STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「それじゃあ、この人は比屋定さんの知り合いなのか?」
「ごめんなさい。私が早とちりしたせいで……」
真帆はものすごく気まずそうな顔をしている。
「I`m Judy Reyes. Pleasure meeting you, Mr. Okabe」
ジュディ・レイエスという名の女性は、太陽のような笑みを浮かべて右手を差し出した。
「あ、ええっと……ナイス・トゥ・ミーチュー……」
「ふふ、日本語でいいわよ」
「え、教授って日本語喋れたんですか?」
「ええ。向こうでは話す機会もなかったけど」
「知らなかった……。でも、どうして?」
「フフ、女もワタシくらいの年齢になると、いろいろあるのよ」
悪戯っぽいウインクがかなり様になっていた。
「それじゃあ改めて、ジュディ。ジュディ・レイエスよ。よろしくね」
再び差し出された手を、俺はしっかりと握り返した。
「お、岡部倫太郎です」
「レイエス教授は、こんど日本で開かれるAI関係の学会に出席するために来日したんですって」
「教授っていうことは、ヴィクトルコンドリア大学の?」
「psychophysiologyを研究しているわ」
「サイコフィ……?」
「精神生理学のことよ。つまり、脳の活動によってもたらされる心の働きとか心の病気なんかについて研究をされているの。そういう意味では、私たちの研究よりもずっと人の役に立つ研究をされていると言っていいかもしれないわね」
「そんなことないわ。あなたたちの『Amadeus』だって、これからの発展次第では充分に役に立つ技術になるわよ」
「そう言っていただけると嬉しいです」
レイエス教授が、偶然秋葉原で真帆を見かけて、抱きしめて驚かせた、という話だったようだ。
「でも教授も人が悪いですよ。駅からつけてくるなんて」
「つける?マホを?私が?」
「ええ。ずっとついて来ていましたよね?」
「そんなことしてないわ。ワタシはさっきそこのショップでたまたまマホを見つけたから、ちょっと驚かそうと思っただけよ」
「…え?」
どうやら、事情が違ったらしい。
安心しきっていた真帆の顔色が変わった。
「比屋定さん。つけられていたのか?」
「ええ、確かにそう感じたんだけど……」
「…レイエス教授、誰か怪しい人物を見かけたりは?」
「…………」
教授は肩を竦める外国人特有の仕草で否定した。路地の向こうを振り返っても、当然それらしき人影はない。
「…じゃあ、私の勘違いだったのかしら」
「きっとそうだわ。だってニッポンは世界一治安のいい国でしょう?」
そう、なんだろうか。
「マホはこの後どうするの?」
「私は……」
それ以降は口にせず、俺を見上げた真帆に、レイエス教授は何かを感じ取ったのだろう。
「ンふ。なるほどそういうこと。こんなおばさんがいたんじゃお邪魔よね。リンタロもそのうちゆっくり話しましょ?うちの可愛いマホのボーイフレンドさん」
と、真帆には聞こえないように俺の耳元でささやいて、教授は颯爽と去って行った。
ああ。完全に勘違いされてるな、これは。
レスキネン教授といい、レイエス教授といい、“紅莉栖”といい、俺と真帆をくっつけたくて仕方がないみたいだ。