STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「寝ないの?るかにいさん」
「……阿万音さんこそ、まだ起きていたんですね」
「うん。まぁね」
今日の出来事について考えているのだろう。ラボでの正月パーティ。その最中に襲撃してきた謎の男たち。
男たちは銃を手にしていた。モデルガンなどではない。本物の銃だ。
パニックになってしまった。いや、そうならない方がおかしい。まゆりやフェイリスだってうろたえていた。だが、岡部をはじめ、至や鈴羽は落ち着いているように見えた。
あんな事態でも冷静に対処できる。慣れている、というべきかもしれない。
(岡部さんたちは……何を隠しているんだろう…)
自分には知らされていない秘密があることを、るかは知っている。何か言えない事情があるのだということは分かっている。
だが、それでも、自分が蚊帳の外にいるという感覚を拭いされない。
「っ!」
かがりが声を上げた。めまぐるしい一日によほど疲れていたのだろう。横になるとすぐに眠りについた。だが、その寝息が次第にうめき声に変わっていく。
「ママ……ママ………いっちゃ嫌だよ……ママ」
母親の夢でも見ているのだろうか。
「まゆり………ママ」
まゆりの名前が出てきても、るかは驚かなかった。何度も聞いた名前だ。
椎名かがり。椎名まゆり。それが偶然ではないことは、もう分かっている。
訊こう。枕元に手を伸ばすと、固い感触が当たった。
妖刀・五月雨。岡部からもらったるかの宝物。その柄をきつく握りしめる。
「あ、あの!」
「うん?」
「き、訊いても……いいですか?」
鈴羽が半身を起こして、まっすぐな目でるかを見た。
「あ、阿万音さんは……どうして岡部さんのことを、オカリンおじさんって呼ぶんですか?」
「…………」
「どうして、まゆりちゃんのことを、まゆねえさんって呼ぶんですか?どうして、フェイリスさんのことをルミねえさんって………僕を、るかにいさんって……」
「…………」
「まゆりママって……まゆりちゃんのこと、ですよね?どうしてかがりさんが、まゆりちゃんのことをママなんて言うんですか?」
「……あたしが言えた義理じゃないけどさ、でも、知らない方がいいと思う」
「そうやって、僕はまた、蚊帳の外なんですか?僕だって知りたいです。僕だって、皆さんと同じ悩みを共有したいんです。僕だって……」
「るかにいさん…」
「教えて、もらえませんか?」
最後まで目を逸らさなかったるかを見て、鈴羽はため息を吐く。
「るかにいさんに隠し事をしてるっていうのは認めるよ。隠してることについては、悪いと思ってる」
「だったら……」
「オカリンおじさんがさ、るかにいさんに事情を言わない理由、今ならなんとなく分かる気がするんだ」
「理由、ですか?」
「るかにいさんにはさ、純粋にこの世界の人でいてほしいんだよ。るかにいさんだけは、今という時間の存在でいてほしいんだ。それが…オカリンおじさんの救いなんだ」
「僕が、救い?」
「うん」
全てを諦め、このβ世界線を受け入れようとしている岡部を、鈴羽は許せなかった。だが、その気持ちが分からないわけではない。
今日のことだってそうだ。どれだけ平穏を望んでいても、望まない事態に巻き込まれてしまう。運命に翻弄されてしまう。
岡部が、まゆりだけでなく、るかやフェイリスたちラボのメンバーをどれだけ大切に思っているのかを知っている。いや、この数か月で知った。
「あたしの口からは、言えない。でも、おじさんがるかにいさんのこと……大切に思っているのは本当なんだ。歯がゆい思いをさせているのは分かってる。でも、おじさんもきっと、話すべき時になれば必ず話すはずだ」
至にも、何度も説得された。オカリンは今は腐ってるけど、いつか必ず立ち上がってくれると。自分たちの先頭に立ち、シュタインズゲートに導いてくれると。
今の岡部を見て、そんなふうに信じる事はできない。
でも、いつかは——。
「おじさんを……信じてあげて?」
「……………」
そんな風に言われてしまったら、るかはもう、何も言えなくなってしまう。
「心配しなくても、るかにいさんはあたしたちの仲間だよ。それだけは間違いじゃない」