STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
記憶の研究について、どんな話があったのかをルカ子に聞いたのだが、僕には理解できませんでした…と、また落ち込んでしまったため、かがりを呼ぶことになった。
「改まってお話って何かな?」
これからバイトというタイミングで急に呼び出されたかがりは、かなり戸惑っているようだった。
「話はちょっと待ってくれるか?もうひとり呼んであるんだ」
「もうひとり?」
俺もヴィクトルコンドリア大学については詳しいわけじゃない。構内の話をするにしたって、それが正解かどうかは分からない。もうすぐ着くはずなんだが……。
「おじゃまします」
学校の話は実際に通っていた人間に訊くのが一番に決まってる。というか真帆は今も大学の脳科学研究所に所属しているのだから、いわば現役なのだ。
「あ、真帆さん。こんにちは」
「ハイ、元気?」
真帆はまだ、かがりが未来からやって来た人間だという事は知らない。その辺のことは誤魔化しながら話すしかない。ちなみに、かがりも鈴羽やまゆりから、そのことについては誰にも話さないように釘を刺されているらしい。
「それにしても、本当に紅莉栖に似てるわよね…」
真帆はかがりの姿をまじまじと見て、俺にだけ聞こえるように囁いた。
無理もない。俺だって最初は驚いたのだから。
「真帆さん。そんなに見られると恥ずかしいよ~」
「あー、ごめんなさいね。発育がいいものだから、うらやましくなっちゃって」
「イヤん、エッチ!」
α世界線に飛ばされる前に見たかがりとは性格があまりにも違う。性格、というよりは精神年齢だろうか。中身はまだ子供のまま、身体だけが大人になってしまった、というべきか。純粋な子供、とも言い切れない微妙な年齢といった感じだ。
「何を食べたらそんなに大きくなるのかしらね…」
どこを見てそう言っているのかは考えないことにした。まぁ、真帆は小さいしな。全てが。
と、そんな話は置いておいて、俺はここに来てもらった理由を真帆に話した。
「じゃあ何?彼女がうちの学校にいたかもしれないっていうの?」
「ちょっと待って。そんなこと言われても、私、そのなんとかトルコドリア大学なんて知らないよ?」
かがりが記憶喪失であることは真帆にも伝えてある。
「ヴィクトルコンドリア大学」
「ほら、ね?名前だってちゃんと憶えてないんだもん」
「でも、昨日は知っている様子だったんだろう、ルカ子?」
突然指名されてルカ子がビクッと跳ね上がる。頼むから緊張しないでくれ。
「は、はい。奥にある部屋で、ねずみさんを使った実験を行っているって。そしたら、その後、本当にその部屋での実験の様子が映って…」
内容を先に言い当てた、ということか。
「かがりはそのことは?」
「んとね……覚えてない…」
ルカ子が嘘をついているとも思えないし、嘘を吐く理由だってない。
ではかがりが嘘を…とも考えたが、そんな様子は見受けられない。
「漆原さん。その研究室がどこだったか分かる?」
「えっと……詳しくは分からないですけど、脳とか記憶とか、そんな研究をしているって言ってました」
「ということは、もしかすると脳科学研究所かもしれないわね」
脳科学研究所。それってつまり——。
「私が所属しているところよ」
そして、紅莉栖がいたところでもある。
「それじゃあ、もしかしたら、かがりは比屋定さんや紅莉栖と会っていたかもしれない、ということか?」
「あくまでも仮定の話よ。脳科学を研究しているところは、ひとつじゃないし。私のいるところだって、院生だけじゃなく、一般の研究者もたくさん出入りしてるもの。私だって、研究所にいる全員と顔を合わせたわけじゃないわ」
真帆はかがりの顔をじっと見る。
「ただ、同じ日本人となると、見かければ記憶には残っているでしょうね」
それは暗に、真帆の記憶にはないと言っているに等しい。つまり、会ってはいないということだ。
「ルカ子。他にかがりのことで気になったことはないか?」
そういえば、かがりはルカ子の事を、るかくん、と呼んでいる。まゆりも同じだ。鈴羽はるかにいさん。まぎれもなくルカ子は男なのだ。俺もそろそろルカ子ではない呼び方に変えるべきかもしれない。
「えっと……かがりさん、時々びっくりするくらい、難しい事を知っていたり……」
「私だって、難しいことくらい知ってるもん」
かがりが口をとがらせてむくれた。
こういう表情に関しては、紅莉栖とは似ても似つかない。
「たとえば?」
「えーと、えーっと……バラとか、ユウウツ、とか」
それは漢字が難しいだけであって、難しい事を知っているのとは違うぞ。
「昨日はテレビで、記憶のねつ造について放送していたんですど、それもなんだか詳しそうでした」
「記憶のねつ造……ね。確かにその研究をしているチームもいるわ。私たちも一度、話を聞かせてもらいにいったもの」
「かがり。今その話は出来るのか?」
「えーと……それがよく分からないの。私、ホントにそんなこと話してたの?るかくん、嘘ついてない?」
「ほ、本当に話してましたよぅ……」
かがりは眉間に指をあてて考え込む。どうやら本当に心当たりはないらしい。
「今までに、こういうことは良くあったのか?」
「最近まではそれほど……この何日かで急に…」
どうしてかがりにヴィクトルコンドリア大学の知識があるのかは分からない。だが、少なくとも消失しているかがりの記憶に関係があることは確かだろう。その辺りをもう少し掘り下げていけば、何かしらの手がかりに辿り着くかもしれない。あわよくば、記憶を取り戻すことだってあり得る。
「っ………!」
突然、かがりが苦し気な声を上げた。
「かがりさん?どうしたんですか?」
「っ……ちょっと、頭が…」
「痛いんですか?」
ルカ子が心配そうに覗き込む。
「うん。ちょっぴり…」
「少し、横になるか?」
「大……丈夫」
「すまない。少し話を急かし過ぎたかもしれないな」
「ええ、そうね。負担が大きかったのかもしれないわね」
真帆もルカ子同様、かがりの様子を心配そうに見つめた。