STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

79 / 303
(21)

一応は、これで納得してもらえた。俺とダルの表情から、何かを感じ取ったのか、フェイリスがあれこれと援護射撃してくれてなんとかなった。

 

「オカリン。黒木にも昨日の件、伝えておいたニャ。アキバの自警団にも話は通すから、街中はそれなりに安全になると思うニャ」

 

「すまないな、フェイリス。いつも世話になってばかりだ」

 

「こういうときこそ、フェイリスの力に頼ってくれていいのニャ。この秋葉原での狼藉は絶対に許さないのニャ♪」

 

秋葉原の大地主という立場を乱用することを嫌っているのに、こうして俺たちのために惜しみなくその力を使ってくれている。

 

「あの、僕にも何か手伝えることはありませんか?かがりさんが大変なのに、僕、何もできなくて…岡部さんの力にもなれないなんて……そんなの」

 

「まゆしぃも、かがりさんのために何かしたいな…」

 

「でも、私たちにできることなんてあるのかな…」

 

全員が黙り込んだ。あんな怖い目に遭っているのに、かがりのために何かをしたいと全員が思っている。

 

昨日はダルと、誤魔化すことばかり考えていたが、皆に協力を仰ぐのも一つの手かもしれない。

 

「K6205……」

 

さきほど、天王寺に言われた言葉を思い出した。

 

「なんぞそれ?」

 

「昨日の連中が口にしていたらしいんだが、俺にも何のことか分からないんだ」

 

ファイフが軍隊用語である、というのは言わないでおいた。

 

「ちょい待ち、ちょっとググってみる」

 

ダルはブラウザを表示させると、手早くその文字を打ち込んだ。

 

「んー、商品の番号とかしか出て来んね」

 

軍関係の暗号なのだろうか?だとすればお手上げだ。

 

「ケッヘル……」

 

「ん?来嶋さん。今何て?」

 

「いえ、Kってことは、ケッヘル番号かなって思ったんですけど、関係ないですよね…」

 

「カエデちゃん、ケッヘル番号って?」

 

「モーツァルトの曲につけられた番号のことよ。モーツァルトが亡くなった後に、ケッヘルっていう人が時系列に合わせてつけた番号なんだけど…。でも、さすがにモーツァルトでも六千もの楽曲は作ってないし、事件に関係はないかな…」

 

モーツァルト。

 

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。

 

「ごめんなさい。変な事言っちゃって…」

 

「ダル、そのケッヘル番号っていうのは、いくつまである?」

 

「えーと、最後が626番の『レクイエム』って書いてある」

 

「モーツァルトが死ぬ間際に書いていた曲ですね」

 

「カエデさん、詳しいね~」

 

「ほら、私ピアノやってるから」

 

「それじゃあ、K620番は何ていう曲だ?」

 

「620…620……お、あった。『魔笛』って曲みたい」

 

名前くらいは聞いた事がある曲だ。

 

「ちょっと見せてくれ」

 

『魔笛』

K620番。1791年作曲。モーツァルトが最後に完成させたオペラ。歌詞にフリーメイソンの様々な教義やシンボルが用いられていることで有名。

 

「K6205っつーことは、5曲目?」

 

5曲目は五重奏『Hm! hm! hm! hm!』

口に鍵をかけられた鳥刺しのパパゲーノが、鍵を外してくれと歌う——とある。

 

モーツァルト。アマデウス。フリーメイソン。口に鍵をかけられた?

 

「なんか分かりそう?」

 

「いや……そういうわけじゃないんだが…」

 

なんだろう。この気味の悪い感じは。それについ最近、モーツァルトのことを誰かと話したような気がする。

 

 

———。

 

 

真帆、だ。『Amadeus』にアクセスする際のIDが、モーツァルトに関係のあるサリエリだった。

 

だからなんだ、と言えばそれまでだが。

 

そういえば、昨夜、あの事件の直前に真帆が『Amadeus』にアクセスできなくなったと言っていたな。結局、あの原因は何だったんだ?

 

真帆にラインを送ると、返事は電話で来た。突然の電話に飛び上がりそうになる。

 

『なに?また何かあったの?』

 

「いや、そうじゃない。訊きたい事があるんだ」

 

『手短にお願い』

 

イライラしているのを隠そうともしていない。アクセスできなくなった原因を解明できていないのだろうか。

 

「『Amadeus』はどうなった?」

 

『ダメ…』

 

「システムが落ちているのか?」

 

『違うわ。サーバーにはある。なのに、アクセスできないのよ』

 

それはつまり——。

 

『何者かが、システムを乗っ取ったのかもしれない』

 

乗っ取られた?『Amadeus』が?でも、どうしてそんなことを?

 

『ごめんなさい。もういいかしら?原因が解明できたこっちから連絡するわ』

 

まくしたてるように言って、そのまま通話が切れた。

 

「真帆たん?なんて?」

 

「『Amadeus』が、何者かによって乗っ取られたらしいって…」

 

「乗っ取りかー」

 

「モーツァルト繋がりで、何か関連があるかと思ったが」

 

今はまだ何とも言えない。

 

不審な出来事の断片が、俺の周囲には無数に散らばっている。そんな気がする。それらをひとつひとつ集めて関連付けていけば、答えが見えてくるんだろうか。

 

たとえば、阿万音由季の左腕の怪我だってそうだ。疑っているわけではない。だが、あれが何を意味しているのか…。

 

「っ⁉」

 

真帆との電話を終え、スマホをポケットにしまおうとしていたちょうどその時、再び着信音が鳴った。

 

真帆が何か言い忘れたのだろうか、と思って発信者の名前を見た俺はハッとした。

 

「これは…」

 

 

“紅莉栖”……。

 

 

「オカリン、電話…誰から?」

 

その質問に返答さえ出来ないまま、俺はじっと画面を見つめた。

 

どういうことだ?乗っ取られたはずじゃないのか?どうして“紅莉栖”から着信が来る?

 

これは何かの罠か?

 

『Amadeus』を乗っ取ったのは誰だ?そういえば、アクセス出来なくなったのは、ラボが襲撃される直前。あのライダースーツの女たちが、『Amadeus』を乗っ取った?

 

どうする。俺は出るべきか?出ないべきか?

 

「オカリン、出ないの?」

 

まゆりの一言が背中を押した。

 

俺は応答のボタンをタップした。

 

「もしもし……」

 

『……助けて!』

 

画面に“紅莉栖”が現れるなり、泣き出しそうな顔でそう言った。

 

「“紅莉栖”っ⁉」

 

『助けて……岡部っ!』

 

その瞬間、激しい眩暈に襲われて、視界が闇に覆われた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。