STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「本当に平気?」
「う、うん。大丈夫…です。ありがとう、先輩」
「だったらいいのだけど…」
それはあまりにも自然なやり取りだった。その為、もう少しで俺も真帆もそのまま聞き逃すところだった。
「お、おい…今…」
「うん……先輩、って」
俺と真帆が目を見合わせる。
「え?」
かがりは、自分がそう言ったことに気付いていないようだ。
「かがり、君は今、比屋定さんのことを先輩…って呼んだよな?」
「う、うそ…私、そんなこと……?」
「いいえ。間違いなく言ったわ。漆原さん。あなたも聞いていたわよね?」
「は、はい」
先輩。真帆とかがりがヴィクトルコンドリア大学で面識があったわけではないということは、さっきの話からもはっきりしている。となると、単なる言い間違いだろうか?
「ん?」
外階段を上って来る足音に、思考が中断される。やけに重たそうなその足音の持ち主が誰なのかは、考えるまでもなかった。
「おつー」
「お邪魔してます」
「あ、真帆たんも来てたん?」
「その呼び方はやめて」
「足りるかなぁ……えーっと、ひー、ふー、みー……」
真帆の苦情もそっちのけで、人数を数え始めたダルの手には、何やら紙袋が提げられている。
「よかった。大丈夫みたい」
「何が大丈夫なんだ?」
「ほら、この前、駅前に出来たアトルあるでしょ?あそこに美味しそうなプリン売っててさ。たまにはと思って買って来たんだけど、人数分あるかなって」
言いながら、さっそく紙袋から取り出した箱を開け、テーブルの上にプリンを並べ始める。
「全部で6個。これでちょうどだなぁ。ふう。足りてよかったのだぜ」
「ちょうどって、ここには5人しかいないわよ」
「心配しなくても真帆たんにもあげるのだぜ。それにこれは鈴羽の分だお。あ、真帆たん。自分が2つ食べたいからってそれはダメだお。これはあげんらんないよ!ラブリーマイド……シスターにあげる分だからね!」
ひとりでテンションを上げて、勝手に自爆しそうになっている。
「あなたたちって、仲の良い兄妹よね。どうしたら橋田さんに、あんなに可愛い妹ができるのかしら」
これまで一度も奢ってくれたことなどなかったダルも娘を前にすれば財布の紐も緩むらしい。鈴羽とは同い年だというのに、立派に父親をやっているものだと感心してしまう。
だが——。
「ダル、後にしろ」
今は真面目な話をしているんだ。
「なに、みんな難しい顔して。ボクがこんなん買ってくるの、そんな珍しい?ま、確かにその通りだけど、ちょうどバイトで結構な臨時収入が入ったんだよね。仕事が出来る上に、気配りと収入を持ち合わせているボクに惚れてもいいのだ………あれ?」
紙袋を突然逆様にして上下に振り始める。
「スプーンが足りない!さては店員のお姉さん、入れ忘れたな」
「使ってないスプーンなら、確か流しのところに……」
ルカ子がスプーンを取りに行こうと一歩踏み出すと同時。
「あ、私、マイスプーン持ってるから」
かがりの声に、ルカ子の動きが止まる。
そのまま不思議そうな顔でかがりを見た。
「かがりさん、マイスプーンなんて、持ってましたっけ?」
「え?」
「かがりさんが持っていたのって、うーぱのキーホルダーだけだったような……」
「あれ?そう……だよね?おかしいな。なんで私、持ってるなんて……」
マイスプーン。そのへんてこなキーワードを、以前にも聞いたことがある。普通この歳にもなって、マイスプーンを持ち歩いている人はそうそういない。マイ箸ですら最近では下火だ。スプーンとなるとなおの事。
でも、俺は知っている。マイスプーンを持っていた人物を。
それは——。