STEINS; GATE ~抗い続けた者たちの執念のエピグラフ~   作:明治アル蜜柑

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「かがり、酷いの?」

 

ラボに戻ると、開口一番に鈴羽が訊いてきた。ソファには鈴羽と、そして真帆が並んで座っている。ふたりにはあらかじめ、ラインで状況を伝えておいた。だが、それでも心配だったのだろう。

 

「今は落ち着いているが、一時はかなり混乱していた」

 

「やっぱり……紅莉栖の記憶?」

 

「ああ。ここまで来ると、もう間違いないだろう」

 

なぜそうなったのかは分からないままだが、かがりの頭の中には、牧瀬紅莉栖としての記憶がある。この問題にどう対処するのか。俺たちだけで出来る事は限られている。何故こんな事態になったのかを突き止めるくらいが関の山。それだけでは根本的な解決にはならない。

 

やはり、かがりから紅莉栖の記憶を取り除き、本来のかがり自身の記憶を戻してやるか。それが必要となる。

そのためには専門家が必要だ。そして、真帆はその専門家と言える。記憶や脳のメカニズムについてなら、これほど心強い人物はいない。

 

だが、避けられない問題がひとつ。

 

かがりが未来から来た存在だということ事実を打ち明けるべきかどうか。

 

前の世界線よりも、真帆と鈴羽たちの関りは薄い。鈴羽もいたずらに事情を話すことを良しとはしないだろう。

 

「ねえ。あなたたちはかがりさんとはどうやって知り合ったの?漆原さんのところに来る前は、彼女はどこで何をしていたのかしら?」

 

当然、湧いてくる疑問だ。

 

「かがりは千葉の県境で倒れていたところを助けられたんだ。意識を取り戻した時点で、それ以前の記憶はなかった」

 

鈴羽が間髪入れずにそう答えた。話すべきかどうか、鈴羽も迷っているようだ。真帆に気付かれないように、チラチラと俺に目を向けている。

 

「でも、子供の頃の記憶はあるんでしょう?鈴羽さんは、彼女と知り合いだったのよね?子供の頃の彼女はどこでなにをしていたの?」

 

「…………」

 

誤魔化しきれないと見て、鈴羽は押し黙った。

 

鈴羽は、今のかがりの状況に責任を感じているんだろう。真帆に話すことを躊躇ってはいるが、それでもかがりを元に戻してやりたいという気持ちが顔に表れている。

 

「おじさん。どうする?比屋定さんに話しても…?」

 

「っ!」

 

こいつは全く、隠す気があるのかないのか。ダルの妹として通している鈴羽が、兄の友達をおじさんと呼べば怪しがるのは当然だ。そそっかしいのはα世界線のときと同じだな。

 

「何か事情があるみたいね…………というか、おじさん?」

 

ほらみろ。やはり真帆に気付かれた。

 

どうするべきか。彼女に全てを打ち明けるべきなのか。

 

α世界線で、紅莉栖に真帆を頼れと言われた。信頼に足る人物だとは思っている。あの紅莉栖に天才だと言わしめる人だ。だが、真帆が科学者であるということが、俺が話したくないと思う理由でもある。

 

本当の事を話せば、きっとタイムトラベルに興味を覚えるに違いない。ともすれば、開発を始めてしまうかもしれない。それは多大な危険を孕んだ行為だ。彼女を巻き込めない、というのも本音だ。

 

だが、それ以上に——。

 

紅莉栖を救うことを諦め、β世界線の未来を受け入れてしまった俺には、再び過去と向き合うことは難しい。彼女に事情を打ち明ける事で、再び過去と向き合わなければならなくなるかもしれない。俺はそれが怖かった。

 

「前から不思議に思っていたのよ。鈴羽さんはどうして岡部さんをおじさんと呼ぶのかしら?それに、かがりさんもまゆりさんのことをママ、って呼んでいるのを聞いたわ。………あなたたちは何を隠しているの?」

 

「うーむ」

 

これは誤魔化しきれないな。

 

俺は鈴羽の方を向いて、頷いた。

 

「かがりを救う方法を突き止めるためだ。鈴羽。全てを話そう」

 

「うん。あたしはおじさんに従うよ」

 

今はまず、かがりを救うことを優先しよう。シュタインズゲートは目指せなくても、かがりのことはどうにかすると決めたのだから。

 

「今から話すことを知っているのは、ごく一部の人間しかいない。だから、比屋定さんも決して他の誰かに漏らしたりはしないで」

 

「な、なんなの…急に…」

 

鈴羽の突き刺すような視線と声に、真帆が顔を引きつらせる。鈴羽は殺気立っているとも言える態度だ。真帆が気圧されるのも無理はない。

 

「冗談に聞こえるかもしれないけど、冗談なんかじゃないんだ。約束できるか否か。答えはふたつにひとつだ」

 

「っ……」

 

戸惑いの表情で俺を見る。だが、俺の表情に何かを感じ取ったのだろう。

 

「わ、わかったわ。誰にも言わない。約束する」

 

しっかりと頷いた。

 

「それじゃあ、まずはさっきの質問の答え。子供の頃、あたしとかがりがどこで何をしていたか……」

 

鈴羽の視線は変わらず真帆を貫いている。

 

「あたしたちは、第三次世界大戦が終わった後の、いまだ各地で内戦が続く戦時下に暮らしていた。2036年のね」

 

「…………」

 

投げかけられた言葉にしばらくぽかんと口を開けていた真帆の顔が、怒りでみるみる紅潮していく。

 

「からかわないで。人が真面目に聞いているのに」

 

「…………」

 

鈴羽は何も言わない。

 

「比屋定さん。鈴羽が最初に忠告したはずだ。これは作り話でも冗談でもない。鈴羽とかがりは25年後の未来からやって来た存在なんだ。——タイムマシンでな」

 

「タイムマシン?そんな物が作れるわけが——」

 

「その理論の大元を作ったのが、牧瀬紅莉栖だと言っても、か?」

 

「…………っ!」

 

紅莉栖の名前を出された途端、真帆の顔から怒りの表情が消えた。

 

「そん……なの…」

 

タイムマシンなんて荒唐無稽な話も、天才、牧瀬紅莉栖ならば実現可能。真帆にとって、紅莉栖の存在は、それほどまでに大きいものだということだ。

 

「分かった。聞くだけは、聞くわ……」

 

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