STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「あ、あたしは別に…」
「アップルタルトにモンブラン。あと、イチゴのショートケーキもあるニャン?」
「うっ……」
鈴羽は食いしん坊だ。未来とは違い、この時代には食べるものが豊富にある。飽食の時代とまで言われているらしい。
食べられる時に食べられるだけ食べる、がモットーの鈴羽としては、いつでも何かを食べられるこの時代は夢のようだった。そして、至も至で、鈴羽を甘やかそうとこういったスイーツをよく買ってくる。甘いものなんてぜいたく品だと突っぱねていたのだが、勧められて食べるうちに、スイーツには目がなくなってしまったのだ。
「さぁ、今すぐおいしく食べるといいニャ~?心おきなく食べるといいにゃ~?」
「れ、冷蔵庫にしまって明日食べる!」
「ニャハハ、スズニャンはストイックニャン♪」
「………」
フェイリスはイタズラっぽくウインクをすると、タイムマシンを見上げた。
「スズニャンが使命のために頑張ってるのは知ってるニャ。でも、それはそれとして、今この瞬間をもっと楽しむべきなのニャ」
「でも……」
「ダルニャンが言っても、絶対に言う事を聞かないだろうから、こうしてフェイリスがおせっかいをしてるのニャ」
「それは……」
「じゃあこう考えればいいのニャ。使命のためにストイックに頑張る。それ以外の時間は使命のためにエネルギーを補充する。このケーキもそのエネルギー補充のためのアイテムなのニャン!それだったらスズニャンだって食べるのニャ?」
「うぅ……」
「スズニャンはフェイリスの妹みたいなものなんだから、そんなに遠慮しなくていいのニャ。フェイリスがしたくて勝手にこうしてるんニャから」
「ルミねえさん……」
「妹の分際で、姉に盾突こうなんて、10年早いのニャ!ニャハハハ!」
「………ルミねえさんの方が今は年下のくせに」
「ニャフフ。だったらルミねえさんじゃなくて、フェイリスと呼ぶがいいのニャ!」
フェイリスにはどうやっても勝てそうにない。
鈴羽は、こうして気を遣わせてしまっていることに、ある種の罪悪感を覚えていた。
自分が逆の立場なら、未来から来たタイムトラベラーをこうして受け入れる事が出来るだろうか。
「ありがとう」
「ああーん!そんニャこと言われたら、何でもしてあげたくなっちゃうのニャ!なんでもお姉ちゃんに頼るといいニャぞ?」
「…………」
フェイリスには世話になりっぱなしだ。このタイムマシンだって、こんなに大きなものがこれだけの期間置かれていても騒ぎになっていない。
それはフェイリスがラジオ会館の屋上を借り上げてくれたからだ。この秋葉原一帯の名家、秋葉家の跡取りであるフェイリスだが、それをあまり人に話そうとはしない。秋葉の名前で関係性が変わることを嫌がっているからだ。
それなのに、鈴羽のためなら一切躊躇することなく、その力を使ってくれる。それを恩に着せることもなく、こうして励ましてくれてさえいる。
「スズニャン、今日は家に来るといいニャ。晩御飯も食べていくといいのニャ」
「え、それは悪いし……」
「ダルニャンにも声をかけるから、みんなでおいしく食べるニャ!フェイリスも黒木とふたりじゃ寂しいのニャ」
黒木、というのはフェイリスの家で雇われている執事さんだ。鈴羽も何度か会ったことがあるが、恐ろしく出来る人だ。それなりの年齢だろうに、まるで軍人のような動きをする。
「あったかいお布団で一緒に寝てほしいニャ~?ダメかニャ?」
「そ、そう言われると弱いな……」
「それじゃあ、フェイリスのお家にしゅっぱムギュっ——」
「静かに!」
その瞬間、鈴羽は何者かの視線を感じて即座にフェイリスの口を手でふさいだ。その視線に神経を研ぎ澄ませ、周囲の気配を探る。フェイリスがもごもご言っているが、鈴羽は無視した。
耳を澄ます。階下に続く鉄扉の方から、かすかな音が聞こえた。不審な物音に対して敏感に反応するよう訓練を受けてきた鈴羽だったからこそ気づけた……と言えるほどの小さな音。
「誰か、いる…」