STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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教授たちへの報告の場所は、とあるホテルの一室だった。

 

「それじゃあ、今のところ『Amadeus』とのコミュニケーションはうまくいっているということでいいんだね、リンターロ」

 

「…ええ、会話に齟齬が出る事もありませんし」

 

「ちなみに訊きたいんだが、“クリス”との距離感はどうかな?」

 

「距離感……というと、どういうことでしょう?」

 

「話しているうちに親しくなってきているかどうか、ということだよ」

 

「それは、初めて会話した時に比べれば多少は……」

 

「多少?かなり、の間違いじゃない?」

 

真帆はニヤリちと笑った。

 

「私だってあの子と話してるんだから、それくらい分かるわよ。あの子、最初は8回も居留守を使われたって怒っていたほどなのに。今じゃすっかりフレンドリーになっているもの。それだけ距離が縮まったということでしょう?」

 

それは、そうかもしれないが……。

 

「そうですか!それは素晴らしい!」

 

真帆の言葉を聞いて、教授は大げさに喜んでみせた。

 

「私は期待しているんだよ。彼女が君に対して友情を——もっといえば、恋愛感情を持ってくれないか、とね」

 

「れ、恋愛感情⁉」

 

「ははは。そんな声を上げる事もないだろう」

 

「でも、その……AI、ですよ?」

 

「AIだからだよ。彼女にだって感情はあっただろう?」

 

「ええ、だけどそれは、あくまでもプログラム上のことで……」

 

そのプログラムに対して、オリジナルの紅莉栖に向けていたものと同じ感情を向けそうになった。だからあんなにも恐ろしくなったんだ。

 

「確かに。あれを感情だと言い切ってしまっていいものかどうかはまだ分からない。でも、それは人間の脳だって同じことじゃないかな?」

 

それはそうだ。人間の脳も電気信号で動いているのだから、構造としては同じだと言える。

 

「機械に感情があるのかないのか、それを議論することさえままならない人もいる。だが、私たちはあるという前提に立って研究をしているんだ。『Amadeus』は人の脳を再現するべく設計した。構造が同じでプロセスが同じなら、その結果生み出される物も同じなはずだろう?」

 

観測される結果に重きを置けば、確かにそうだ。

 

「私はね、彼女にだって恋をする可能性は充分にあると考えているんだ。研究をそっちのけで個人の思いを言うなら、私はぜひ、“クリス”には恋をしてもらいたいね。可愛い私の教え子だったのだから」

 

研究者としての好奇心に見え隠れする教授の人間性を見れた気がする。やはり紅莉栖は真帆からも教授からも愛されていたようだ。

 

「おっと、こんなことを言ってはマホに恨まれてしまうかな?」

 

「ちょっと!教授まで“紅莉栖”みたいなことを言わないでください!」

 

「ハハハ、冗談だよ冗談。リンターロ。マホは怒ると怖いから、気を付けた方がいいよ」

 

「ええ。それはもう分かっています」

 

「二人とも……」

 

「Oh!そう言えば私はジュディに連絡をしなければならないんだった。リンターロ、少し失礼するよ」

 

………逃げたな。

 

「まったく、“紅莉栖”といい教授といい、どうしてなんでもかんでもすぐに色恋沙汰に結び付けたがるのから」

 

「まったくだな」

 

“紅莉栖”に関しては恋愛脳のスイーツ(笑)だとして、教授は多少の親心もあるのかもしれないが。

 

「あ、そうだ。岡部さん。ちょっと訊きたいんだけど。あの子が……紅莉栖が好きそうな言葉って、何か知ってる?」

 

「言葉?」

 

「数字でもなんでもいいの。何かこう……キーになりそうなものに心当たりはないかしら?」

 

「えっと、研究、実験……あ、それよりも人体実験だろ。それから……」

 

「人体実験って……」

 

苦笑いしながらも、否定しないあたり、あいつは真帆の前でも実験大好きっ子だったんだろうな。

 

