STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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「だから、何度言ったら分かるのよ!」

 

「ん?」

 

ラボへの帰り道。聞き覚えのある声が聞こえたから、そちらに足向けると、真帆がいた。ちょうどいま、彼女は正月をどう過ごすのかについて考えていたところだった。

 

彼女が声を荒げている相手は……警官だ。

 

ということは——。

 

 

「比屋定さん」

 

「あ、岡部さん。ちょうどいいところに……」

 

「お巡りさん。彼女はれっきとしてた成人女性です。間違いありません」

 

「……君は、知り合いかな?」

 

「はい。彼女は大学の先輩にあたります」

 

「大学……」

 

「調べてもらっても大丈夫ですよ?大学も言いましょうか?」

 

「あ、いや…そこまでは……。でも、そう。小学生じゃないんだ……」

 

警官は少し気まずそうに去って行った。

 

「なんなの、もう!謝るくらいしたらどうなのよ!ほんっと、訴えてやろうかしら!」

 

「まぁまぁ、それだけ仕事熱心ってことじゃないか?」

 

「あなたもあなたよ!」

 

「え、俺?」

 

「一見しただけで、私が子供に間違われて補導されそうになっていると分かったんでしょう?」

 

「う……」

 

彼女が警官に絡まれる理由なんて、それ以外に思いつかなかったしな…。

 

「一目で分かるなんて、あなたもそう思っている証拠だわ!」

 

それはそうだが。なんというかとばっちりだ。

 

「ま、でも助けてくれたことには感謝するわ。ありがとう…」

 

何度も繰り返されたやりとりなのだろう。日本には問題なく入国出来たんだろうか?……聞くとまた怒りそうだな。

 

「それで、比屋定さんはこんなところで何を?」

 

「これよ、これ!」

 

そう言って掲げたのは、大きなカバンだった。

 

…実際にはそれほど大きなカバンではないが、真帆が小さいからそう見えているのだ。

 

「例のノートパソコンよ。秋葉原なら、パスを解析できる業者がいるかなって思ったんだけど…」

 

どうやら彼女が手にしているのは、紅莉栖のノートパソコンのようだ。

 

「まだそれに拘っていたのか…」

 

「そりゃ、プライベートを覗くのは良くないって思うわ。でも、私はあの子が何を考えて何をやろうとしていたのかを知りたいのよ」

 

それはそうかもしれないが、あいつのノートパソコンだ。目も当てられないようなものが入っているとしか思えない。真帆みたいな一般人には見られたくないだろうな……。

 

「あなたはいいわよ。あの子が亡くなる前に会って話したりしてるんだもの」

 

実際には、この世界線では会ってないことになっているんだがな。

 

「でも私にはまだ実感がないの。急に亡くなったって連絡を受けただけ……。葬儀にも出られなかった。だから少しでも紅莉栖のことを知りたい…。今さらって思うかもしれないけど、それが私の中で、あの子の死に対する折り合いのつけ方なのよ」

 

「比屋定さん…」

 

「だから、岡部さん。教えて。なんでもいいの。あの子がパスワードとして設定しそうな言葉。ひとつやふたつ、心当たり、あるでしょう?」

 

真帆の気持ちも分かる。心に折り合いをつけたい。それも分かる。

 

「悪いけど、俺は何も知らないよ」

 

「っ!……そうやって逃げるの?」

 

「逃げる…?」

 

「『Amadeus』とあまりコミュニケーションを取らなくなったのも、逃げているからでしょう?」

 

…図星だ。俺は逃げたんだ。

 

あの日、柳林神社で“紅莉栖”と話している時に、怖くなった。

 

「“紅莉栖”ったら、すっごい文句を言ってたわよ。岡部さんは冷たいって」

 

容易に想像がつく。あいつならかなり悪態をついているだろう。

 

「そうだ。冷たいんだよ。俺は」

 

俺はあいつを見捨てたんだ。

 

「あいつの死を、受け止めきれていないんだ。君の言うように、その直前まであいつと話していたからな」

 

どこまでも紅莉栖にそっくりな“紅莉栖”と、親しく話すことが怖いんだ。

 

「岡部さん……」

 

俺の態度に気圧されたのか、真帆は黙り込んでしまった。

 

失敗した。こんな言い方をしなくてもよかった。

 

「……すまない」

 

「ううん、こちらこそ、ごめんなさい」

 

気まずい沈黙。何か払しょくできるような話題はないか。

 

「そういえば、お正月は何か予定があるのか?」

 

「お正月?いえ、特に何もないわ」

 

「だったら、初詣にみんなで柳林神社に行かないか?まゆりたちも手伝うことになってるんだ」

 

「まゆり…?」

 

ああそうか。この前ラボに来た時に、まゆりはいなかったんだな。

 

「俺の幼馴染なんだ。ラボの一員でもある」

 

「幼馴染……」

 

「ああ。その後でラボでパーティをするらしい。なんなら、比屋定さんも巫女装束を着て神社を手伝ってもらってもいい」

 

「巫女装束…それってコスプレとかいうやつ?」

 

「いや、ちゃんとした手伝いだから、コスプレじゃなく本物の装束だろうけど…」

 

あの親父さんのことだから、どこまで本気か分からないが。

 

「それは遠慮しておくわ。私に合うサイズもないだろうし」

 

なるほどな。それもそうかもしれない。

 

「ちょっと!そこで納得しないでもらえる?」

 

「あ、いや…」

 

「で、集合はラボでいいの?何時に行けばいいのかしら?」

 

「え、でも…」

 

「手伝うのはパスだけど、日本の初詣には行ってみたいと思ってたの。その後のパーティは、まぁ、そのとき考えるわ。私がいても気を遣うだろうし…」

 

「わかった。細かい事はまた連絡するよ」

 

「ええ。楽しみにしているわ」

 

真帆とはそれで分かれた。これ以上話していると、自分がまた、良からぬことを口にしかねなかったから。

 

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