STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「照れくさかったんだ……」
何しろ、牧瀬紅莉栖という天才少女は、俺にとって憧れのような存在だったから。
『……どういうこと?』
「素直に名前を呼べないから、照れ隠しで、あえて茶化した言い方をした」
『照れくさい?』
「……ああ。オリジナルだけじゃなく、えと……お前と話すのも、だ」
『私?』
「何しろ、モニターの中にいる女の子と話すなんて、一度もない経験だったから」
『なっ、ちょ……。それは、どうも』
「…?なんで赤くなってるんだ?」
『あ、赤くなんてなってないし!ただ、女の子扱いされるなんて、思ってなかったから、ちょっとびっくりしただけで……』
「…………」
そういう反応の仕方まで、紅莉栖そのままじゃないか。
「俺は、お前のそういうところが、す——」
ギクリとした。俺は今、いったい何を言おうとした?この液晶画面に映る、3Dモデリングされた、小さな人の形を模した0と1の集合体に、俺は何を言おうとした?
『ねえ、聞いてもいい?私たち、知り合いだったのよね?ええと、つまり、あんたとオリジナルの私が、っていう意味だけど』
「………っ」
『答えたくないならそれでいいけど。どういう関係だったの?少し、興味ある。クリスティーナって呼ばれても、私は怒らなかった?怒ったけれど、それでも笑って許した?』
「あ……」
「……死にたく……ないよ………」
「うっ…」
強烈な吐き気に襲われた。
目の前に、血まみれの紅莉栖が現れた。冷たい目で俺を見据えている。
「あんたが私を殺したのよ」
「っ…!」
『…どうしたの?ねぇ、顔が真っ青——』
スマホをタップして、一方的に通話を打ち切った。
それと同時に、眩暈に襲われてその場にひざまずいた。
「うう……おえっ」
空嘔吐を繰り返す。手が震える。
そう、事実は、覆せない。なのに俺は“紅莉栖”と何事もなかったように仲良く話している。
紅莉栖と同一視して、自分がかつてしでかしてしまったことから、目を逸らそうとしている。俺は“紅莉栖”に甘えて依存していただけだ。こんなの、歪んでいる。
もう、“紅莉栖”とは話すべきじゃない。
電話が鳴る。
“紅莉栖”からの呼び出しだ。途中で強引に会話を打ち切ったから、きっと怒っているんだろう。
………怒っている?
たかがAIだろう。“紅莉栖”のその怒りだって、ただのプログラムだ。紅莉栖と“紅莉栖”は違う。同一視して目を背けるな。もう“紅莉栖”とは話すべきじゃない。この着信だけでフラッシュバックが起こりそうになる。脳裏に、血に濡れた紅莉栖の顔が浮かび上がってくる。
スマホの電源を…切ってしまおう…。
スマホが沈黙する。
のろのろと立ち上がる。
ルカ子に今の俺を見られたら、また心配をかけてしまうだろう。すぐにここから立ち去った方が良い。少しふらつくが、歩けないほどじゃない。
ひどく喉が渇いていた。