誰が為の木偶人形   作:のんびりSR

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Another

「ここが……雄英……」

 僕は校門前で早々度肝を抜かれていた。本当に教育施設か、というほど大きく高く建つ建築物と、それを強固に守る堅牢な外壁。巨大な正門。僕は今からこんなところに挑戦するというのか。

 ──ヒーローになりたい。

 そうだ、僕はヒーローになるためにここにいる。こんなところで物怖じしている場合ではない。

 体の震えを意識的に抑える。もう慣れたものだ、心は幾ら揺らいでいても、個性の操作だけはブレることはない。大丈夫、いける。

 

 

 

 

「今日は俺のライヴにヨウコソー! エヴィバディSay HEYYY!」

 

 雄英まじか。

 こんなにフランクな入学試験が許されるのか。プレゼントマイクの大音量ウェルカムを一身に受け、僕はさらに気圧された。

 周りを見渡すと、僕と同じような反応をした受験生たちが、コンサートホールレベルの会場を埋め尽くしていた。ここにいる全員が、雄英志望。同志であり、ライバル。果たして、平凡だった僕──否、今だって未熟で平凡だ──が、勝ち上がれるのだろうか。

 それでも。

 ──ヒーローになりたい。

 この木霊だけは逃がしてはくれない。

 僕は覚悟を決め、前を向き──

 

 ──皆席を立ち始めていた。

 

 

 

 まずい、聞き逃した。

 

 

 非常にまずい。実技試験、それは僕も同年代の受験生も誰も受けたことがない形式の試験。ルール、目的、舞台……。平等に与えられるはずのそれらの情報を、一つでも聞き漏らせば、絶大なディスアドバンテージになるに違いない。

 教えてくれるかもわからないけど、誰かに聞かなければ……!

「ねぇ、君──」

『ハイ、スタート』

 ──……なんだ、今のは?

 僕は伸ばしかけた手を止めざるを得なかった。みんな困惑している。

「どうしたァ!? 走れ走れ! 賽は投げられてんぞォ!」

 まさか、あれがスタート合図? 会場に来ていきなり? 

 話しかけようとした緑頭の子も、状況を認識したのか走り出してしまい、完全に出遅れてしまった。慌てて個性をフル稼働させ、僕も街(を模した試験会場)へ飛び出していった。

 

 

 

「ブッコロス!」

 初めに見つけたのは、腕に"3"と印字のある大きなロボ。軽く捻り潰されてしまいそうな巨体と勢いで僕を捕捉した。奴の声と音に反応したのか、周りから"1"、"2"の印字の個体も囲んできた。

 ──あの事件を思い出しそうだ。だが、これに怯んでいるようでは到底ヒーローとしてはやって行けまい。やるんだ、絶対に!

 僕は自分の体に個性を使用し、空中へ浮かび上がる。跳躍ではない。人体を個性で直接操作することによる浮遊。そのまま"3"の個体に狙いを定め、予備動作0から瞬間的な加速を経て、僕の蹴りがロボの頭部を的確に破壊した。

 ロボの無力化を横目で確認し、その場で急停止。背面へ加速し、拳を振りぬき"2"のロボに当てた上で個性を発動。"2"をぐしゃぐしゃに破壊しながら"1"のロボへ突貫させ、全体破壊。

 多分、息をついている暇などない。きっとあの数字はポイント。この入試でははっきりと点数が出る。なら、他人よりも多く稼がなければならない。

 僕はその場で空高く舞い上がる。ソニックブームが出るほどの超高速移動を経て、上空で瞬間停止。ここなら、ロボの位置がまる分かりだ。

 1、2、3、……。15体までで数えるのをやめた。ここから直接降りて攻撃するには数が多い。なら──

「ふ、ぬっ!」

 先ほど破壊したロボのかけらを、個性を利用してここまで持ち上げる。重量はそこまでではない。見た目よりも軽量な素材でできているらしい。

 ロボの位置が変わっていないことを確認し、──

「発射ッ!」

 ──スクラップを発射した。

 自分の体ではないため音速を超えさせると非常に疲れてしまうから、拳銃程度の威力に抑えてある。

 地上では今の一撃で狙ったロボはすべて新たなスクラップになったようだ。

 これだ! 僕は確信した。これが最も効率の良い、かつ安全な得点の稼ぎ方。

 僕は再度スクラップを持ち上げ、移動し、目に見えた奴らに発射した。どのロボも強度は人間が生身でも破壊できるように作られてはいる。破壊には事足りる。

 

 

 そろそろ試験の終わりも近いだろう。点数は……ずっと上空にいた代償か、把握できていない。ロボに割り当てられた点数の最低点が1点なら、少なくとも30は取れていると思うが、問題は他の受験生がどれだけ取れているのか。もっと得点を稼ぎたいところ──

 

 ズガアァァアン

 

 ……雄英まじか。

 現れたのは、ビルを破壊しながら悠々と歩く超巨大ロボ。その迫力に、スクラップを放つ手を止めてしまった。

 "下"が騒がしくなってきたのを感じ、僕も流石に様子見で下へ降りることにした。

「なんなんだ、あれ……」

「あれがギミックなのか!?」

 ……ギミック?

