STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
秋葉原の街を歩く。新年でも店は開いているが、ひとつ違うのは車がほとんど走っていないことだ。歩行者天国が再開されているのだ。
ダルは綯と由季さんと何やら話している。ダルが綯のことを様付けで呼ぶ理由についてのようだ。幼女は存在しているだけで素晴らしい。だから敬意を持って様を付けるのだとか。その理屈に頷いているあたり、由季さんもオタクなんだと実感する。
俺は真帆と並んで歩いているが、その後ろでフブキとカエデが話している。
「そういえばフブキちゃん。変な夢はどう?」
「最近は見なくなったかも。やっぱ疲れてたみたい」
「そっか。だったらいいんだけど…」
変な夢と聞いて、俺は思わず聞き返してしまった。
「変な夢?」
「あー。ちょっと一時期悪夢にうなされちゃった時期があって」
「悪夢って?」
「お?食いつきますねぇ。もしかして私に気があるとか?」
「ダメよ。フブキちゃん。オカリンさんには“好きな人”がいるんだから」
その言葉に心臓が跳ねた。
その話、いつかしなかったか?
あれは確か——。
「あ、そっか!」
「オカリンさんはまゆりちゃんと付き合ってるんですよね?」
それがいつのことだったのか、思い出そうとしている間に、聞き流せない言葉が聞こえて来た。
「な、何を言ってるんだ⁉俺とまゆりがっ⁉」
そんな話がどこから出たんだ?
「え、違うんですか?あれだけマユシィとべったりなのに?」
「いやいや、俺たちは幼馴染であってだな……」
昔から一緒にいるというだけで、別にそういう関係ではない。
「そ、それよりも!」
このままだとマズイ流れになりそうだったため、俺は強引に話を変えた。
「比屋定さんに話しかけてやってくれないか?」
「えっと…?」
「彼女、アメリカの大学からこっちに来てるんだ。だからまだこっちに知り合いがほとんどいないんだ」
「アメリカ⁉すごーい!」
フブキはそれだけ聞くと、真帆の方へと走って行った。
「すいません、オカリンさん」
「……?」
「あの日、フブキちゃんがいきなり聞いちゃったから…私もつい、からかっちゃって」
あの日——。
「っ!」
そこでようやく俺は思い出した。12月15日。世界線が変動する直前。俺は“紅莉栖”との会話の中で、フラッシュバックを起こしてしまい、橋の上で休憩していた。そのときに、フブキとカエデがやって来て、好きな人は誰かと聞かれたんだ。
俺は紅莉栖のことが頭に浮かんで——。
(その瞬間に世界線が変動した……)
俺が好きな人は誰か。その質問が世界線を変えるほどの何かだったのか?
いや、そんなことはありえない。フブキとカエデが俺の好きな人を知ってどうなる?それが誰かに伝わったとして、それで何が変わる?
(それは何かのきっかけに過ぎないはずだ。考えるべきはやはり、スマホの電源のオンオフ…)
例えば、Dメールの受信。俺がスマホの電源をオフにしてしまったことで、本来受信するはずだったDメールを受信しなかった可能性。
(いや、でも、どうやってDメールを送るんだ?俺は既に電話レンジ(仮)を破棄しているんだぞ…)
やはり答えは出ない。
「オカリンさん…?」
「え…?」
「顔色、悪いけど、何かあったんですか?」
「え…あぁ……いや」
カエデたちの前であれこれと考えるのはよそう。まゆりにでも伝わったら、また心配をかけてしまう。
「あの子はすごいな、と思ってな。初対面なのに、よくあんなにも積極的に話せるものだ」
俺は誤魔化すようにフブキを指さす。真帆がアメリカから来たと聞いた瞬間に、アメリカの大学とはどこか、英語は話せるのか、など、多様な質問をぶつけていた。真帆も戸惑ってはいるようだが、フレンドリーなフブキの態度に笑顔を見せている。
「フブキちゃん、人懐っこいですからね」
そのボーイッシュな見た目と相まって、活発な少年という感じだ。
「オカリンさんって、もっと冷たい感じの人かと思ってました。でも、優しい人なんですね」
「…優しい?俺が?」
冷たい人、と見られるのも納得だ。夏以降、俺は人とあまり関わらなくなった。厨二病全開のときだって、まともにコミュニケーションを取れていたわけではないが。その時よりも冷たくなったのは間違いないだろう。
だが、優しいとは意外な評価だった。
「だって、あの人が馴染めるようにフブキちゃんを行かせたんでしょう?」
「そ、それは…」
初対面の人間が多いところに真帆を連れてきてしまって、彼女に悪い事をしてしまったのではないかと思ったからだ。
真帆も気を遣ってくれていたが、彼女も間違いなく、人とのコミュニケーションは苦手だ。どちらかと言えば、俺や紅莉栖に似て不器用なタイプだろう。優しさとは、また別なような気がする。
「でも、人って優しいからこそ、誰かを傷つけることもあるんですよね……」
「はい?」
「いえ、なんでもありません。私も真帆さんと話してきますね……」
カエデは仄かな香水の香りを残して、小走りに真帆たちの元へと駆けて行った。
——誰かを傷つける。その言葉がしばらく針のように、チクチクと俺の胸を突き刺していた。