STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「それって、かがりが二重人格ってこと?」
「いや、そうじゃない。二重人格っていうのは、正確には解離性同一性障害といって、誰かの中に別の人格が出来ることだ。言うなれば、今の自分に対する不満や不安から、自らの中に別の人格を作ってしまうようなものだな」
記憶と人格は別物だ。
「だが、かがりの場合は違う。かがりの中にあるのは、文字通り記憶だけだ。紅莉栖の記憶だけが、彼女の頭の中に混在している……と考えられる」
上書きされたわけじゃない。かがり自身の記憶も残っている。
「なるほど。2036年の技術では、それは決して不可能な話じゃない」
「じゃあ、2036年からのタイムトラベラーであるかがりなら、じゅうぶんその可能性がある、ということか?」
「でもさ、かがりたんは10歳より前の記憶はあるわけっしょ?他人の記憶をぶち込まれるなんてことされたら、そときのこと覚えてるはずじゃね?」
そうなると、10歳まで……未来にいたときに記憶を入れられた、というわけではないのか?
「あの子は幼い頃、たまに“神様の声”が聞こえるって、言っていたような気がする」
「幻聴か?それが紅莉栖の記憶からにじみ出てきたものっていうのは考えられる」
「うん…。でも、未来はこの時代のほどのどかじゃなかった。物資も人も足りてなかったんだ。記憶を移植する、なんていう技術が実用化されているとしても、軍の機密扱いだよ。一般人の、しかも子供に使った、とは考えられないな」
それは確かにそうだ。だが、未来でも軍事機密扱いの技術を、この時代で使えるのかと言えば、それも難しい気がするが。
「かがりは戦災孤児だったんだよな?PTSDを治療するためにそういう技術が使われた、ということは?」
「……だからって他人の記憶を移植するのはさすがに変だ」
「……だな」
となると、記憶のない時期——この時代に来てから、という可能性が高くなる。
「1998年以降の出来事なのかもしれないな」
「この時代の技術でそんなことできるん?」
「…牧瀬紅莉栖なら、不可能ではない…かもしれない」
紅莉栖はこの時代にタイムリープマシンを一人で作り上げたんだ。不可能とは言い切れない。
「牧瀬紅莉栖がかがりに自分の記憶を移植したって…?彼女はそんなマッドサイエンティストみたいなことをする人だったの?」
「…………そんなわけ、ないだろ」
言い淀んだのは、紅莉栖が実験大好きっ子だからだ。さすがにそれはないと思うが…。
「でも、紅莉栖ほどの天才は他にはそういないのも事実だ。あいつ以外にそれが出来るとも思えない」
とはいえ、突飛な発想過ぎる。
一度思いついてしまった発想に、固執し過ぎてしまっているのかもしれない。
「でも、紅莉栖しか知り得ないことをかがりが知っているのは間違いないんだ」
結局のところ、かがりがこの時代に来てから、どのように過ごしていたのかが分からなければはっきりしない。しばらくは様子を見守るしか出来そうにない。そんな結論に至った。
「そういえばダル。由季さんはどうしてる?」
「阿万音氏なら、毎日バイトで忙しいみたいだお」
「……彼女は何のバイトをしているんだった?」
「ケーキ屋さんって聞いてる。美味しいから一度食べに来てって言われた。そうそう。でもちょっと遠いんだよね」
「だからこそ、行ったら喜ばれるんじゃないか!しっかりしてよ父さん!」
「あ、はいサーセン。……つかオカリン。なんでいきなりそんなこと聞くん?」
「いや、ちょっと気になってな…」
あの時のライダースーツの女。もしかしたらあれは、阿万音由季だったんじゃないか。そんな疑惑が俺の中からいまだ拭いきれていない。もしもそうであるなら、かがりの件にも何らかの形で関わっているかもしれない。
もちろん、あの事件が起こったのは前の世界線での話だ。襲撃事件が起きていないこの世界線では、もう確かめようもないのだが……。
「もし、彼女のことで何か……」
「うん?」
「母さんがどうかしたの?」
ふたりが揃って首を傾げる。
「いや、なんでもない…」
まだ確証があるわけじゃない。そもそも、俺が彼女に疑いを持ったのは、ラボ襲撃時に彼女がいなかったこと。そして、鈴羽の蹴りを受けた左腕に怪我をしていたこと。それだけだ。彼女の動向は俺がそれとなく注意しておこう。それでいい。