STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
フェイリスの口から手を離す。
「多分、話を聞かれた」
「ニャニャ……」
ここでは、タイムマシンのことは口にしなかった。だが、この動きは、間違いなくプロだ。それも、こちらがギリギリ気づくことのできる物音をわざと立てた、という感じ。
「っ——!」
鈴羽は懐から銃を抜くやいなや、鉄扉に向けて全力で駆けた。その途端、扉の向こうからも階段を駆け下りる音が響いて来た。硬質なミリタリーブーツらしき音が大股に遠ざかっていく。
「くっ、速い⁉」
鉄扉を開けて鈴羽も踊り場に飛び込む。そのままスピードを緩めず、3段ほど抜かす走り幅で会談を駆け下りていく。しかし、追い付くことが出来ない。鈴羽のスピードはとんでもなく速い。それこそ、駆け出した瞬間に、フェイリスは鈴羽の姿を見失ったほどだ。
「クソっ…」
ようやくビルの2階まで駆け下りたところで、オートバイのエンジンを大きく空ぶかしする音が響いた。
「まず——」
焦った鈴羽は、階段に置かれていたものに足を取られて踏み外し、残り半分ほどを転がり落ちた。受け身は取ったが腰を床に打ち付けられた。
痛みをおしてすぐに立ち上がり、外へと飛び出す。
走り去っていく大きなバイクのテールランプが見えた。真っ黒なヘルメットとライダースーツに身を包んだ人物がまたがっているが、すでにかなりの距離まで遠ざかっていたため、それが男か女かすら見分けがつかなかった。
歯噛みをする鈴羽をあざ笑うかのように、エンジン音を高く鳴らし、バイクはそのままコーナーを曲がって中央通りへと消えた。
「…………」
「スズニャン!」
しばらくして、フェイリスが追い付いて来た。
「大丈夫かニャン⁉」
「……逃げられた」
「それ!しまった方がいいニャ!」
「あ……」
握ったままの銃を慌てて懐のホルスターに収め、鈴羽は汗で額に張り付いている髪をかきあげた。
「今の、誰ニャ?」
「分からない。けど、一般人じゃない。訓練されてると思う」
「訓練?」
「階段に、何か落ちてなかった?」
「バッグが転がってたニャ」
「ちょうど死角になる位置だった。たぶんわざと落としたんだよ。しかも、あたしがそこを通るタイミングで、エンジンを空ぶかしした。…見事に引っかかったよ」
「トラップってことかニャ…?」
「ああいうことがとっさに出来るっていうのは、特殊な訓練を受けてるからだ。じゃなきゃ、無理」
相手は何者だろうか。SERNか?秋葉原にはIBN5100を探しているというSERNの非公式組織『ラウンダー』と呼ばれる連中が潜伏している。岡部からそう教えられている。
正確には、それは別の世界線での話だということだが。
「誰かは分からないけど、あたしたちの他にタイムマシンのことを知ってる奴がいるのは間違いない」
目的は分からない。今回は手を出してこなかった。マシンを奪うのが目的なのか、相手の出方が分からない以上、最悪の事態を想定しなければならない。
「ん、ルミねえさん。このことは、オカリンおじさんには内密にしておいて」
「ニャんで?」
「今のオカリンおじさんにが知ったら、タイムマシンを破壊しろって言いかねない。危険だからって。でしょ?」
「そうニャけど……」
「あたしは絶対にマシンを守るよ。シュタインズゲートの入り口に、オカリンおじさんを連れて行かなきゃいけないんだから」
「分かったニャ。その代わり、ダルニャンだけにはちゃんと後で話すこと」
「オーキードーキー」
その後、鈴羽は至を電話で呼び出した。3人でフェイリスの家まで行くことになった。至も、タイムマシンの存在を知っている第三者に驚いていたが、結局、有用な対策は思い浮かばなかった。
なぜ、タイムマシンの存在を知られているのか、あれは誰だったのか。鈴羽は一つだけ心当たりがあったが、それを口に出すことは出来なかった。