STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「……トゥットゥルー~?」
「あの……大丈夫、ですか?」
「ああ、悪かったな。わざわざ」
ビニール袋に入れられた飲み物や、冷却シートが机の上に並べられる。
「それで、その…」
買ってきてもらった手前、飲み物に一口つける。そのタイミングを見てルカ子が恐る恐る口を開いた。
「カナさんは……その、阿万音さんの知り合いの、かがりさんという方だったんでしょうか?」
「そう、だな。そう考えるのが妥当だと思う」
「そうですか!よかったです。名前だけでも分かって…」
「るかくん……」
心の底からホッとした様子のルカ子に、かがりの表情が優しく緩んだ。
「あ、でも、それなら。阿万音さんはかがりさんの本当のお家を知っているんでしょうか?」
「え?いや…それは……」
「す、鈴羽は、かがりさんと子供の頃ご近所だったそうだ。でも、12年前に引っ越してしまって、それからの行方が分からなかったらしい。そうだな?」
「そ、そうなんだ。それで最近急に懐かしくなって、オカリンおじさんに相談してたんだよ」
鈴羽は誤魔化し方が下手だな。ルカ子には事情を隠すように頼んだのは俺だが、誤魔化すならもう少しうまい演技を……。というか、俺だけおじさんなのは何故だ?まゆりもフェイリスも、ルカ子もにいさん、ねえさん呼びなのに。
「そういうことだから、鈴羽もかがりさんがどこに住んでいるか、とかそういうのは分からないらしい」
「そう……なんですか…」
今はそういうことにせざるを得ない。今の彼女に、2036年からタイムトラベルをしてきた、などと言えば混乱するのは必至だ。
「あとは彼女が記憶を取り戻してくれれば、なにがどうなっていたのか全て分かるはずなんだが…」
自分の名前が分かり、既知の仲である鈴羽と、彼女が慕っていたというまゆりがいる。なにより、まゆりの存在は大きいはずだ。
「えっと、かがりさん?」
「は、はい!」
まゆりの呼びかけに、かがりが緊張した面持ちで応える。
「かがりさんの上のお名前はなんて言うのかなぁ?さっきはよく聞こえなくて。だから、よかったら教えてほしいな」
「その…岡部さんたちのお話だと、椎名、と」
「わぁ~!じゃあまゆしぃと一緒だ~!まゆしぃもね、椎名って言うの。椎名まゆり~」
「椎名…まゆり、さん」
「うん。嬉しいなぁ。まゆしぃ、同じ苗字の人に会ったの、はじめてだよ~」
「そう、なんですか?」
「うんっ!だからこれからよろしくお願いします」
「は、はい!こちらこそ…」
まゆりのコミュニケーション能力の高さはなんだ?これで初対面とは恐れ入る。
上手くいけば、何かのきっかけで記憶が戻る事もあるかもしれない。
「るかくんから聞いたんだけど、かがりさんは、記憶喪失…なの?」
「はい……」
「それって、自分が誰かも忘れちゃうってことなんだよね?」
「はい」
「そっかぁ……。きっと、つらいこといっぱいだよね?だって、自分の大好きな人の事も忘れちゃうんでしょ?それって、すごくすごーく哀しいことだって、まゆしぃは思うのです。だからね、えっと……うまく言えないけど、まゆしぃもお手伝いするから、頑張ろうね」
にっこりと微笑むまゆり。その笑顔を見つめていたかがりの瞳が、みるみる潤んでいくのが分かった。
「っ……」
「わわっ、急にどうしちゃったのかな?まゆしぃ、何か変な事言っちゃったかな?」
「っ……そうじゃ、ないんです。ただ、まゆりさんの言葉を聞いて……なんだか嬉しく、て……っ」
「まゆしぃだけじゃなくて、オカリンもスズさんも、るかくんも、みんな同じ気持ちだよ」
「うん!もちろんです!僕も、できることがあれば何でもしますから!」
「あ、ありがとうございます……るかくん。まゆりさん」
かがりのことは、まゆりやルカ子に任せておけば大丈夫。そんな気がした。なんと言ってもまゆりはかがりの母親だ。今はそれを知らない状態だが、まゆりならきっと、かがりの不安に寄り添ってあげられるだろう。
「ルカ子、頼みがあるんだが…」
「なんでしょう?」
「かがりさんは、もう少しお前の家に置いてもらってもいいだろうか?」
「え?」
「その間に、俺たちは彼女が今までどうしていたのかを調べようと思う」
「は、はい…。うちはもちろん構いません」
快諾してくれるルカ子の優しさがうかがえるな。
「鈴羽も、それでいいか…?」
「…わかった」
いろいろと思うところはあるのだろうが、鈴羽も素直に頷いてくれた。それになによりも、今はかがりの記憶を取り戻すことが優先だ。
「それじゃあ、るかくんのお家に行けば、かがりさんに会えるんだね?まゆしぃも遊びに行っていい?」
「もちろんだよ。ね、かがりさん」
「はい!」
かがりも嬉しそうだ。
「鈴羽も出来るだけ顔を出してやってくれ。その方が、記憶を取り戻すにはいいだろう」
「オーキードーキー」