STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~ 作:明治アル蜜柑
「オカリンさん?」
「あ、いや…」
かがりの中の紅莉栖の記憶。もしも、それが彼女の頭の中で完全に再現出来たとしたら、椎名かがりという少女は牧瀬紅莉栖になるのだろうか。馬鹿馬鹿しい考えだ。記憶と人格は別物だと、何度も言ってきたのは自分だ。
それでも、もしも——彼女の記憶が完全に紅莉栖のものになったら。
「オカリン、さん……」
そんな事を考えていると——。
かがりが急にふらついて、俺に身体を預けてきた。
「え?」
突然のことに息を呑む。胸元に触れる温もりが、感触が、紅莉栖を想起させる。
「紅莉……栖?」
「うぅっ……!」
苦しげなそのうめき声に、我に返った。
「っ……どうしたかがり!」
「頭……頭が…っ」
「頭が痛いのか…っ⁉」
「う……あぁっ……ぁ……!」
かがりは俺の腕の中で激しく身を捩った。
「いや……嫌だ……もう、あんなとこ、帰りたくない……っ!助けて……誰か……誰かここから出して‼」
「どうしたんだかがりっ!」
「助けてママ!どうして助けてくれないの?ママ!ママぁ!」
「落ち着け!落ち着くんだ、かがり!」
なおも暴れようとするかがりの両手を取って押さえつける。道行く連中が何事かと視線を向けていたが、今はそんなことを気にしている余裕もない。
「大丈夫。大丈夫だから……」
「う、あぁ……はぁっ……あ、あぁ……オカリン……さん……」
「歩けるか?とにかくラボに戻ろう」
「っ………ぅん」
ようやく落ち着きはしたものの、それでも苦しそうなかがりの肩を抱えるようにして、俺はラボへと向かった。
ラボに戻ってから、かがりはしばらく寝たきりだった。
ひとまず、頭痛は落ち着いているようだが、それでも時折うなされるような様子を見せていた。まゆり達には既に連絡しておいた。もうすぐ来てくれるはずだ。
それにしてもさっきの言葉——。
『助けて……誰か……誰かここから出して‼』
『助けてママ!どうして助けてくれないの?ママ!ママぁ!』
あれは、失われたかがりの記憶の断片……なんだろう。
俺の予想が正しかった、ということだろうか。やはりどこかで囚われていた。
それは間違いなく、この時代に来てからのことで。それから12年の間に紅莉栖の記憶を入れられた……。そう考えるのが一番しっくりとくる。
「オカリン!」
ドアが開いてまゆりとルカ子が飛び込んできた。
「かがりさん、大丈夫なんですか⁉」
「あぁ…今はよく眠ってるよ」
「よ、よかったぁ~」
まゆりとルカ子は安心した顔を見せる。進路説明会が終わってすぐに駆け付けてくれたのだろう。この季節だというのにふたりとも汗だくだ。
「ん……」
俺たちの話し声が耳に届いたのか、かがりがうっすらと目を開けた。
「かがりさん……」
かがりは身を起こすと、不思議そうに周囲を見回した。
「あ………あれ?ここ……どこ?」
チラチラと部屋を見ては、怯えたような表情をしている。
「落ち着いて。ここはラボですよ」
ルカ子が優しい口調で落ち着かせるようにそう言うが、かがりの表情は曇ったままだ。
「ラ……ボ?………日本?」
「そうだよ。日本の、秋葉原だよ」
「日本……私、日本に…?あ、そっか。私、交換留学で日本に……。そういえば、講演の準備は……」
「留学?」
「様子が、変です……」
まゆりとルカ子が俺の方を向く。
「ねえ、オカリン」
「っ………!」
留学。そして講演。それは紅莉栖の記憶だ。
「あれ?論文!論文は⁉パパに見てもらおうと思って。頑張って書いたんだけどっ!」
「落ち着けかがり!それは君の記憶じゃない!」
言い聞かせると、かがりはぼんやりした顔を上げた。
「………オカリン、さん?」
俺のことを認識してくれた。
「そう。お前は椎名かがりだ。牧瀬紅莉栖じゃない」
「かがり………私は……椎名、かがり……」
自分の名を口にすると、かがりは倒れるようにソファに沈み込んだ。
「あぁああああああああああ‼」
絶叫と共に、かがりは意識を手放した。