STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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パリン、と硬質な音が鳴った。

 

「ご、ごめんなさい…」

 

音の方に目を遣ると、かがりが申し訳なさそうな顔をしていた。

 

どうやらグラスを取り落としたらしい。

 

細やかな破片が床の上で放射状に飛び散っていた。

 

「おねえちゃん、大丈夫?顔色悪いよ?」

 

「ええ……ありがとう。ちょっと疲れたのかも…」

 

心配そうに綯がかがりの顔を覗き込む。

 

「あ、でも平気……ごめんね、すぐに片付けるから」

 

「あ、かがりさんはじっとしてて。僕が片付けますか——」

 

ルカ子が掃除道具を取りに行こうと立ち上がったと同時だった。

 

「……へ?」

 

ダルの間抜けな声を合図に、全員が玄関の方へと振り返る。

 

「動くな!」

 

突然、土足のまま部屋に踏み込んできた男たちに、室内は何が起きたのかもわからず騒然となった。

 

「な、なんなんだニャ⁉」

 

男は4人。全員が妙な仮面を被っている。

 

その手には銃。中には自動小銃を持っている者もいた。

 

「な、なんなの、これ?なんのサプライズ?」

 

「ぁ……あぁ……」

 

その光景に、あの悪夢がよみがえる。

 

何度も何度も繰り返し繰り返し殺されたまゆりの無残な姿。

 

もう大丈夫だ。そう、思っていたのに。

 

もう大丈夫。そのはずだったのに。

 

半月ほど前の世界線変動の影響なのか?

 

まゆり…。

 

「騒ぐなっ‼」

 

まゆりがまた……。

 

「オカリン……怖いよ…」

 

まゆりが怯えている。

 

「騒ぐなと言ってるだろう!」

 

パンッ。乾いた音。

 

「きゃっ!」

 

「まゆり!」

 

床に空いた黒い穴。大丈夫、威嚇だ。

 

それでも、皆の恐怖心を決壊させるには充分だった。

 

「そ、それ……本物かよ」

 

「お、岡部さん……僕……僕……」

 

「ひぅ……うぅ………うわぁぁん!」

 

だ、ダメだ。それ以上やつらを刺激するな!奴らは本気だ。必要のないものは容赦なく殺される。

 

こんなときに頼れるのは鈴羽だけだ。俺はバレないように鈴羽に目を遣る。

 

「くぅ……!」

 

ダメだ。怯えた綯が鈴羽の足元にしがみついて身動きが取れないでいる。もしくは、相手が多すぎて動くに動けないのか。

 

「く………」

 

俺がなんとかしなきゃいけないのに、肝心の足はガタガタと震えるだけで何の役にも立たない。

 

「と、とにかく、みんな落ち着いてくれ…」

 

「そ、そんなこと言われても…」

 

「いいから、落ち着いて奴らの言う事を聞くんだ!」

 

これ以上刺激しないように、何とか声を出す。俺の声に事態の深刻さを感じ取ったのか、全員が押し黙った。

 

(こいつらは……何者だ?)

 

SERNのラウンダーか?天王寺は正月から用事が出来たと言って出て行った。これも天王寺の差し金か?いや、それならば、綯がこの場にいるのはおかしい。だとすれば、SERNではない誰か……。

 

目的は何だ?タイムマシンのことがバレた?だがどうやって…。

 

(かがりのことを、捜している連中……っ!)

 

そうだ。萌郁の報告に、俺たちの他にも、椎名かがりを捜している連中がいるとあった。だとすれば、目的はかがりか?

