STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
2010年12月24日(金)
ルカ子がかがりをラボに連れてきたその翌日。俺はクリスマスムード真っただ中の秋葉原の街を、まゆりを連れて柳林神社へと向かった。
「あ、まゆりちゃん。それに岡部さんも」
境内にいたルカ子は、声をかけるよりも早く俺たちの存在に気付き、顔を綻ばせた。
その笑顔はとても男とは思えないほど愛らしく、今さらながらに性別を疑ってしまいそうになる。かがりを保護した住職さんが、ルカ子を女だと思ってしまうのも仕方のないことだろう。
「るかくん、かがりさんも、トゥットゥルー♪」
「ふふ、トゥットゥルー、です」
「わ、かがりさん、すご~い」
「え、何がですか?」
「だって、まゆしぃがトゥットゥルーって言っても、最初はなかなかみんな、トゥットゥルーって返してくれないよ?」
「初めて会った相手に、それが挨拶だって理解しろという方が無理だろう…」
こいつももう高校2年生。来年には受験を控えているというのに。この幼い言葉遣いのままで大丈夫なのか?
「うん。だからみんな『なにそれ?』って言うのに、かがりさんは普通に返してくれたのです。だからすごいな~って」
「わ、私は別に。そうかな~って思って…」
かがりの中に、この独特な挨拶が染みついているのかもしれない。どうせ未来でもまゆりは多用していただろうからな。
「あ、岡部さんも、トゥットゥルー、です」
「ど、どうも……」
それにしても、かがりに対してはどう接していいものか、未だに考えあぐねている。鈴羽と逸れたのが10歳。それから12年経っているから、現在は22歳。年齢から言えば俺より年上だが、まゆりの娘でもある。
まぁ、そういう意味では鈴羽も同じだ。鈴羽は年齢が俺たちと同じ、ということもあってタメ口でも違和感なく話せている。おじさん、と呼んでくるのも理由の一つではあるが。
「あ、そうだ。今日はクリスマスイヴだよ。メリークリスマス♪」
「そういえばそうだったね。メリークリスマス」
「あ、メリークリスマス、です」
神社でクリスマスを祝ってもいいものなのだろうか。
「ところで、その…かがりさん。調子はどう…かな?」
「悪くはないです。でも……まだ、何も」
「いや、記憶に関しては無理して思い出そうとする必要はないよ。時間が解決してくれる、くらいに考えておいた方が良い」
取り戻そうと焦ってばかりいるのはよくない。そのストレスで体調を崩してしまいかねない。
「わかりました」
もっとも、本人にとっては早く思い出したいだろうが。
「…………」
「どうかしたか?」
「いえ。るかくんも、まゆりさんも、それに岡部さんも。みんな優しいなって思って」
「そんな。別に俺は優しくなんてない…」
「ふふ。照れなくてもいいのに」
会った時からずっと沈んだ顔を見せていたかがりの、ちゃんと笑った顔を初めて見た気がした。その笑みはどこか子供っぽく、聞いていた年齢よりもずっと若く思えた。
「あ、ごめんなさい。私ったら、急になれなれしい感じになっちゃって…」
「そんなに気を遣わなくて大丈夫だ」
「そうだよ~。まゆしぃもね、普通にしゃべってくれたほうが嬉しいな。だってそのほうが、お友達って感じがするでしょう?」
「お友達……」
「うん。お友達♪」
「ありがとう。まゆりさん……ふふ。お友達かぁ」
未来の世界でも、こんな風にまゆりはかがりと仲良くなったのかもしれない。
戦災孤児。鈴羽はかがりのことをそう言っていた。それも、全ては俺のせい、なんだろうか。もしも、俺が鈴羽の望む道へ踏み出せば、かがりのそんな人生も変わるのだろうか。でも、そのためには俺はまた——。
「っ!」
「岡部さん。大丈夫ですか?なんだか。顔色が優れないみたいですけど」
「あ、ああ。なんでもないよ。ちょっと寝不足なだけだ」
「そう、ですか。だったらいいんですけど…」
「それより、ルカ子は何をしていたんだ?忙しそうにしていたみたいだが……」
「本殿のお掃除をしていたんです」
「掃除ならいつもやってるんじゃないのか?」
来る度に、ルカ子は竹ぼうきを手に掃き掃除をしているようなイメージがある。
「今日は、普段できないようなところも含めての大掃除なんです」
「ああ、そうか。もうすぐ正月だしな」
神社にとっては正月は大きな行事だ。
そういえば、α世界線では、その大掃除のときに、ルカ子がIBN5100を壊してしまったこともあったな。
「すす払いは先日やったんですが、まだやり残しているところもあるので、かがりさんにも手伝ってもらっていたんです」
「ただお世話になっているだけなのも気が引けるもん。少しくらいは役に立たないと」
「そんな、気を遣わずに、いつまでもいてくれていいんですよ?」
ルカ子とかがりのふたりも、それなりにうまくやっているようだ。