STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「おじさん、さっきの桐生萌郁って人の事、知ってたんだね?」
「え?」
萌郁が出て行ったあと、鈴羽にそう言われてドキリとした。
「マジで?オカリン、いつの間に?」
「……どうして、そう思ったんだ?」
「見ていれば分かるよ」
さすが、修羅場を生き抜いて来た人間だ。鋭い。
「いや、知らない人だ」
「…α世界線では、知ってた?」
「っ!」
「分かった。これ以上は聞かないけど、あたしなりに警戒しておくよ」
「………それでいい。今はな」
「一体どういうことだってばよ?」
「……緊張したってことだ」
「分かるわ~。桐生氏は美人で居乳でスタイル抜群でメガネ属性まで持ってるもんな~。しょうがない」
「……そうだな」
「おじさんまで……」
2010年12月20日(月)
和光氏のオフィス。誰もいないのをいいことに、真帆は盛大なあくびをしていた。
分かりやすく寝不足だ。というのも、昨晩、遅くまでオフィスで“紅莉栖”と話し込んでしまったためである。
“紅莉栖”は岡部が通話を切ったことや、何度かけても出なかったことにご立腹だったのだ。以前、8回も居留守を使われたこと以上に怒っていた。それを好機と思って、真帆は“紅莉栖”をからかい倒したのだ。いつもの仕返しである。
話を終えてからも、眼が冴えてしまい、紅莉栖のノートPCのロックを外せないか、ずっと考えていた。気づけば朝になっていたのだ。
「プロにでも頼むべきかしらね……」
「うん?何を頼むんだい?」
「ひぁっ!」
後ろから突然かけられた声に、真帆は飛び上がった。
「おや、どうしてそんなに驚いているんだい?何か悪い事でもしていたのかな?」
レスキネンだった。
「もう、どうして教授はいつもいつも、そうやって私を驚かすんですか!」
「ははは。別に私は普通に入って来ただけさ。ただいまとも言ったんだ。気づかなかったのはマホのほうだろう?」
「というか教授、帰って来るの早くないです?お昼を食べに行ったんじゃ……」
と、レスキネンの手にビニール袋が提げられている。
「ニッポンのコンビニは素晴らしいね。ベントーにしても、たくさんの種類がある。それに一週間もすれば新しい商品に入れ替わっている。毎日ベントーでも、飽きる事がないね」
それは真帆も感じていたことだ。時間があれば研究に打ち込むのが研究者。わざわざ食べに行くのも面倒で、近くのコンビニで済ませてしまうことが多いのだ。
「アメリカのものより、どれもヘルシーですしね」
「アメリカに帰りたくなくなってしまうよ。こんなにも気軽にニッポンの味を楽しめないからね」
アメリカ生まれアメリカ育ちとはいえ、比屋定の一族の中で育った真帆は、アメリカでも日本食を食べることがおおい。アメリカに帰ったら、一度レスキネンを招待してやろうと思った真帆だった。
「ところで真帆は、どこかに行くのかい?」
「え、ええ。ちょっと気分転換に秋葉原にでも……」
「アキハバラ?ちょっとというには結構遠くまで行くんだね~」
「うっ……」
「ははは。素直にリンタロ―に会いにいくと言えばいいのに」
「ちょっ!別にそんなんじゃありませんって!」
「“クリス”にもさんざん言われていたじゃないか。春ですねって」
「あの子は何でもかんでもそういうことに結び付けないと気が済まない病気なんです!」
「ハハハっ!病気ときたか。年頃のレディには当然のことさ。真帆だって、ほとんど年齢が変わらないんだから、そういうことに興味を持ってもおかしくないんだけどね」
「私は研究で精一杯ですから」
「これ以上言うと、真帆に怒られてしまいそうだから、このくらいにしておこう。今日は特に予定はないから、午後からはゆっくりするといい」
「…ありがとうございます」
「ジュディもいないし、今日は私もゆっくりしようかな」
「レイエス教授が?今日は休みなんですか?」
レイエス教授とは、真帆が所属する脳科学研究所の隣、精神生理学研究所の教授だ。真帆たちと同じく、ヴィクトルコンドリア大学から学会のために日本に来ている。
「研究に行き詰ったと言って、気晴らしに出かけたようだよ。昨晩、ディナーの時にそう言っていた」
東京の方に観光に行っているのだろうか。もしかしたら、会うことがあるかもしれない。
「では、リンターロによろしく」