「それに比屋定だろ?真帆だろ?あとはそうだな……」

 

「ちょ、ちょっと!何よそれ!」

 

「え?あいつの好きそうな言葉だろ?そりゃあ最初に思い浮かぶのは比屋定さんだと思ったんだが」

 

「どうして私がそこで出てくるのよ!」

 

α世界線で真帆の存在についてあいつから聞いたことはなかったが、“紅莉栖”と話していれば分かる。あいつは真帆のことが大好きだ。同じ日本人だし、先輩としてすごく慕っていたのだろう。

 

俺に対してはかなりぞんざいな話し方だが、真帆に対してはどこまでも丁寧に話している。

 

「それはそうと、どうしてそんなことを聞きたがるんだ?紅莉栖が設定したパスワードを破ろうとでも?」

 

「よく分かったわね」

 

悪びれもせずに真帆は認めた。マジかよ……。

 

「それは研究室のPCとかなのか?」

 

「いえ、あの子の私物よ。あの子の家にあったノートPCよ」

 

「そんなものをどうして君が?」

 

「紅莉栖のお母さんにね、譲ってもらったのよ。形見分けでね。私、お母さんにはかなり可愛がってもらっていたの。よく家にも招待されたわ」

 

気難しい紅莉栖に良く似た性格の真帆だ。おそらく我が子のように可愛がっていたのだろうな。

 

「それで中身を確かめたいから、パスを解除する方法を探しているの。あなたなら知ってるんじゃないかと思って」

 

「パスがかかっているということは、見られたくないものなんじゃないか?」

 

「それはそうだけど……」

 

真帆には知られたくない秘密なんて山のようにあるだろう。@ちゃんねらーであることなんか、特にバレたくないはずだ。“紅莉栖”もスラングをたまに使っているが、それを指摘すると分かりやすく誤魔化そうとするしな。ドライブなんて見られた日には、悲鳴が聞こえてきそうだ。

 

「でも、彼女を……『Amadeus』の“紅莉栖”をより本物に近づけるためには、その中のデータも解析した方がいいでしょう?もちろん、私自身はなるべくプライバシーに関わる事は見ないつもりよ」

 

真帆の言う事は分からなくもない。だが——。

 

「悪いけど、心当たりはないよ」

 

今の真帆の態度に、何か嘘めいたものを感じた。

 

純粋に、『Amadeus』のために知りたがっているわけではない。根拠はないが、そんな気がした。

 

「何も?」

 

「ああ。それに知っていたとしても、やっぱり俺は教えないと思う」

 

「人には知られたくないことがあるから?」

 

「そうだな。せめて、『Amadeus』の“紅莉栖”には聞いてみるべきじゃないか?AIとはいえ、あいつは紅莉栖の分身のような存在なんだし」

 

「……ええ、そうね」

 

半年以上前の記憶から派生した別の存在ではあるが、紅莉栖に最も近いのは、“紅莉栖”だ。せめてあいつが許可を出したのなら——。

 

「そういえば、もうすぐクリスマスだが、比屋定さんはクリスマスもこっちにいるのか?」

 

「ええ。こっちでまだやることもあるから」

 

「誰かと過ごしたりは……?」

 

「えっ?」

 

「あ、いや、ほら、海外のクリスマスって、友達みんなと楽しくパーティでもするってイメージだからさ」

 

「残念だから、そういう予定はないわ。相手だっていないし。それに、アメリカやヨーロッパではクリスマスにパーティなんてやらないものよ」

 

意外だった。

 

「そうなのか?」

 

「彼らにとってクリスマスは神聖な日でしょう?だから家族と一緒に過ごすのが普通よ。大みそか大騒ぎするけれどね」

 

そういえば、クリスマスって宗教的なイベントなんだよな。日本では、ただただ騒ぐイメージしかないが。

 

「ま、こっちには家族もいないから、どっちにしても一人という事に変わりはないんだけどね」

 

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