにいたのは桐生萌郁だった。
「見ての通り、不愛想なヤツだが、よろしくやってくれ。って、おめえ、なに変な顔してんだ?」
「い、いえ……指圧師とは顔見知りだったもので……」
「しあつし?なんだそりゃ」
「閃光の指圧師(シャイニング・フィンガー)、彼女の能力名です……」
「んなことより、おめえ、さっそくウチのバイトに手ぇつけてんのかよ!節操のねえヤツだなぁおい」
「こ、こここ……こんな若い女性をバイトとして囲っているあなたに言われたくはないぞ!」
「あ?なんだとてめぇ!綯の前でんなこと言ってみろ!ぶっ殺すぞ!」
俺と天王寺がワーワー言っていると。
「……前に、編プロの仕事で……IBN5100を、一緒に探してくれた」
「なにっ⁉」
この俺にそんな記憶はない。俺がこの世界線にやってきたのは8月21日のこと。それまでの間に、そんなことがあったのか。
「ああ、例の幻のPCってヤツか?見つかったのかよ?」
萌郁はふるふると、かすかに首を振った。
それよりも、やはり天王寺はSERNのラウンダーなのか?IBN5100というワードに、すかさず反応してきたあたり、怪しいところだ。
「ま、都市伝説みてえなもんだからなぁ」
「も、萌郁はなぜ、ブラウン管工房でバイトを……?」
「私が、連れてきたんです」
と、綯がひょっこり店から顔を出した。
「それでお父さんに紹介したの」
「なるほど……お見合い、か」
「まだ言うかてめぇ。俺が愛してんのは、綯とブラウン管だけなんだよ」
「お、お父さん……」
「それに、綯が連れてきたんじゃねえ。正確には、転んでケガしてた綯を介抱して、わざわざここまでついてきてくれたってわけだ」
「萌郁にそんな親切にする性質があったとは……」
「で、無職だっつーから、娘が世話になったし、そしたらウチで働けーってなったわけだ。まさか、ウチの店でバイトを雇うことになるとはな」
「……前にも雇っていたじゃないですか」
そう言って、それは別の世界線の話だと気づく。
「ああ?何寝ぼけたこと言ってんだ?ウチはこれまでバイトを使った事なんてねえよ」
バイト戦士こと、阿万音鈴羽。
「ま、そういうことなら、よろしく頼むぞ、萌郁」
「……これは?」
「ラボメンナンバー005である証のピンバッジだ。いつでも2階にある我がラボを、訪れるがいい」
「…………岡部くん。これ、ありがとう」
「……ああ」
彼らへの憎しみは、もうない。もう赦したから。……わだかまりは、まだある。
でも、それさえも乗り越えて、受け入れていく未来を、俺は望む。
この世界線では、俺たちが目を付けられることはないんだ。これからも良き隣人として付き合っていけるだろう。