STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「実はさ、あたしが乗って来たタイムマシンには、もう一人同乗者がいたんだ」
「なんだって?」
「ちょっ、鈴羽!そんなん初耳なんだけど」
「今まで話してなかったからね」
俯いた鈴羽の表情には、明らかに後悔の念が表れていた。
「その同乗者は何者だ?今どうしてるんだ?」
「どうしているかは……分からない」
「分からない?」
「はぐれちゃったんだよね。1998年に。ここ秋葉原で」
1998年……今から12年も前だ。未来から来たのは鈴羽だけではなかった。その意味が頭の中に浸透していくまでには、いくらかの時間が必要だった。
「でも、なんでそんなことになったん?」
「あたしとその子は、IBN5100を探すためにはじめ1975年に跳んだんだ。理由は……おじさんなら分かるよね?」
俺は黙って頷く。
「なんとか無事にIBN5100を手に入れたあたしたちは、今度は1998年に跳んだ。2000年問題を解決するミッションのためにね」
「2000年問題……」
20世紀末に、ノストラダムスの大予言とともに騒がれていた問題だ。α世界線の鈴羽も言っていた。α世界線では、SERNが解決していたんだったな。
「その1998年にトラブルが起きて、その子とはぐれちゃったんだ。あの子は自分から飛び出していった。あたしも、燃料の残量が許す限り、何度も細かいタイムトラベルを繰り返してあの子を捜しまわった、でも……」
結局、これまで見つからなかったということか。
それでこの時代へとやってきた。そしてIBN5100はラボへと託された、と。
「だいたいの事情は分かったけどさ。どうして今までそんな大事なことを黙ってたん?」
「あの子を見失ったのは、あたしの落ち度だ。ちゃんと自分で責任を取りたかったんだ」
「……水くさいな」
俯いたまま肩をすぼめた鈴羽に、ダルが優しく声をかけた。
「ボクたち親子だろ?困ったときは頼ってほしいのだぜ」
「父さん……」
「その子を探せばいいんだろ?だったらボクらも手伝う。な、オカリン」
その子がはぐれてしまったのも、先ほどの世界線変動が関係しているかもしれない。
「あ、ああ」
鈴羽にはずっと後ろめたい気持ちがある。世界を救えという要求を断り続けているからだ。その子を探すのを手伝うことで、少しでも気が楽になるのなら……。
「で、その子の名前と年齢は?ちなみに可愛い女の子だよね?男とか言ったら父さん許さないぞ?」
「女だよ」
「おk。名前とスリーサイズもよろ」
「スリーサイズ?測ったことないから分からないよ。別れた時のあの子は10歳だったし。それって探すのに必要なわけ?」
「ようじょ、か……」
ダルは適当に誤魔化した。鈴羽も純粋なんだな。疑ってない。
「じゃあ今は、22歳になってるはずだな」
10歳の少女が、一人で12年もの間、無事に暮らせるだろうか、という疑問もあるが。
「名前ぷりーず!」
「名前はかがり……椎名かがり、っていうんだ」
「椎名……?」
当然のように、その名前に引っかかりを覚えた。未来のダルたちのまわりにいて、椎名という名前を持つという少女。
「鈴羽……まさかその子って」
「うん。彼女の母親の名は——椎名まゆり。かがりは、まゆねえさんの子どもなんだ」
まゆりの…。いや、まゆりにだって、当然そういう未来はあるだろう。でも、考えてもみなかった話に、俺は思った以上の衝撃を受けていた。
子どもがいるということは、相手もいるということだ。
……誰だ?
俺ではないということは確かだ。俺は2025年に死んでしまうらしいからな。とすると、ルカ子か?あいつはあれでも男だ。まゆりとなら……そういうこともありえる。
ん?待てよ。2036年時点で10歳なら、生まれたのは2026年頃。俺が死ぬのは2025年。ありえない、ということもないのか?いや、だが、そんなことが……。
「ち、ちちちち……」
父親は誰だ⁉とはさすがに聞けなかった。
「あれ?ちょい待ち!椎名ってことは苗字はそのままってことだよね?つーことは……」
「かがりは戦災孤児だよ、身寄りがなかったあの子を、まゆねえさんが引き取って育てたんだ」
「あー、なんかそれ、まゆ氏らしいかも」
それを聞いて、二重の意味で安心している自分に気付き、ほんの少し自己嫌悪に陥った。
まゆりとは、常に一緒にいるから、あいつに彼氏ができる、結婚をする、というのが想像できない。いや、当然、いつかはそうなるはずなんだ。
だが——。
「あたしはまゆねえさんから、かがりを頼むって言われたんだ。だから、こんなことになっちゃいけなかった。あの子はいつだってまゆねえさんにべったりだったし、この時代には知り合いなんているはずもないから、きっとずっと心細い思いをしてるはずなんだ…」
「その子とはどうしてはぐれたん?さっき、トラブルって言ってたけど」
わずか10歳でタイムトラベルをしてきて、頼れるのは鈴羽だけ。それなのに、鈴羽を振り切って自ら飛び出していくとは考えにくい。
「あたしにも分からない。ただ、過去に跳んでからのかがりは、精神的にかなり不安定だった」
それは無理もないことだ。
「その子の写真かなにかはある?」
「あ、うん…」
鈴羽が差し出したよれよれの写真には、2人の女性が映っていた。1人は大人の女性。顔は映っていないが、20年後のまゆりだろう。
まゆりの影に隠れるようにして、怯えた表情をしているもう1人の少女。その子が椎名かがり。
「……この子が22歳に成長しているわけか。いまいち想像がつかないな」
生きていれば、の話だが。先ほども思ったように、一人で生きていけるとは思えない。うまくどこかの施設に保護されていればあるいは…と言ったところだが。
そうでない場合は——。
鈴羽もその可能性については言及しなかった。
「まゆりの養女……か」
見つけてやりたい。鈴羽への後ろめたさなどという理由ではなく。