STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
一応は、これで納得してもらえた。俺とダルの表情から、何かを感じ取ったのか、フェイリスがあれこれと援護射撃してくれてなんとかなった。
「オカリン。黒木にも昨日の件、伝えておいたニャ。アキバの自警団にも話は通すから、街中はそれなりに安全になると思うニャ」
「すまないな、フェイリス。いつも世話になってばかりだ」
「こういうときこそ、フェイリスの力に頼ってくれていいのニャ。この秋葉原での狼藉は絶対に許さないのニャ♪」
秋葉原の大地主という立場を乱用することを嫌っているのに、こうして俺たちのために惜しみなくその力を使ってくれている。
「あの、僕にも何か手伝えることはありませんか?かがりさんが大変なのに、僕、何もできなくて…岡部さんの力にもなれないなんて……そんなの」
「まゆしぃも、かがりさんのために何かしたいな…」
「でも、私たちにできることなんてあるのかな…」
全員が黙り込んだ。あんな怖い目に遭っているのに、かがりのために何かをしたいと全員が思っている。
昨日はダルと、誤魔化すことばかり考えていたが、皆に協力を仰ぐのも一つの手かもしれない。
「K6205……」
さきほど、天王寺に言われた言葉を思い出した。
「なんぞそれ?」
「昨日の連中が口にしていたらしいんだが、俺にも何のことか分からないんだ」
ファイフが軍隊用語である、というのは言わないでおいた。
「ちょい待ち、ちょっとググってみる」
ダルはブラウザを表示させると、手早くその文字を打ち込んだ。
「んー、商品の番号とかしか出て来んね」
軍関係の暗号なのだろうか?だとすればお手上げだ。
「ケッヘル……」
「ん?来嶋さん。今何て?」
「いえ、Kってことは、ケッヘル番号かなって思ったんですけど、関係ないですよね…」
「カエデちゃん、ケッヘル番号って?」
「モーツァルトの曲につけられた番号のことよ。モーツァルトが亡くなった後に、ケッヘルっていう人が時系列に合わせてつけた番号なんだけど…。でも、さすがにモーツァルトでも六千もの楽曲は作ってないし、事件に関係はないかな…」
モーツァルト。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。
「ごめんなさい。変な事言っちゃって…」
「ダル、そのケッヘル番号っていうのは、いくつまである?」
「えーと、最後が626番の『レクイエム』って書いてある」
「モーツァルトが死ぬ間際に書いていた曲ですね」
「カエデさん、詳しいね~」
「ほら、私ピアノやってるから」
「それじゃあ、K620番は何ていう曲だ?」
「620…620……お、あった。『魔笛』って曲みたい」
名前くらいは聞いた事がある曲だ。
「ちょっと見せてくれ」
『魔笛』
K620番。1791年作曲。モーツァルトが最後に完成させたオペラ。歌詞にフリーメイソンの様々な教義やシンボルが用いられていることで有名。
「K6205っつーことは、5曲目?」
5曲目は五重奏『Hm! hm! hm! hm!』
口に鍵をかけられた鳥刺しのパパゲーノが、鍵を外してくれと歌う——とある。
モーツァルト。アマデウス。フリーメイソン。口に鍵をかけられた?
「なんか分かりそう?」
「いや……そういうわけじゃないんだが…」
なんだろう。この気味の悪い感じは。それについ最近、モーツァルトのことを誰かと話したような気がする。
———。
真帆、だ。『Amadeus』にアクセスする際のIDが、モーツァルトに関係のあるサリエリだった。
だからなんだ、と言えばそれまでだが。
そういえば、昨夜、あの事件の直前に真帆が『Amadeus』にアクセスできなくなったと言っていたな。結局、あの原因は何だったんだ?
真帆にラインを送ると、返事は電話で来た。突然の電話に飛び上がりそうになる。
『なに?また何かあったの?』
「いや、そうじゃない。訊きたい事があるんだ」
『手短にお願い』
イライラしているのを隠そうともしていない。アクセスできなくなった原因を解明できていないのだろうか。
「『Amadeus』はどうなった?」
『ダメ…』
「システムが落ちているのか?」
『違うわ。サーバーにはある。なのに、アクセスできないのよ』
それはつまり——。
『何者かが、システムを乗っ取ったのかもしれない』
乗っ取られた?『Amadeus』が?でも、どうしてそんなことを?
『ごめんなさい。もういいかしら?原因が解明できたこっちから連絡するわ』
まくしたてるように言って、そのまま通話が切れた。
「真帆たん?なんて?」
「『Amadeus』が、何者かによって乗っ取られたらしいって…」
「乗っ取りかー」
「モーツァルト繋がりで、何か関連があるかと思ったが」
今はまだ何とも言えない。
不審な出来事の断片が、俺の周囲には無数に散らばっている。そんな気がする。それらをひとつひとつ集めて関連付けていけば、答えが見えてくるんだろうか。
たとえば、阿万音由季の左腕の怪我だってそうだ。疑っているわけではない。だが、あれが何を意味しているのか…。
「っ⁉」
真帆との電話を終え、スマホをポケットにしまおうとしていたちょうどその時、再び着信音が鳴った。
真帆が何か言い忘れたのだろうか、と思って発信者の名前を見た俺はハッとした。
「これは…」
“紅莉栖”……。
「オカリン、電話…誰から?」
その質問に返答さえ出来ないまま、俺はじっと画面を見つめた。
どういうことだ?乗っ取られたはずじゃないのか?どうして“紅莉栖”から着信が来る?
これは何かの罠か?
『Amadeus』を乗っ取ったのは誰だ?そういえば、アクセス出来なくなったのは、ラボが襲撃される直前。あのライダースーツの女たちが、『Amadeus』を乗っ取った?
どうする。俺は出るべきか?出ないべきか?
「オカリン、出ないの?」
まゆりの一言が背中を押した。
俺は応答のボタンをタップした。
「もしもし……」
『……助けて!』
画面に“紅莉栖”が現れるなり、泣き出しそうな顔でそう言った。
「“紅莉栖”っ⁉」
『助けて……岡部っ!』
その瞬間、激しい眩暈に襲われて、視界が闇に覆われた。