STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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第五章 軌道秩序のエクリプス
(1)


2010年12月23日(木)

 

 

「どうだ?少しは落ち着いたか?」

 

「はい……おかげさまで」

 

鈴羽に『椎名かがり』という名を突き付けられ、気を失って倒れたカナは、ルカ子たちの介抱の甲斐あって、10分ほどで目を覚ました。とはいえ、まだ顔色は良くない。

 

「ルカ子……それに、まゆり。すまないが、何か冷たいものを買ってきてくれないか?」

 

「え?」

 

「それから、額に貼る冷却シートのようなものもあると嬉しい」

 

ルカ子には悪いが、ふたりにはあまり聞かせたくない話になるかもしれない。

 

「うん。わかった~。行こう。るかくん?」

 

「あ、うん…」

 

さすがにルカ子はこちらの話を気にしているようだったが、それでもまゆりに言われて一緒に買い物に向かってくれた。

 

 

 

「かがり、お前、今までどこで何をしていた?」

 

いきなり、鈴羽が睨むように言葉を突き付ける。

 

「え…?」

 

鋭利な刃物を感じさせる口ぶりに、カナが怯えた色を見せる。

 

「いったいどういうつもりであの時——」

 

「待て鈴羽。彼女は記憶を失ってる」

 

「なんだって…?」

 

 

 

俺はカナがここに来るまでの経緯を説明した。

 

「記憶喪失……それじゃあ、どこで何をしていたかも…」

 

「ああ。でもその前に確かめなければならない事がある」

 

本当に、彼女が椎名かがりなのか、ということだ。

 

「カナさん」

 

「あ、はい…」

 

「さっきしていた話は覚えているか?」

 

「はい…」

 

「どうする?続きはもう少し落ち着いてからにするか?」

 

「いえ、大丈夫です…」

 

うーぱを握りしめた手に力が籠るあまり、指先が白くなっている。が、鈴羽を見上げたその目には、しっかりとした光が灯っていた。

 

「じゃあ、さっきの話を続けよう。鈴羽。お前が彼女をかがりだと言うその根拠はなんだ?」

 

鈴羽はかがりが握りしめる、うーぱをじっと見る。

 

「そのうーぱだよ。それは、かがりが肌身離さず持ってたものなんだ。ママに貰ったんだって、お守りだって、ずっと大事にしてた」

 

ゆっくりと開いたカナの手の上で、小さな古びたうーぱがとぼけた顔で俺たちを見つめていた。

 

ママ——まゆりに貰ったもの。

 

「そのうーぱだけが、自分が持っていたものだって言ってたが…」

 

「はい。記憶を失くして倒れていた私が、ただひとつ手にしていたのが、このキーホルダーだったそうです」

 

「倒れていた?」

 

「はい…」

 

「どの辺りで倒れていたんだ?」

 

「千葉の、山道です。県境当たりの。近くのお寺の住職さんが、偶然通りがかって見つけてもらったそうで……。その後しばらくはその方のお寺でお世話になっていたんです。ですが、お寺は修行の場でもあるので、長く女性を置いておくこともできないと…」

 

「それで、ルカ子の家に……というわけか」

 

「はい。その住職さん、るかくんのことを女の子だって思っていて。それで、年の近い女の子のいる家なら私にとってもいいだろうって」

 

「くっ……盲点だった。まさかこんな近くにいたなんて……!」

 

おそらく、数日前にルカ子が言っていた客というのがその住職なんだろう。ということは、かがりは柳林神社にその頃からいたということになる。そんなこととは露知らず、俺たちはただ闇雲に椎名かがりを捜しまわっていた。灯台下暗しとはよく言ったものだ。

 

「それで、カナさん。君は、かがりという名を聞いて、なにか思い出すことはないか?」

 

「正直を言うと、よく…分かりません。ただ、すごく懐かしい感じがします。それに…」

 

彼女は鈴羽の方をチラリと見た。

 

「先ほどの方…」

 

「まゆねえさんのこと…?」

 

「まゆ…ねえさん?」

 

「あの子は、椎名まゆりと言うんだ」

 

まゆりの名を聞いて、すごく安心したような顔を見せる。

 

「まゆり…さん。あの方を見たとき、なぜだかとても…温かい気持ちになりました」

 

彼女がかがりだとしても、歳をとってからのまゆりしか知らないはずだ。だが、面影は残っているんだろう。何か感じるものがあってもおかしくはない。

 

「ねえ、それ。もう一度見せてもらえるか?」

 

「あ、はい…」

 

言われたままに、すっかり古びてしまったうーぱを差し出した。

 

「うん。やっぱりこれ…かがりが持ってたものだよ」

 

「……では、私はその……椎名かがり、という名前だったんでしょうか?」

 

「そうだな。まだ確証があるわけじゃないが、そう考えるのが妥当だと思う」

 

「いや、間違いない。彼女はかがりだ。そのキーホルダーが何よりの証拠だよ。まゆねえさんがかがりにあげたものなんだから。でも、よりによって、記憶喪失だなんて…」

 

キーホルダー自体はおそらくかがりのものだろう。だが、もしかしたら彼女が椎名かがりから貰ったものかもしれないし、落ちていたものを拾ったということも考えられる。

 

もっとも、鈴羽によれば、かがりはあのキーホルダーをとても大事にしてたそうだ。落とすのはもちろん、人にあげるのも考えられなという。ということはやはり……。

 

その時、入り口のドアが開き、室内の様子を窺うように、まゆりが顔を覗かせた。

 

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