STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
萌郁たちと話した後、ラボにも寄った。1か月ぶりに足を踏み入れたラボでは、いつもの2人が待ってくれていた。
「あ、オカリン!」
まゆりはこの上ないほどの笑顔だった。
「トゥットゥルー、おかえりン♪」
「……もしかして、おかえり、とオカリンを合体させたのか?」
「うん、前も言ったよ~」
と、まゆりは後ろを振り向いた。
「オカリンも食べる~?退院祝いに一個あげる」
ジューシーからあげナンバーワンが、電子レンジで温められている。……ありがたく一つもらうことにした。
「…この電子レンジはどうしたんだ?」
この世界線でも、俺たちは電話レンジ(仮)を作っていた。あれは別に、未来から影響を受けたわけではなく、俺とダルが偶然開発した産物だったからな。
そして7月28日に、紅莉栖が刺された、とダルにメールを送っていた。そして、“最初の俺”はα世界線へと飛ばされたはずだ。
“最初の俺”がβ世界線へと帰って来るのは8月17日。そのタイミングで、この世界線の俺はSERNをハッキングし、SERNが発見する前に、エシュロンに保存された最初のDメールを消去した。そして、紅莉栖が生きていたことで、世界線はシュタインズゲートへと変動したのだ。最初に、紅莉栖が死んでいる、と観測したのは間違いであった、ということになったのだろう。
俺がこの世界線に来たのは8月21日。
その4日の間に、α世界線から戻って来た俺は、電話レンジ(仮)とIBN5100を破棄した。シュタインズゲートに到達したことで、未来から鈴羽がやって来ることはなくなったが、IBN5100はラボにあった。
それもきっと、つじつま合わせなのだ。
SERNにも、その他の組織にも、このラボが目を付けられず、まゆりも紅莉栖も死ぬ事のない世界線。それがこのシュタインズゲートなのだから。
「ああ、それはボクが手に入れたんだお」
「買ったのか?」
「拾って来たに決まってんだろ常考。直すのに苦労したぁ」
「ちょっと古いけどね、まだじゅうぶん使えるよ」
「…さすがスーパーハカー。その調子で、次の未来ガジェット作りも頼むぞ」
「それよりオカリンオカリン、ひどいよぉ~。今日、どうしてまゆしぃに一言も言わずに退院しちゃったの?まゆしぃとダルくんで病院に行ったら、もう退院しました、って看護師さんに言われちゃったんだから」
お花も買っていったのに、と怒られた。
「ナースエロかったよナース。ボクがオカリンの代わりに入院したかったぁ」
ダルは相変わらずで安心した。
「まゆり。お前は俺の保護者になったつもりか?ずいぶん出世したな。だが勘違いするな。お前はあくまで俺の、“被保護者”だ」
「おしめのお世話もしてあげたのに~」
「う……」
それについては頭が上がらない。手術直後は身体をろくに動かせなかったから、おふくろとまゆりに甲斐甲斐しく介護された。特にまゆりは夏休み中、毎日朝から病室にやって来て、献身的に世話をしてくれた。
よい幼馴染を持ったものだ。
こいつはいつもボケーっとしているし、頼りなさそうに見えるが、実はとても強い子なのだ。
「幼馴染の女子高生におしめの世話してもらうとか……。羨ましすぎだろマジで!それなんてエロゲ?」
「ふん。今度、ジューシーからあげナンバーワンを買ってやる」
「ほんとー?ありがとーオカリン!頑張ってお世話してあげた甲斐があったよー、えへへ~」
単純なヤツだ。それくらいでいいのなら、いくらでも買ってやるさ。
それと同時に、安堵感が俺の胸を占めた。
まゆりはここにいる。
β世界線にやって来た時にも、同じような感覚を得たが、この安堵感はそれ以上だ。
こいつを守るために、俺はずっと戦ってきたのだから。
「ほら、これ」
「わー、かわいいねー」
「おー、ついに完成したん?」
「これから毎日付けておかなきゃ。そうしないとラボに入れてもらえないもんねー」
別に、そんなルールは決めてないのだが。
「でもオカリン。あのね、まゆしぃはこのピンバッジのデザインを見せてもらったときから、1つだけ分からないことがあるのです」
「なんだ?」
「文字が書いてあるでしょー?『OSHMKUFA 2010』って。岡部、椎名、橋田、それと漆原、フェイリス。ここまでは分かるんだけどねー、その他のMとKとAって誰の事なの?
「………」
Mは牧瀬。Kは桐生。Aは阿万音。今のまゆりには分かるはずもないだろうけれど。
なかったことにして消えて行った世界線の中で、彼女たちはラボメンとなったんだ。
だが、そのことはまゆりとダルには伝えていない。
特に、一番最後の『A』が誰の事なのかについては、言っても信じてもらえないだろう。というか、ダルにいずれお前には娘ができる、と伝えるのは癪に障るのだ。
あのとき——。
「そこに到達したら、きっとあたしは消える。一緒にシュタインズゲートに辿り着いたことをお祝いすることは出来ないはずだから。ここでお礼を言っておくよ。ありがとう、おじさん。死なないで、生きて」
そう言って、8月21日に送り届けてくれた後、最後は、笑顔を浮かべたまま、鈴羽は消えていったんだ。
それが証拠。俺が、未知の世界線『シュタインズゲート』に到達したことの証。
だから、鈴羽が消えたことは悲しむべきことではないんだ。
「きっと、7年後に……会おうね」
未来は俺には分からない。もしかしたら、鈴羽が生まれてこない可能性だってある。それでも、きっと7年後には会えると、俺は信じているから。
「うーん、それと最期の『A』の後、3つも変なマークがついてるけど、これなに?」
変なマークではない。『*』、これはアスタリスクと言うんだ。
「まだ見ぬラボメンがいる、ということだ」
それは決して、鈴羽だけではない。
あいつは最期に、かがり、という名前を口にした。
おそらく、β世界線の未来で出会う誰かなのだろう。2026年に生まれるとも言っていた。
鈴羽はまゆりの名前を口にはしなかったが、俺はおそらく、そのかがりなる人物は、まゆりに関係する人物である気がする。
そして、残る二つ。
鈴羽に会えるのなら、その母親にだって会えるはずだ。β世界線の未来では、その人も一緒に戦ってくれていただろうからな。
最後の一つは……。
(俺さえも知らない誰か。きっと、俺たちだけじゃ、未来でタイムマシンを開発することは出来なかったはずだ)
α世界線の未来では、紅莉栖が生きていたから、タイムマシンを開発することが出来た。だが、β世界線ではあいつは生きていなかった。それでも、俺たちが未来でタイムマシンを開発したということは、誰か他に、協力者がいたからに違いない。
(紅莉栖に関係する誰か、だとは思うがな……)
だからその3人の分を含めて、頭文字ではなくマークにしたのだ。そして、その3人を含めてバッジは11個。
鈴羽の分を含めて、4つはラボにしまっておくことにする。
出会うことが出来たそのときに、このピンバッジを渡そう。ラボメンナンバー008から、011までは欠番扱いにしておく。