STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「おや、るか。お客さんかな?」
「あ、お父さん」
本殿の裏から顔を覗かせたのは、ルカ子の父親だった。
何の裏もないような善人然とした顔をしておきながら、実はひと癖もふた癖もある人物だということを俺は知っている。主に、ダルと同じ方向性で。ルカ子に巫女装束を着せて手伝わせているのも、全てはこの人の差し金だ。
「おや、これは鳳凰院くんにまゆりちゃん。メリークリスマス」
この人はいまだに俺を鳳凰院くんと呼ぶ。言っても無駄な人なので、俺ももう何も言わないが。
「るかくんのお父さん!メリークリスマスです!」
それを神主が言うのはどうなんだ?
「おや。どうかしたかい、鳳凰院くん」
「いえ……」
本人たちが良いのなら、俺が何かを言うものでもない。
それよりも、この人にもかがりのことでお礼を言っておかなければならなかったんだ。
「あの、すみません。彼女のことなんですが…」
「かがりさん……というそうだね。るかから聞いたよ。まさか君たちが知っている人だったとは。世間は狭いね」
「はい。それで、その……もう少しの間、お宅でお世話になる事ができればありがたいんですが…」
「何か理由があるようだね。もちろん、うちとしては大歓迎だよ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます。おじさん」
「ふふ。娘がもう一人できたようなものだよ。るかは巫女装束を嫌がるからね…」
やはりかがりにも魔の手が伸びていたか……。
「ぼ、僕が必死で止めているので、大丈夫です……」
ルカ子も苦労しているんだな。
「ところで、せっかくこれだけ女の子がいるんだし、お正月に神社を手伝ってもらうというのはどうだろうか?」
「手伝うって……巫女を?」
「もちろん。かがりちゃんにもまゆりちゃんにも、ちゃんと巫女装束を着てもらってね。どうかな?バイト代は出すよ」
「か、かがりさんには着せないって言ったでしょう!」
「それはるかが強引に止めるからであって、かがりちゃんは別に嫌がっていなかっただろう?」
「それは……」
「るかくん。私なら大丈夫だよ。お世話になってるんだから、それくらいはしたいの。それに、巫女装束?も着てみたいし」
かがりは巫女装束がどんなものか分かっているんだろうか。
「うーん。まゆしぃはお正月はパーティの準備をしなきゃけないので……それに、コスプレ衣装を作るのは好きだけど、自分で着るのは……」
まゆり。巫女装束はコスプレ衣装ではないぞ。一応…。
「そうか。残念だな。でも、鳳凰院くん。君はまゆりちゃんの巫女姿を見たいんじゃないかい?」
「はい?」
どうして俺に振るんだ?
「そうなの、オカリン?」
「いや、俺は別に……」
急に何を言い出すんだこの神主は。
「ははは。とぼけても無駄だよ。ちゃんと顔に書いてある」
「そっかぁ。オカリンが言うなら、しょうがないなぁ」
「そうか!それはよかった!よし、そうと決まれば巫女装束をもっと用意しなければいけないな!母さん!」
言質を取ったかと思うと、すぐさま行動に移した。……このスケベ神主め。
と思うと、HENTAI神主はすぐに戻って来て、俺に耳打ちをした。
「かがりちゃんを公的に扱えない理由があるんだろう?私は何も事情など知らないし聞いてもいない。そういうことにしておいた方が、君のためでもあるんじゃないのかな?」
「…………」
こういうところは大人だった。こちらとしても、与えられるばかりでは申し訳ない。引け目を感じなくてもいいように、取り計らってくれているのだ。
「…過激なものは駄目ですからね」
「あははははは!話の分かる男だよ。君は」
今度こそ、HENTAI神主は本殿の方へと姿を消した。
「ご、ごめんなさい。お父さんが勝手な事を……」
「ううん。るかくんが謝る事ないよ」
「でも、せっかく予定していたお正月のパーティが…」
「それはここのお手伝いが終わった後も出来るから、平気だよ」
「…うん。僕も手伝うから、何でも言ってね」
「ありがとう~るかくん」
「でも私、巫女さんの格好なんて似あうかな…」
「大丈夫!かがりさんは絶対に似合うよ!」
かがりには、出来るだけ神社から出ないようにしてもらっている分、そのくらいの息抜きは逆にありがたいのかもしれない。なかなか乗り気のようだ。
それも含めて、ルカ子のお父さんの提案…じゃないよな。さすがに。ともかく、賑やかな正月になりそうだ。
「それじゃあ、俺はこれで」
「え、もう帰られるんですか?僕、お茶も出さずに…」
「そんなに気を遣わないでくれ。俺はかがりさんの様子を見に来ただけだ」
「あ、オカリン。まゆしぃは…」
「分かってる。正月の話をするんだろう?俺はラボに戻ってるから」
「ありがとう。岡部さん」
僅かに頭を下げると、かがりは屈託のない笑みを見せた。昨日の不安そうな顔は全くない。だが、俺はかがりが戦災孤児であるということへの罪悪感を拭えなかった。