STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
2011年1月2日(日)
俺は萌郁をメイクイーンに呼び出した。開口一番、腕の調子について尋ねた。だが、萌郁は嘘をついている様子もなく、本当に何のことか分かっていない様子だった。
フェイリスにも協力してもらって、萌郁の左腕を確認したが、鈴羽に蹴られた怪我はなかった。おそらく、萌郁はシロだ。俺は疑惑を向けたことを誤魔化すために、これまでの調査の報告と続行を告げ、メイクイーンを出た。
そしてやって来たのは、ブラウン管工房。天王寺と話を付けるためだ。
店に入るなり、天王寺は昨日の説明を求めて来た。隣には綯もいる。
「その前に、ひとつ確認したいんですが………昨日のあれは、あなたの差し金じゃないですよね?」
「俺の?そりゃいったいどういう意味だ。なんで俺があんな連中をおめえんとこに遣んなきゃならねぇ」
「わかりませんか?」
「わかるわけねぇだろ、ンなもん!」
これは賭けだ。隣に綯がいる。それだけが俺の生命線だ。
「それは、あなたがラウンダーだからですよ。ミスター・フェルディナント・ブラウン。いや、FBと呼んだ方がいいですか?」
昨夜、ダルと話し合った結果、俺は天王寺に、ラウンダーであることを突き付けることにした。弱みを突き付けた上で、交渉する必要があるからだ。
「…………」
不機嫌そうだった天王寺の顔から表情が消えた。
「てめぇ……」
「お父……さん?」
父親の温度が変わったのを敏感に感じたのか、綯が様子を窺ってきた。
「どうしたの?」
「ん?どうしたって、何がだ?」
「急に、怖い顔したから」
「そうか?お父さんはいつもどおりだぞ、ほら」
「うん…」
綯は納得していない様子だったが、天王寺に言われて42型ブラウン管の方へと行った。
「やはり、娘には知られたくはないんですね?」
「………」
天王寺は何も返さずに、綯から離れた椅子に促した。
「おめぇ、何を言ってやがる?」
「誤魔化しても無駄です」
「誤魔化すも何も、俺にはおめえが何を言ってるのか、さっぱり分からねぇな。なんだ、そのFBとかなんとかってーのは。新手のSNSか?」
あくまでもしらを切るつもりのようだ。
「俺は知ってるんです。あなたがSERNのラウンダーだってことを」
「………」
真っすぐな視線に射竦められる。普段の天王寺の目とは全くの別物だ。それは、殺し屋の目。冷徹で、殺気を隠そうともしない殺し屋の目だ。俺は冬なのに、汗が出るのを止められない。
「…一応聞いてやるが、おめえのその情報はどこからのもんだ?」
「話す必要はありません」
主導権はこちらが握る。俺は肝を冷やしながらも、気丈に振舞う。
「いいから聞かせろや。それくらいの覚悟を決めて、ここに来たんだろうが」
「話しても、どうせあなたは信じない」
「そう言わずに、茶飲み話と洒落込もうや。どうせこんな日に、客なんか来ねえしな」
目の前のこいつは、α世界線のこいつとは違う。α世界線では、こいつは少なくとも自分の意志でラウンダーになったわけではなかった。やむにやまれぬ事情があった。俺はそう思った。だからといって、こいつがしてきたことを許すつもりはないが。
だが、目の前のこいつはどうか分からない。どういう経緯でラウンダーになったのか。こいつは橋田鈴に会っていない。橋田鈴への最後の良心が、最後の最後にこいつを変えたのだ。だが、それを期待するべくもない。
話さなければ殺す。その目がそう訴えかけてきている。
………いいだろう。ならば話してやる。それこそ、雲を掴むような内容の話をな。
「ふん、世界線…な。到底信じられる話じゃねえな」
「最初にそう言いましたよ。それに、あなたが信じるか信じないかは関係ない。俺はあなたの正体を知っている。重要なのはそこだけです」
「……確かにその通りだ」
認めた!
「おめえの話はほぼ完璧だ。俺しか知らねえようなことまで知ってやがる。正直、薄気味悪いくらいだ」
天王寺に正体を認めさせたことで、ひとまず第一ラウンドは俺が取ったと考えていいだろう。問題はここからだ。
「SERNの機密保持は絶対だということは知っています。それに、任務に失敗した者だけでなく、達成した者まで処分されるということも」
そうして、SERNはラウンダーとなった人間を使い捨てにしてきた。
そしてその手でまゆりを——。
「そこまで知ってんのかよ。だったら……」
ふらりと立ち上がる。
「っ!……だが、これは任務とは関係ないっ」
気圧されながらも、なんとか声を出す。
「機密だってそうです。漏洩したわけじゃない。俺は最初から知っていたに過ぎない。だから、処罰の対象にはならない………。違いますか?」
「……ふん。詭弁だな」
立ち上がった天王寺の顔が眼前に迫る。
「だが、間違っちゃいねえ」
「…………」
「別に俺はSERNからIBN5100とやらを捜せとも言われてねえし、おめえらを連れて来いとも言われてねえ。言われてねえことは、する必要がねえってことだ。俺がラウンダーだってことも、おめえが黙ってりゃ済む。何も困ったことはねえな」
天王寺の視線が、背後でテレビを見ている綯に向けられた。
野獣の目から打って変わった、親の目だった。
「で、おめえの目的はなんだ?俺に全てを話したってことは、なにか目的があんだろ?」
「…………実は、あなたに頼みたいことがある」
天王寺は黙って続きを促す。
「椎名かがりを——昨夜襲われた女性を守ってやって欲しい」
「あの嬢ちゃんは、誰に、なぜ狙われている?」
「わかりません」
「それじゃあ、そんな話は受けられねえな」
「娘を巻き込みたくないから……ですか?」
「わかってんじゃねえか。だったら、最初からそんな話すんじゃねえよ」
説明を求めてきたのはそっちだ。情報だけ渡して、こちらに得がないのなら意味がなくなる。脅しをかけるのは気が引けたが、やむを得ない。
「すでに一度巻き込まれているじゃないですか。昨日のようなことが、今後ないとでも?」
「綯を人質にしてるつもりか?」
鳴りを潜めていた殺気が、また溢れ出す。
「殺すぞ、テメェ」
「……っ」
怯むな。ここで怯めば交渉が終わってしまう。
「協力し合おう、と言ってるんですよ」
「ふん。協力、ねぇ……。こっちにデメリットしかねえじゃねえか」