STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「これは……?」
無言で差し出された紙を受け取りながら、俺は萌郁に訊ねた。
萌郁からラボに向かうと連絡があったのがつい10分ほど前。その宣言ピッタリに、萌郁はここに現れた。連絡する前からこの近くにいたのだろうが、誰もいなかったらどうするつもりだったんだろうか。
「……報告書」
どうやらこれまでの調査の結果を記したものらしい。
手にした紙の束が僅かに震える。
先日に比べるとまだマシだが、萌郁を前にすることに、俺はまだ不安や緊張がある。
「どう、おじさん」
人前でおじさんというのは控えろ、と何度か注意したのだが、一向に治る気配がない。同じ年齢なんだから、怪しまれるに決まっているだろう。まぁ諦めているが。
「やっぱり、そう簡単に見つかるもんじゃないな……」
「そう…」
少しは期待していたのだろう。鈴羽の声には明らかな落胆があった。
「かがり……どこで、何をしているんだろう…」
その疑問に答えられるでもなく、俺はただ黙って報告書を捲る。
「ん?」
「どしたん、オカリン。なんか有力な手掛かりでもあったん?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……」
「見せて」
俺は鈴羽に報告書を手渡した。気になった個所を指で指し示してやる。
「調査の中でひとつ、興味深い事実が浮かび上がった。この1、2か月の間で、椎名かがりという名の女性を捜している人物が、私たち以外にも存在するらしいということ」
鈴羽が俺の顔を見る。
「どういうこと?」
「……読んだままの通り」
と、いうことは——。
その時、俺の施行を遮るように着信音が鳴った。いつもならスルーしているところだが。
「悪い。ちょっといいか?」
何やら胸騒ぎがした。
「もしもし?」
『もしもし岡部さん!私、比屋定です!』
ひどく切羽詰まった声に、急激に緊張感が高まり、こちらの声も自然と大きくなる。
「どうしたんだ比屋定さ——」
『今、あなたのラボのすぐ近くまで——』
直後、なにか揉み合うような音と、ぶつかるような音が聞こえ。
「比屋定さん⁉比屋定さん、どうした⁉」
そしてそのまま声は途切れた。
「………」
「オカリン?何かあったん?」
あの声、何か良くないことがあったのは明白だ。
「知り合いが誰かに襲われているっ!」
「ちょ、マジ?知り合いって誰?」
それ以上ダルの問いかけに答えるのももどかしく、俺は手近にあった武器になりそうなものを掴むと、ラボを飛び出した。
ラボから目と鼻の先の路地。そこに人の姿を見つけた。すらっとした長身の人物。その向こうに小さな人影が蠢いているのが見える。
あれは——。
「やめて……放してってばっ……!」
真帆だ。真帆が何者かによって抑えつけられ、逃れようと必死でもがいている。
「比屋定さん!」
「え?」
俺の張り上げた声に、真帆を抑え込んでいた人物が驚いて振り返る。
(女……?)
そこではじめて、そいつが女で、更には日本人じゃないことに気付いた。
「岡部……さん?」
「おい、比屋定さんを離せ!」
「………」
言葉が通じていないのか?いや、でもだいたいの意味くらいは雰囲気でわかるはずだ。
「その子を……離せ!」
俺は手にした得物を構え、凄んで見せた。よりによって持ってきたものが、サイリウムセイバーだったことにようやく気付いたが、それでもハッタリくらいにはなるだろう。
「もう一度言うぞ。その子を——」
「違うの岡部さん」
「…え?」
違う?何が?
「Oh~!」
すると女は抱えていた真帆を離すと、満面の笑みを浮かべ、両手を広げてこちらへと近づいて来た。
「Are you Maho`s boy friend?」
「はぁっ?え、あ…ちょっ……」
どういうことだ、と声を上げるよりも早く、彼女の両手が俺の背中に回され、がっしりとハグされていた。
「だから違うって言ってるのに……」
何がどうなっているのかも分からず、ただ胸元に押し付けられた弾力のあるふくらみに、おれはただなすがまましばらく立ち竦んでいた。