STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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ラボにはかつて鈴羽が残していったダイバージェンスメーターがあったらしい。俺はそれすらも破棄したようだが。その数値は0.571082。俺がかつて、α世界線で最後に見た0.571046と、ほとんど変わらない数値だった。

 

この世界線はロト6のDメールを最後に、大きな過去改変が起こらなかった世界線のようだ。だが、俺が知っている世界線とはその様相は大きく変化していた。

 

なんと俺たちは8月17日にSERNのサーバーにハッキングをかけ、最初のDメールを削除していたのだ。それなのに、この世界線はβには切り替わらなかった。

 

そもそも、SERNが俺たちに目をつける事がなかったのだ。つまり、俺がダルに送った最初のDメールをきっかけに、SERNがディストピアを構築したわけではなかったのだ。

 

その証拠に、2011年になっても、紅莉栖はSERNに身柄を拘束されていない。俺もダルも、フランスで軟禁状態にあったはずだが、それもない。こうして今、ラボにいることが何よりの証拠だ。

 

では、なぜSERNはタイムマシンを開発できたのか。

 

それはSERNが『Amadeus』を使ったからだ。この世界線でも、『Amadeus』の研究はされていて、β世界線と同じく、紅莉栖の記憶データをベースとした、“紅莉栖”が存在していた。SERNはそれに目をつけ、『Amadeus』を乗っ取った。俺たちは最初のDメールを削除したため、SERNにその存在を知られることがなかったのだ。

 

β世界線で、真帆が『Amadeus』にアクセスできないと言っていたのも、それが原因だったのだ。

 

SERNが『Amadeus』に目を付けたきっかけ。それこそが、俺が1月2日に天王寺に全てを話してしまったことだった。俺が話した内容を、天王寺はSERNに報告したのだ。だからラボが目をつけられることなく、ディストピアが構築される未来が確定した。

 

それがこの世界線の経緯だった。俺の知っているα世界線とは様相が異なっていた。

 

「私が分かってることは全て話したわ。次はあんたの番」

 

その剣幕に、俺は話さざるを得なかった。

 

俺は俺の経験したα世界線のこと、そしてβ世界線でのことを話した。

 

2010年8月17日に、俺がいたα世界線でSERNにクラッキングをしかけ、β世界線へ行った事。未来では第三次世界大戦が勃発し、鈴羽がジョン・タイターとしてやって来たこと。

 

その原因が紅莉栖の書いたタイムマシン論文であり、父であるドクター中鉢がそれを奪ってロシアへ亡命した事。紅莉栖の救出に赴いて、失敗したこと。そこで俺が諦めてしまった事。

 

もちろん、俺が紅莉栖を殺してしまったことについては言わなかった。言えるはずがない。思い出しただけで吐きそうになる。

 

その後、ATFのセミナーで『Amadeus』と出会い、レスキネン教授と真帆に出会った事。テスターを始めた事。12月15日に一度、世界線が変動したこと。

 

まゆりの娘である椎名かがりが記憶喪失の状態で現れた事。かがりを狙ってラボが襲撃されたこと。天王寺に全てを話し、このα世界線へと飛ばされてしまった事。

 

全てを話した。

 

「なるほど。あんたはβ世界線では真帆先輩と出会っているのか」

 

「この世界線でも、お前は比屋定さんと……?」

 

「ええ。休みを利用して日本に来ているけど、もう少ししたらまたアメリカに帰るつもりだったから」

 

「そうか…」

 

「ってあんた、真帆先輩に変なこと言ってないでしょうね⁉」

 

「へ、変なこと…とは?」

 

途端、紅莉栖は顔を赤くしてモジモジとしだした。

 

「そ、その……私が………ってことよ!」

 

「な、なんだって?」

 

「だから!私が@ちゃんねるを見ていることとかを言ってないかってことよ!」

 

そんなに知られたくないのなら、そもそも見なければいいだろうに。突っ込むのも野暮なので、俺はなにも言わないでおいた。

 

「比屋定さんには何も言ってないよ」

 

「そ、そう…ならいいんだけど」

 

紅莉栖は俺の話をひとつひとつ吟味しながら、ホワイトボードに文字を書き連ねていった。

 

「ふむん。なるほどね…」

 

少し考え込んだ後、結論が出たかのように頷いた。

 

自分の死に父である牧瀬章一が関わっていることに、ショックを受けるかと思ったが、特にそんな素振りは見せなかった。

 

「やっぱり私の考えは間違っていなかったわね」

 

「…というと?」

 

「私が送ろうとしていたDメール。その内容は、『Amadeus』の研究をとん挫させるものだったのよ」

 

「『Amadeus』を…とん挫?」

 

「阿万音さんから、未来で『Amadeus』が使われていることは聞いていた。そして私はあの研究を凍結させる術を知っている。だからそれを送るべきかどうか、ずっと考えていたってわけ」

 

「『Amadeus』を凍結させることで、α世界線を脱出できるのか…?」

 

「タイムマシン開発に使われているのが、私の中にある知識なんだとすれば、『Amadeus』を凍結させれば、SERNと言えど手を出せなくなる。それに、私やあんたの名前を出すわけじゃないから、エシュロンに捕捉されてもラボは目をつけられない」

 

そんなことで、アトラクタフィールドを超える事ができるのか…。

 

「じゃあ、あんたがβ世界線に戻るべき理由を話す」

 

「…………」

 

あくまでも、俺を戻らせようとするんだな。自分を犠牲にして。

 

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