STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「あの、猫のおねえちゃん」
「ん?なにかニャ?」
「まゆりおねえちゃんはどこですか?」
綯は本当にまゆりによく懐いている。日頃からよく一緒に遊んでいるし。綯はかなり活発で、動きが激しい。まゆりも意外な事に運動神経はいい方だから、綯と遊ぶのに向いてるんだ。勢いの乗った頭突きでも、まゆりは平気な顔で受け止めているしな。
「マユシィ?たしかっさきまであっちで御神酒を……あ、あそこにいたニャ!」
フェイリスが指さす方向を見ると——。
「マーユシィ!こっちに来るニャ!オカリン達が来てるニャ~!」
フェイリスの呼びかけに気付いたまゆりが、かがりの手を引いてこちらへ小走りで駆け寄って来た。
「あ、オカリン。え~っと、あけまして、おめでとうございます」
「あけましておめでとうございます。岡部さん」
「ああ。あけあしておめでとう」
ふたりとも、巫女服姿がよく似合っている。
「えーっと、どうかな?この格好、似あってるかな?」
「ん?ああ、そうだな。想像以上によく似合ってるぞ」
「ほんと⁉えっへへ~。よかったぁ」
それまで緊張していた面持ちが、安堵のそれへと変わる。
「メイクイーンじゃイベントデーなんかじゃコスプレするんだろ?今さら緊張する事もないだろうに」
「あれはお仕事だからいいのです」
それも良く分からない理屈だ。それに今回だって、バイト代が出るんだから仕事言えば仕事だろう。
「ねえ岡部さん。私はどうかな?似合ってるかな?」
「あ、ああ。かがりさんも良く似合ってると思う」
かがりは身長も高く、すらっとしていて巫女服が様になっている。まゆりなんかはまだまだあどけない感じだが、かがりは少しだけ大人っぽい。
「わーい。やったぁ!そうだ、あとで一緒に写真撮ってくださいね」
「写真?別に構わないが…」
俺なんかと写真を撮りたいのだろうか?
「だってほら、写真があれば、記録に残るでしょう?私、今のうちにたくさん残しておきたいんです。また忘れちゃったりしないように」
なるほどな。
別段、正月だから浮かれているというわけではなく、かがりはここ数日、すっかり明るくなっていた。初めて会った時は、記憶を失くした不安からおどおどしているように見えたが、本来はこういう明るい性格だったのだろう。まゆりたちにコミマに連れて行かれたのも、いいきっかけになったのかもしれない。
「ねえオカリン。まゆしぃがお祓いをしてあげるのです。この……えーっと、えーっと……なんだっけ?」
まゆりが手に持ってるのは、先端に紙の束がわしゃわしゃっと付いた棒だ。俺も名前は分からん。
「大幣(おおぬさ)だよ、まゆりさん」
「そうそう、おおぬさ~!」
「その前に、神様に手を合わせてこないとな」
「あ、そうですね。それじゃあその後で私もお祓いしてあげる」
「ああ。よろしく頼むよ」
水で手を清めて、手を合わせる。こうして、ここで真剣にお祈りするのは初めてかもしれない。
「何をお願いしたの?」
同じく隣で手を合わせていた真帆がそう聞いてきた。
「ああ。世界が平和でありますように、ってね」
「またそうやってはぐらかすんだから」
嘘じゃない。もっとも、その願いが叶わないのは知っているし、そんなことをしたところで贖罪にもならないのだろうが。
「そういえば遅いわね…」
「ん?」
「教授たち。初詣に行くって言ったら、すごく来たがっていたから、場所を教えておいたのだけど」
「へえ。どこかで迷ってるのかな」
「レイエス教授も一緒だから、どこかで寄り道しているのかもね」
あのふたりも仲がいいんだな。ふたりが来ればまた賑やかな事になりそうだ。
「ねえ、あの子でしょ?」
「なにがだ?」
「岡部さんの彼女。あの、まゆりさんって人なんでしょ?」
また始まったか。
「だからさっきも言ったが、俺は誰とも付き合っていないって」
「それは、ラボに集まったメンバーの中には、でしょう。まゆりさんは幼馴染と言ってたじゃない」
「だからそのままの意味だ。幼馴染なんだよ、俺たちは」
「ふーん。好きじゃないの?」
やはり真帆も恋愛脳だな。さすがは紅莉栖の先輩だけある。
「好きも嫌いも、俺たちは一緒にいて当然なんだ。それにあいつは俺の……」
人質だからな——と言おうとして踏みとどまった。
そういう厨二病はもうやめたんだ。“紅莉栖”と話していると、どうにもあの頃の自分が蘇ってしまう。その延長で、真帆の前でもそれが出てしまいそうになる。
「俺の……?」
「オカリーン!おおにたでしゃーんしゃーんってやってあげるから、早く~!」
「………ちょっと行ってくるよ」
「ええ」
話を打ち切ってまゆりの方へ向かう。
「やっぱり、紅莉栖の事があったからかしら…」
俺は聞こえないふりをしておいた。