STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
(1)
世界線変動率
1.064750 → 0.571082
α世界線
「ここ……は…」
緩慢な動作で辺りを見回す。見間違えるはずもない。未来ガジェット研究所——。
さっきまで俺がいた場所だ。俺はソファに腰掛けている。
なにもおかしいことはない。ただそれも——皆の姿が消えてしまっていなかったのなら、だ。室内からは、今までそこにいたみんなの姿が消えていた。
時計を確認する。ついさっき、真帆との電話を終えた時はまだ15時になるかならないかの時間だった。あれから数分しか経っていない。仮に俺が気を失っていたとしても、その僅かな間に、全員がどこかへ行くというのは考え難い。
ということは——。
室内をゆっくり歩く。奇妙なことは他にもあった。
いつもダルが向かっているPC。そのキーボードの上にうっすらと埃が積もっている。まるでしばらくの間、誰も使っていないかのようだ。そして部屋の隅。いつもなら、まゆりの紙袋が置いてある。作りかけのコスプレ衣装なんかが入れられている紙袋だ。さっきまでは確かにあったはずのそれも、いつの間にか無くなっている。
「また、世界線が………変わった…」
でも、どうして?
そういえば、さっきの“紅莉栖”の言葉。
『助けて……岡部っ!』
なぜ“紅莉栖”はあんなことを?この世界線変動と関係があるのか?
それを確かめようとしてポケットからスマホを取り出し『Amadeus』のアプリを起動しようとして、その指が止まった。
「消えてる……」
スマホ上からアプリアイコンが消えていた。
「どういうことだ……これは…?」
脳をフル回転させ、何が起きているのか必死で考える。しかし、いくら考えても答えは出てこない。
「落ち着け……とにかく、状況を確認するんだ…」
この世界線がどんな状況なのかを、冷静に確かめなければならない。
そう決意して、ドアへと足を向けようとしたその時——。
部屋の奥。今はもうほとんど使っていなかったはずの、開発室の奥から物音が聞こえた。
誰かいる。
誰だ?
ダルか?まゆりか?
ゆっくりと近づいていく。
「っ………!」
息が——止まりそうだった。
忘れない。忘れられるはずもない姿。
そこに立っていたのは——。
牧瀬紅莉栖は視線を落として、ただじっと何かを見つめているようだった。見えているのは後ろ姿だけ。
(馬鹿……な)
紅莉栖がいるわけがない。だってあいつは。あいつは死んでしまったんだから。
もしかして幻でも見ているのだろうか?紅莉栖に会いたいと願う気持ちが、あいつの幻を生み出したとでもいうのか?
しかし幻とするには、その姿はあまりにもリアルで。それなのに、声をかけてしまえば、すぐにでも消えてしまいそうで。俺は言葉を発する事も出来ずにいた。
紅莉栖は、身じろぎ一つせず、いったい何を見つめているのだろう。あまりにも動かない彼女を前に、やはり幻に違いないと、そう思い始めた時。
「はぁ……」
紅莉栖はようやく小さな息を吐き出し、そしてゆっくりと振り返った。
「ぁ…岡部」