 みんな知っているのか、やっぱり聞き漏らしてはいけない内容だったか……!

「お前話聞いてなかったのか!? あれがこの入試のギミックだ、早いとこ逃げたほうが──」

 ビュンッ

 僕はその言葉を聞いて、あのロボに向けて再び飛んだ。

 ギミック、ということは、奴を倒せば()()()()()()()()()()()()。狩られる前に僕が駆らなければ。

 しかし、パニックで騒がしくなった下を見ると、どうしても目に入ってしまう。"混乱の中で負傷し、身動きが取れなくなっている受験生たち"。点を稼がなければ……いやでも……。

「あー、もう!」

 僕は地面へ降り立ち、転んだ者、瓦礫に挟まれた者、頭を打った者……を安全な場所まで個性のキャパの許す限り運び、戻り、また運んだ。

「ありがとう!」

 どうも、と返答もそこそこに、彼らの救出を終えた僕は急いで飛び立った。そうしたら、やはりというべきか、すでにそのロボを倒さんと飛び上がった受験生がいた。よく見ると、僕が話しかけそびれた緑髪の子だ。

 彼はすでに拳を振りかぶっていた。ポイントは彼のもの、か……。

 いやしかし。果たしてあの巨大なロボを彼だけで倒すことができるのか? まだ介入の余地はある。

 僕は彼の隣に急停止。風圧で彼が煽られないように個性で無理矢理空気を押さえつける。

「君、奴を倒せるの!?」

 彼は驚いた顔をしながらも答えた。

「分からない! けど、やるしか!」

 そうか、君もポイントが心配なのか……*1。なら、せめて半分こ、とはいかないだろうか。

「手助けするよ。僕が君を加速する」

 僕は彼を精一杯の力で押し出すために集中した。スクラップよろしく打ち出された彼の拳は──

「SMASH!」

 ──破壊神の頭を彼方まで吹き飛ばした。

「もの凄い増強系だ」

 僕の力も乗っていたとはいえ、その破壊は彼のパワーの引き起こしたものだ。ゆっくりと倒れてゆく金属の塊を見ながら、僕は感嘆した。

 ヒーローに相応しい力を持つ彼は、何事もなく着地し、残りの僅かな時間の中でロボ狩りへ行ったのだろう。そう思って下を見ると、頭から真っ逆さまへ落ちてゆく彼の姿があった。

「うぇっ!?」

 まずい。引き上げなければ! と個性を使おうとし──彼の体が浮いた。僕はまだ何もしていない。どうやら近くにいた少女の個性で助かったようだ。

「大丈夫!?」

 すぐさま下に降り、彼の安否を確認する。よく見ると、彼の手足はボロボロで、あらぬ方向へ曲がってしまっている。きっと骨もバキバキになってしまっているはずだ。

「僕は……まだ……」

 彼は答えになっていない答えを返した。あのギミックを倒したんだからポイントは大丈夫だと思うけど……。

「0ポイントだけじゃあ……!」

 

 

 

 ……え、あれ0点なんですか?

 

 

 

「そんなに落ち込むなよ。絶対落ちたわけじゃないんだろ?」

 帰宅した僕は、わき目も降らずソファに飛び込んだ。涙が流れているのを見られたのか叔父さんに肩をさすられ、慰められている。

「そうだけど……もっとやれた、って思っちゃうんだよ」

 ガチガチになりすぎて"ギミック"の話を聞き洩らし、0ポイントヴィランに突貫したという、明らかな改善点。それが明確であるからこそ、後悔の念は尽きない。落ちたかどうかはわからないが、少なくとも合格発表までこの後悔は引きずるのだろう。

 

 

「実技! 総合成績出ました!」

 場所は雄英高校総本山。大型モニターの前に一堂に会した教員たちが、そこに表示された成績を眺めている。

「これは、すごいのが来たわね」

 そう言ったのは、教師兼女性ヒーローであるミッドナイト。彼女に限らず、この学校の人間のほとんどは現職のヒーローである。

 彼女が指さしたのは、最も目を引く"1位"の枠。その名は──

「成瀬尋……」

*1
そうだけどそうじゃない




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