STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「…………」
さっき、真帆のことを先輩と呼んだ件といい、今の件といい、やはりかがりは紅莉栖の事を知っているのか?
「比屋定さん。ひとつ訊きたいんだが……アメリカで君の事を、先輩と呼ぶ人間は何人いた?」
「ひとりだけよ。先輩とか後輩とか、そういう呼び方とか関係は、日本独特のものだから」
そのひとりが誰なのかは聞くまでもない。
「私を先輩と呼んでいたのは……紅莉栖だけよ」
「く、りす……」
かがりが紅莉栖の名前に反応した。
「かがり、君は牧瀬紅莉栖のことを知っているのか?」
「紅莉栖……牧瀬、紅莉栖……」
知っていて、紅莉栖の真似をしている?だが、なぜそんな必要がある?
「牧瀬紅莉栖……」
かがりは必至で自身の記憶を探ろうとしているようだが、うまくいっていないようだ。額には汗がにじんでいる。頭痛はまだ続いているのかもしれない。
「無理はしなくていい。急いで思い出す必要は——」
「ううん。このままにしとくのも、なんだか気持ち悪い……」
「何か、思い出せそうなんですか?」
「わかんない……わかんないから、オカリンさん。何か、話して……」
「え、ちょ…いったい何がなんなん?」
紅莉栖の名前を聞いただけで、ここまでの反応。何かしらの関連があるのは間違いなさそうだ。
考えられる可能性は何だ?
かがりが1998年に鈴羽と別れた後、どこでどう過ごしていたのかが問題になってくる。
どこかで軟禁状態になっていた、という俺の想像は間違っていたのか?
やはり、紅莉栖とは知り合いだった、ということなのか?
紅莉栖との記憶が混同し、自分の記憶だと思い込んでいる、という可能性があるのか?
それとも——。
ふと、α世界線で紅莉栖が開発したあのマシンのことを思い出し、そこからとある仮説を連想してしまった。そんなバカな事はあるわけがない、と自分の考えを慌てて否定する。
「………」
真帆と目が合った。コクリと頷いてくる。
「かがり、じゃあいくつか質問させてくれ」
そんなくだらない妄想はともかく、かがりが紅莉栖のことについて、どれくらい知っているのか。それをはっきりさせたかった。
「君の父親は、どこにいる?」
「パ、パパは……死んじゃった。子供の頃に…」
紅莉栖の記憶が混同しているなら、そうは答えないはず。これはかがりの記憶だ。かがりは10歳より前のことは覚えていると言っていた。これは未来での話。戦災孤児としてのかがりの記憶だ。
「それじゃあ、栗ご飯と言ったら、何を思い浮かべる?」
「栗ご飯…。なんなの?」
真帆が冷たい目を向けてくるが、無視する。
「答えてくれ、かがり」
「栗ご飯………カメハメ波…?」
「っ!」
まわりは全員キョトンとしているが、俺だけは心臓が止まりそうだった。
どうして知っている?
『栗悟飯とカメハメ波』は、紅莉栖が@ちゃんねるで使っていたハンドルネームだ。その事はおろか、自分が@ちゃんねらーであることすら、あいつはひた隠しにしていた。決して誰にも言っていないはずだ。そんな本人しか知り得ない情報を、どうしてかがりが知っている?
かがりの額には、ますます汗が滲んでいた。ルカ子が心配そうにハンカチを差し出す。
「かがり……タイムトラベルの主な理論がいくつあるか知っているか?」
再び真帆が冷たい視線を向けてくるが、俺は目だけで制止した。
「11」
かがりはさも当たり前、という顔ではっきりとそう答えた。
「全部で11。……あれ、違ったかな?」
もしかしたら、という気持ちで質問したんだが、まさか本当にそう答えるなんて。
「11の理論を具体的に説明できるか?」
「……中性子星理論。それから、ブラックホール理論に、光速理論。タキオン理論、ワームホール理論……エキゾチック物質理論。宇宙ひも理論、量子重力理論、セシウムレーザー光理論。素粒子リング・レーザー理論。最後にディラック反粒子理論……」
「……全部、合ってる」
かがりが理論の名前を列挙するに従って、口をあんぐりと開けていた真帆が絞り出すように言った。
「ねぇ…岡部さん……私、どうしてそんなこと、知ってるんだろう……」
かがりは少し泣きそうな顔でそう尋ねてきた。
俺の呼び方が、オカリンさんから、岡部さんに変化したことも、少し気になった。
「もうひとつ訊くが、それらの理論を用いて、タイムマシンは作れると思うか?」
かがりは少し考え込んで、答えた。
「出来ない、と思う」
「ほう…」
「あ、でも、この11の理論では作れないけど、今後の科学の発展次第では、出来なくもない……んじゃないかな」
「どうしてそう思う?」
「どうして?それは、んとね……どうして、だろ?」
こう答えるのは意外だった。今の答えは、かつて紅莉栖が言ったことと同じ。だが、かがりはタイムトラベラー。この時代に来てからのことは覚えていないにしても、タイムマシンの存在は知っている。真帆がいる手前、隠さなければならない話ではあるが、かがりはそんなことを気にして話しているわけではなさそうだ。
純粋に、タイムマシンを作れるかどうかを考えている。
嫌な予感が強くなる。
「じゃあ質問を変えよう。その考え方に行きついたのは何故だ?」
「わかんない………けど、ただ……何となく、知ってたような…」
知っていた、か。
かがりの中に、知識として存在していた、ということだ。
先ほどの俺の予想が正しければ、こうは答えない気がしていたんだが、俺の思い違いなのか?であれば、やはり紅莉栖と交流があり、共にヴィクトルコンドリア大学で学んでいて、こんな話もしていたのか?そして、@ちゃんのハンドルネームも教えてもらうほどに親しかったのか?
だから、その記憶を自分の記憶だと思い込んでいる、ということなのか?
だが、紅莉栖はそれほど親しい友人はいなかった、と自分で言っていた。真帆とは先輩後輩として良好な関係を築いていたようだが。やはり、俺の中のありえない想像が当たっている気がしてならない。それを否定することができない。