STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
日の沈んだ秋葉原。鈴羽はあの日のことを思い出していた。
1975年8月13日。泣きわめくかがりと共に、初めて過去に降り立ったあの日。
この時代にやって来たのは、IBN5100を手に入れるため。ある目的のためにそれが必要だったのだ。
かがりには全ての事情を説明した。気丈なかがりは、泣いている場合ではないと覚悟を決めたようだった。ラジオ会館の屋上に出て、青い空を見た時、かがりは言葉に出来ない感情が沸き上がって来たようだった。
未来ではにび色になった雲しか見たことがなかったかがりにとっては、高度経済成長でくすんだ空も、青く澄んだ空に見えたのだろう。鈴羽にとっても、幼い頃に見た以来のものだった。
「かがり…」
鈴羽は2010年のラジオ会館屋上から、眼下を見つめた。
35年.1975年でIBN5100を手に入れてから、それだけの時間が経過している。鈴羽にとっては、ほんの数か月前の出来事でしかないのだが。ラジオ会館から見下ろす景色は、あの頃に比べてずいぶんと変わった。
これから26年かけて、さらに大きく変わる。61年間ものビルの移り変わりを見て来た鈴羽は、感慨深さよりも、自分が他の人とは異なる時間に生きているのだという事実が恐ろしかった。
理解してくれている父やまゆり、フェイリスはいるが、どうしても孤独感は否めない。
ラボで新型脳炎のニュースを見た後、岡部とは少しだけ話した。強引に説得しようとしても失敗するのが目に見えていたから、鈴羽は静かに未来のことを語った。
大切な人がたくさん死んだこと。そして、母が殺されてしまった事。
ラボに由季がいたこともあってか、岡部は申し訳なさそうに鈴羽を見つめていた。だが、結局、タイムマシンに乗ってくれることはなかった。
『タイムマシンを使って世界線を改変するのは、この宇宙の仕組みから逸脱することだ』
岡部はそう言った。
だからだろう、かがりの事を思い出したのは。至にも岡部にもかがりの事はまだ話していない。まゆりにだってそうだ。話せるはずがない。
1998年に、かがりと逸れてしまったなんて。
「どこに行ったのかな……」
至と岡部は、まだラボにいるのだろうか。まゆりと由季が料理をしていたから、きっとそれを食べているのだろう。以前、まゆりの料理を食べて倒れた鈴羽としては、まゆりが料理をする姿を見るだけでトラウマが刺激される。
「未来では、まゆねえさんの料理って、結構おいしかったけどな…」
おそらく、由季がずっと教えていたのだろう。
タイムマシンを何気なく見つめる。
今日は珍しく、至がここに来ていない。至は何度言っても、タイムマシンを調べようとここにやってくる。鈴羽は1日の終わりにここに来ることが習慣になっているが、そのほとんどが至の監視のためだった。
と、屋上の鉄扉が開く音がした。まさか父が来たのか、と薄闇の中で目を凝らした鈴羽だったが、そこに現れた人物は、父よりもはるかに小柄で、頭にネコミミを生やしていた。
「ニャニャ、いたいた~。スズニャン、こんばんはだニャン♪」
「なんだ、ルミねえさんか」
フェイリスニャンニャンが軽やかな足取りで鈴羽に近づいてくる。
「ルミねえさんって誰の事かニャン?フェイリスはフェイリスニャ♪」
「ルミねえさんはルミねえさんだよ」
フェイリスの本名は秋葉留未穂。2036年までいろいろな支援をしてくれることになる人だ。
まゆりたちと同じく、鈴羽にとっては母親代わりの存在だ。未来えではずっとルミねえさんと呼んでいたのだが、この時代ではその名で呼ぶと、かならずフェイリスだと言い直される。
岡部の言では、これを厨二病と言うらしいが、鈴羽には良く分からない。
「ラボにはダルニャンしかいなかったから、こっちかな~と思ったのニャ。はい、差し入れ。余り物で悪いんニャけど」
フェイリスが掲げて見せたのは、彼女が経営するメイド喫茶『メイクイーン+ニャン2』のロゴが入ったケーキの箱だった。
「父さんに食べさせなくてよかった」
こんなものをこの時間から食べさせたら、また太ってしまう。ラボで至に差し出さなかったフェイリスには感謝だ。
「ダルニャンじゃなくて、スズニャンへの差し入れニャ」
「あたしに?なんで?」
「ニャフフ、好きなくせにぃ~♪」
フェイリスはニヤニヤしながら、肘で鈴羽の脇腹を小突いてきた。