STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「というわけで、彼女が比屋定さんだ。ほら、前にセミナーで会って話したことがあっただろう?」
「お騒がせしてごめんなさい」
成り行きで真帆を連れてラボに戻ると、皆が俺の帰りを待っていた。
「ま、でも何事もなくてよかったお」
一通り説明と紹介を終えると、全員が息をついた。
真帆はラボに付いて色々と聞きたそうにしていたが、俺には先に済まさなければならない話があった。
「すまない。こちらの事で話が途切れてしまって。ずいぶん待たせてしまった」
「………構わない」
萌郁は本当に気にした様子もなかった。というか、これっぽっちも表情が変わらなかっただけなんだが。
「それで、どこまで話したんだったか……」
「かがりたんを捜している人間が、他にもいるって話」
「そう、それだ!その、それは本当なんですか、桐生さん」
「……本当」
再び調査書に目を落とすと、詳細が書いてあった。
萌郁は裏を取るために、興信所まで使ったそうだ。ということは、それだけ信憑性も高くなる。
「それが鈴羽、という可能性はないんだろうか?」
「それはあたしも考えた。でも……」
「捜していたのは、男の人……中には、外国人も」
外国人?それがなぜかがりを捜す?
「こっちでかがりと関わりがあるのは、あたしだけだ。それなのに、いったい誰が……」
もしかしてSERNか?
そもそも、萌郁が僅か3日でここまで調べた、というのも気になる。この世界線でもラウンダーであることに変わりはないはずだから、ラウンダーの力を使って調べたのだろうか?
萌郁の調査結果をあまり否定するのもよくない。俺たちの持っている情報がSERN側に伝わる可能性もある。
「椎名かがりは、こっちに来てもう12年にもなる。その間、知り合いが出来たとしてもおかしいことじゃないな……」
「つーか、むしろ誰かの世話にならんと生きていけないっしょ」
だが、逆にはっきりしたこともある。
「椎名かがりを捜している者がいるってことは、椎名かがりは生きている、ということだ」
鈴羽が驚いた顔を見せた直後、とても嬉しそうに笑った。
誰かの世話にならなければ、かがりは生きていけない。そして、現在、かがりを捜している連中がいる。そのふたつのことから、かがりはその連中の元にいたが、そこから消えるか逃げるかしてしまったのではないか、という仮説が立てられる。そして、それは決して表の世界の連中ではないはずだ。
かがりがどこかの施設で保護されていて、そこから脱走したのなら、警察が動いているはず。だが、萌郁の報告にはそんなことは書かれていない。
(かがりはどこかで捕まっていた……とか?)
「どう……する?」
萌郁の声で我に返る。
「……引き続き、調査をお願いできますか?」
かがりを捜している連中が秋葉原界隈にいるということは、やはり、かがりもこの近辺にいるかもしれない。
「……わかった」
萌郁はひとまず、ここまでの報酬を受け取ると、ラボを後にした。
支払いに関しては、ひとまずはダルがしてくれた。娘のためだ。財布も緩くなるようだ。
「人を捜しているの?」
それまで、物珍しそうにラボの中を見回していた真帆が訊いた。
「ああ、ちょっと知人をな…」
「それじゃあオカリン。そろそろ比屋定氏のことをkwsk」
「詳しくって言われても、前に説明したぞ?」
彼女がレスキネン教授の助手をしていて、教授ともども懇意にさせてもらっている。たまに研究の手伝いもさせてもらっている。そんなような説明は前にもしてあった。
「そんなんはどうでもいいって。それよりも、たとえば比屋定氏がこのラボのメンバーに加わってくれる、的な超展開はありますか?」
「…ないだろ」
大学所属の研究者が、こんななんちゃってラボに入る意味がない。というか、いずれはアメリカに帰るだろうし。
「じゃあせめて、真帆たんと呼んでもいいですか?つーか呼ぶ」
「真帆……たん…?」
「あれ、名前間違ってた?」
「そうじゃなくて!その変な呼び方に引っかかったの」
「でも、真帆たんは真帆たん、って感じじゃん。なぁ、オカリン?」
「俺に振るな…」
「とにかく、その呼び方はやめて」
「だが、断る」
こいつはブレないな…。
「それで比屋定さん。今日はどうしてラボに?俺、ここのことは君に話したかな?」
「『Amadeus』に教えてもらったわ。今日は、本来は話したいことがあったのだけれど、まあいいわ。噂のラボを見る事が出来たし、それに、なんだかあなたたちも大変みたいだから」
「ひょっとしてあいつ、怒ってたか?」
「ええ。とても。連絡しても出ないって」
予想通り、だな。
「え?ちょっ、なになに?それ何の話?」
「別に、お前の想像するような浮いた話じゃないから、いちいち反応するなって……」
鈴羽の言葉じゃないが、ダルは由季さんだけに集中していればいいんだ。
「……岡部さん、やっぱり辛いの?だったらテスター、やめてもらっても」
「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ……」
あいつの存在に、依存してしまいそうな自分が嫌で。
「……また、気が向いた時にでも話してあげて。あの子も寂しがってるわ」
「……分かった」
寂しがっている、という言葉に少しだけ心が痛んだ。それでも俺はこの日も、“紅莉栖”と会話する事はなかった。