STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
これで残るピンバッジは2つになった。
そのうちの1つはラボメンナンバー001、つまりは俺のもの。
残ったラボメンナンバー004のバッジは、きっと彼女の手に渡ることはない。
紅莉栖は生きている。
それだけで、俺はじゅうぶんだった。
あの3週間をともに過ごした牧瀬紅莉栖のことを。
俺は、俺だけは、覚えているから。忘れないから。
だから、これ以上は望まない。
未来がどうなるかは分からない。
だが、少なくとも確定はしていない。
未来は、これから作っていく。
俺だけでなく、俺や紅莉栖を含むすべての人たちで。
——だから、この世界のどこかで、見ていてくれ。
買い物客でごった返す中、俺はまっすぐ前を見つめて歩き出し———。
「……え?」
すれ違った人たちの中に、見たんだ。
ここにいるはずのない、彼女の姿を。
見間違いじゃない。
間違えるわけがない。
そこにいたのは——。
「やっと、会えた」
その声も。
その顔も。
その髪も。
その瞳も。
何も変わっていない、牧瀬紅莉栖がそこにいる。
「あなたを、ずっと探していました。あのとき、助けてくれたあなたを、ずっと……。私、一言、お礼が言いたくて……。どうしても、あなたに会いたくて……。本当に、ありがとう。あなたが無事でよかった」
せっかく封印しようとしていた、彼女への愛おしさが、一気に溢れ出して。
泣きたくなるほど嬉しくなって。
「俺だ。なぜ彼女がここにいる?俺の“リーディングシュタイナー”は反応しなかったというのに——。なに⁉俺が守れだと⁉やらやれ、勝手なことを言ってくれる。それが運命石の扉(シュタインズゲート)の選択か。エル・プサイ・コングルゥ」
なんと言っていいか分からなくて。
だから俺は——。
「また、会えたな、クリスティーナ——」
「いや、だから私はクリスティーナでも助手でもないって言っとろう——」
「……え⁉」
「え?」
どうして、今の紅莉栖が知っているんだろう。
それは、この俺が紅莉栖に対してからかいの意味も込めて付けた——。
そして俺からそう呼ばれるたびに、いつも紅莉栖が根気強く否定し続けていた——。
特に意味のない、けれど慣れ親しんだ、2つのあだ名。
本当は、名前を呼ぶのが恥ずかしくて、誤魔化すために呼んでいたあだ名。
この世界線の紅莉栖は、知っているはずがないんだ。
「あれ、私……今、ふっと頭の中に言葉が浮かんで…………どうして?」
リーディングシュタイナーは誰もが持っている。
世界線が変わって、過去と未来が再構築されようとも。
記憶には蓄積されている。
ただ忘れているだけで、きっかけがあれば思い出すこともあるかもしれない。
あの、3週間の失われた日々のことを。
俺と君が紡いだ、想い出のことを。
「ようこそ、我が助手。牧瀬紅莉栖……いや、クリスティーナ」
俺はピンバッジを差し出しながら、そう呼んだ。
未来のことは、誰にも分からない。
だからこそ、この再会が意味するように、無限の可能性があるんだ。
「これが、『シュタインズゲート』の選択だよ」
—————— STEINS; GATE 完 ——————