 

と、銃口を俺たちに向けた男たちの背後から、ヒールの音が響いて来た。

 

階段を上がって来る女の足音。

 

萌郁ではない……はずだ。ここに綯がいるんだ。ここはβ世界線。まゆりは死なない。萌郁は、まゆりを殺さない。

現れたのは——。

 

 

「…………」

 

黒づくめの女だった。ぴったりと身体に張り付いた黒のライダースーツに、黒のヘルメット。黒いシェードで覆われていて顔は見えない。

 

女は黙って室内を見回すと、身を寄せ合う俺たちに、真っすぐに歩み寄った。そして一人に手を伸ばした。

 

「え?」

 

やはり、かがりだった。

 

その手がかがりの腕を掴んで引き寄せる。

 

「か、かがりさん!」

 

こいつらは、知っている。かがりが2036年から来た人間だと。

 

「い、いやっ!離してっ!」

 

抵抗をみせるかがり。しかし、女の力は想像よりもずっと強く、かがりの身体はいとも簡単に引っ張られていく。

 

「いやっ!助けて!誰かっ!」

 

「かがりさんっ!」

 

「まゆりさんっ!助けて!」

 

手を伸ばすまゆりとかがり。しかし、互いの手は虚しく宙を掴んだだけ。

 

「っ…!」

 

どうする?俺はどうすればいい?

 

俺は死なないはずだ。2025年までは生きる事が確定している。俺ならば、多少の無茶はできるはずだ。だが、ここで動けば、またまゆりが——皆が。だが、それならかがりが連れ去られるのを黙って見ているしかないのか?

 

俺は……俺は…っ!

 

 

 

 

「ぐぁっ!」

 

突然、扉の近くから悲鳴が上がった。

 

「ぐえっ!」

 

視線を向けた時には、既に2人目が倒れるところだった。

 

「おいおい。こりゃいったい何の騒ぎだ?」

 

「ブラウン氏!」

 

残りの男たちは天王寺に銃口を向ける。だが、天王寺の手が、それよりも早く男の手を掴み、そのままねじ上げる。

すぐに骨が折れる鈍い音がした。

 

突然の乱入者に、襲撃者たちは騒然となった。

 

残された一人の男が、こちらに近づいてくる。手を伸ばしたのは、一番か弱そうな綯だった。

 

普通ならば、正しい判断だが、この場合、その選択はまったくの誤りだった。

 

その巨体からは想像のつかない動きで、天王寺はあっという間に男との距離を詰めると、腕力でその身体をぶっ飛ばした。そしてその瞬間、綯から解放された鈴羽が消えた。

 

気付けば鈴羽はライダースーツの女の前にいた。細くしなやかな足が一閃。女の首元を狙う。

 

「はぁぁぁあああっ!」

 

音を置き去りにするかのような速度の蹴りが叩きこまれる。女はとっさにかがりを掴む手を離し、その蹴りをガードした。

 

「かがりっ!」

 

俺は咄嗟に手を伸ばし、かがりを引き寄せた。

 

「岡部さん……っ」

 

形勢不利と見たか、女は鈴羽に蹴られた左腕を庇うようにして、あっという間にラボを飛び出した。他の襲撃者も、倒れた男たちを抱えるようにして後に続く。

 

それまでの喧騒が一転、静寂にとって代わられた。

 

「お、オカリン……」

 

まゆりの震えるような声でようやく我に返る。

 

「まゆり……無事か?」

 

「う、うん……」

 

「他のみんなも、大丈夫だったか?怪我はないか?」

 

ダル、鈴羽、フェイリス、ルカ子、綯、真帆、かがり——。それぞれ青ざめてはいるが、別段負傷などはしていないようだ。

 

「お、おとうさぁぁぁぁん!」

 

「大丈夫。もう大丈夫だ。綯のことはちゃんとお父さんが守ってやるからな」

 

抱き合う天王寺親子の姿をきっかけに、全員がようやく安堵の息を漏らした。

 

「おい、岡部。説明してもらおうか。あの連中はなんだ?」

 

分からない。奴らはSERNではなかった。天王寺が現れたことからも、それは間違いない。

 

このβ世界線において、俺たちがSERNに目を付けられることはない。萌郁では…ないはずだ。

 

「いや………それは俺にも…」

 

 

「——!」

 

再びドアが開かれ、全員が身構える。

 

「たっだいまー。飲み物、いっぱい買って来たよー!」

 

「遅くなってしまってごめんなさい。フブキちゃんがあれもこれも………?」

 

「ど、どうしたの?みんな、そんな怖い顔して…」

 

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