STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「それでは、あらためまして………あけましておめでとうございま~す!」
ラボが人でぎゅうぎゅうになっている。部屋の中央に置かれたテーブルも、ルカ子のお母さんが持たせてくれたおせちでいっぱいだ。
「ん~、るかくん家のおせち、美味しいね~」
「ほんと?僕とかがりさんも手伝ったんだけど、そう言ってもらえてよかったぁ」
かがりが作ったのかと、一瞬俺の中で戦慄が走る。記憶を失っているとはいえ、かがりはまゆりの娘だ。まゆりは料理が全く出来ない。その娘となると……。
もしかして、かがりは母親を超えて料理が出来るのか?
「エッヘン!なーんて、私は盛りつけただけなんだけど」
……ルカ子のお母さんも見る目があるな。
「私、この甘い卵焼きだいすき!くるくるってなってるの」
綯が目を輝かせている。あの筋肉オヤジでは、こういう繊細な料理は出来ないだろうな。
「こっちのお雑煮も絶品すぎる。鈴羽もどうだお?」
なぜか遠慮がちな鈴羽に、ダルがこれでもかというほど料理を取り分けている。押し付けている、と言った方がいいかもしれない。
「うん。おいしいよ」
やはりこういうパーティを避けようとしているようだ。この時代に来て、遊んでいる場合じゃない、という思いがあるのだろう。固い事を言わずに楽しめ、と言えるほど俺は開き直る事ができない。鈴羽にそうさせてしまっている原因は俺にあるのだから。
「ほらほら、鈴羽ももっと食べるのだぜ」
「そ、そんなに取り分けられても食べられないって…」
俺が言うのも無責任だが、今日くらいは楽しんでほしいと思う。せめて少しでも笑ってくれると、俺の心も軽くなるというものだ。
「実はメイクイーン+ニャン2のお正月メニューなんだニャ」
「ムフーッ!もちもちでやらか~い!フェイリスたんの味がするお」
メイド喫茶でお雑煮、というのもどうなんだろうか。まぁ、フェイリスならそんな違和感も吹き飛ばしてしまうのだろうが。
「橋田さんはほんとにHENTAIさんですねぇ」
「ぬあっ!また言ったなフブキ氏!そんなことばっかり言うなら、楽しみにしてたまゆ氏とかがりたんのミコミコ写真はあげないのだぜ?」
「ええっ⁉」
「と、撮ってたんですか⁉」
「あんな貴重なものを撮らないなんて、オタの風上にもおけないだろ常考!ローアングルからは撮っておりませんのでご安心ください」
「むぅ…それは困るなぁ。マユシィもだけど、かがりさんのコス、めっちゃよかったのにぃ!」
驚くまゆりとかがりを他所に、ダルとフブキのやり合いが続く。
「アメリカだったらセクハラですぐに訴えられるわよ」
真帆が呆れた顔でツッコみを入れる。
「そういえば、アメリカのお正月って何を食べるんでしょう…?」
バカふたりは放っておいて、話は真帆の方に移る。
「さあ、七面鳥とかじゃないのか?」
「それはクリスマスじゃないですか…?」
何にしたってバカ騒ぎをしているイメージが強い。やはりピザとかハンバーガーだったりするのか?
「騒ぐのは大みそかの方よ。年が明けると、騒ぎつかれて意外と質素なものが多いわね。豆料理とか」
「ぬ?豆料理⁉その響きにトキメクお年頃です」
「橋田さんってほんとにHENTAIさんですねぇ」
それからも馬鹿なやり取りは続いた。
「えっへへ~。やっぱり人が大勢いると楽しいねぇ。オカリン」
「ああ、そうだな…」
ここがこんなに賑わうのはいつぶりだろうか。
いや、あれはα世界線での出来事——。ということは、このβ世界線でははじめてかもしれない。
「ウニャ?お茶ってこれだけかニャ?」
宴が始まってまだそう経っていないのに、どうやらもうお茶を切らしてしまったらしい。
「兄さんが甘いジュースばかり買ってくるから」
「お茶がなければコーラを飲めばいいじゃない」
「おせちに炭酸は厳しいです……」
「じゃあ、俺とダルで買ってこよう」
改めて考えてみると、これだけの人数がいて、男が俺とダルだけ、というのもすごい話だ。見る人によっては誤解されそうなメンツだ。いや、ルカ子がいるが、まぁ、な。
「あ、ここは私とフブキちゃんで行きますよ」
「え、私も?」
「お呼ばれしてるんだもの。それくらいしないと……」
「しょうがない。それじゃあ行ってきまーす。テキトーでいいですよね?」
気を遣わなくていい、と俺が制止しようとするのをカエデに目で止められた。
「オカリンさんがいないと、締まらないでしょう?」
出口に向かって歩き出したカエデが、すれ違いざまに小さな声でそう呟いた。
初詣への道途中で、カエデが俺に言った言葉も相まって、俺はもやもやした気持ちが蘇った。
優しさが人を傷つける。つまり、俺が誰かを傷つけてしまっている?
最初に思い浮かぶのは、鈴羽だ。そしてかがり。俺の選択のせいで、残酷な運命を背負わせてしまっている。だが、それは決して俺の優しさから来るものではない。
あの場面では、場に馴染めていない真帆を気遣って、フブキに話しかけてもらうように頼んだのだが。
(比屋定さんのこと……か?)
紅莉栖のことについて、嘘をついている……というよりも隠し事をしている。それを分かったうえで交流を持っている事。それが欺瞞だと言われれば、否定はできない。真帆やレスキネン教授を利用しようなんて考えてはいないが、俺はヴィクトルコンドリア大学に行くという目的の為に彼女らに近づいたとも言える。
だが、カエデがあれだけのことで、俺と真帆たちの関係を見抜けるはずもない。
誰のことを指して言った言葉なのだろうか。