「さぁ!私とクズモーの波、上手く乗りこなせるかな?クズモー、みずのはどう!」
「くっ…ニドリーノ、躱せ!」
ニドリーノはナゾノクサほど小回りが利かない。このぬかるんだフィールド上では一撃を躱すまでが精一杯で、カウンターにまで持っていくのがなかなか難しい。そんなことはお構い無しに一発、二発と、それこそ波のような猛攻が押し寄せてくる。このままでは、相手のペースに飲まれる一方だ。
何とか距離を取って、態勢を整える。ニドリーノの攻撃技は、「どくばり」と「みだれづき」だ。どくタイプであるクズモー相手に「どくばり」を打つのは得策では無いし、足場の悪い状況で「みだれづき」を打つのも、体勢を崩した所にカウンターを入れられる可能性もある。
…どうすればいい、考えろ。対どくタイプ。足場の悪いフィールド。この状況を、全て活かしてひっくり返す方法。
「…そうか。技が無いなら、覚えればいいのか。…ニドリーノ、やってみようか!」
ニドリーノはこちらを向いて頷く。その後フィールドを前足で掘り進めると、一瞬にして地中に潜った。
「…っ…!『あなをほる』…!?」
そう、「あなをほる」。どくタイプに効果バツグンの、じめんタイプの技。ニドリーノはまだ習得してなかったはずだが、このぬかるんだフィールドがそれを可能にさせた。
地中から飛び出てきたニドリーノが、クズモーを捉える。不意の一撃に、クズモーはかなりの痛手を負ったはずだ。
「…はは…凄いなぁ、この状況を全部利用して一気にひっくり返そうとするなんて…でも、まだ完全にひっくり返った訳じゃない。君もニドリーノも、必ず沈めてあげる!」
「はは…そう簡単に沈む訳にはいきません。必ず乗りこなしてみせます、セリさん達の波…!」
「ふふっ!そう来なくっちゃ!でももう同じ手は通用しないよ!クズモー、全部飲み込んで!「なみのり」!!」
確かにセリの言う通り、「あなをほる」は奇襲としては100点だが、警戒されると弱い技だ。これ以上戦いが長引けば長引くほど対策されてしまう。となると、やはり一撃でクズモーを戦闘不能にまで持っていかなければならない。
「…ニドリーノ、次で決めるよ。…『きあいだめ』!」
呼吸を一つに。次の一撃を決めるために。この勝負に勝つために。先に進むために。
「…躱して『どくばり』、急所にブチ込め!!!」
――――ニドリーノのどくばりが、クズモーを穿つ。
力の抜けたクズモーが、バタリと地面に倒れ伏す。
『クズモー、戦闘不能。ニドリーノの勝利。よってただいまの勝負、アルカタウン ハイドの勝利!!』
僕らの勝利を告げるアナウンスが流れた。僕達は勝ったのだ。
「やっ…た…ッ…!!やったよ、ニドリーノ!!」
思わずニドリーノに抱きつく。彼がぬかるみを纏っている事なんて全然気にしてなかったので、僕まで泥だらけになってしまったが、そんなことはどうでもいい。
「…おめでとう、ハイドくん。君達の勝ちだよ。君達の連携…本当にお見事でした!」
「はい!ありがとうございます、セリさん!ニドリーノとナゾノクサが頑張ってくれたおかげです。」
「はは、ポケモンとトレーナーとの信頼関係って結構大っきいんだよ?もちろんニドリーノもナゾノクサももちろん素晴らしかったけど、ハイドくんがいたから勝てたんだよ。」
「…ありがとうございます!」
ニドリーノとナゾノクサのおかげで勝てたと思ってるのは本心だ。謙遜とか、卑下とかじゃない。しかし、ジムリーダーから僕がトレーナーである事を褒められるとは思ってもいなかった。恥ずかしさと嬉しさで、どんな顔をすればいいのか分からなくなってしまう。
「にしても、私が逆に押し流されちゃうなんてねぇ…色々お話したいこともあるけど…!でも、まずはコレだね。はい、どうぞ!リバタリジム制覇の証、『サルベージバッジ』です!」
セリはそう言うと、僕の手を握って直接ジムバッジを渡してきた。初めてのジムバッジ。実際に手にしてみると、言葉には表せない達成感がある。
「さ!一つ目のジムバッジも取ったわけだけど、君達はどうする?もう次のジムに向かっちゃう?」
「そうですね…出来るだけ早く向かいたいです。なのでこれから…」
「お〜〜〜〜い!ハイドぉ〜〜〜!!!!」
僕の言葉を遮るように、聞き馴染んだあの声が響く。
「あぁ、レンジ…」
声のした方を振り向こうとする前に、ガバッと抱きつかれた。
「アっ…!?」
「すごい!すごいよハイド!!おめでとー!!」
「ちょ、おい…やめ…今僕泥だらけだから…!!」
「…あれぇ〜…?君達ってもしかしてそういう…?」
ニヤニヤと笑うセリ。いや、待ってください。違うんです。
「こ…こいつはただのライバルですから!!」
違うんです。こんなコッテコテな台詞吐きたかった訳じゃないんです。
「ふ〜ん…?それじゃお邪魔するのも悪いし、私はそろそろこの辺で…」
本当に…違うんです…!!!!!
必死に説得してセリの勘違いは解けた(ことにしておく)。今日のリバタリジムのジムバトルは午前の部が終了という事で、この後の予定は、僕とレンジア、セリの3人でレストランで昼食をとることになった。どうやら今週ジムバッジを取れたのは、現状で僕とレンジアだけらしい。
ジムリーダーとの対話の機会は、とても有意義で参考になる話ばかりだった。戦略、持ち物、技の構成など、トレーナーズスクールだけでは学べない知識もあった。
セリとの会話の中で、こんな一幕があった。
「そういえば…なんでハイドくんはポケモン2匹だけだったの?シングルバトルって基本的に3 VS 3だから、もう1匹連れてると思ってたんだけど…。」
「ふふふ…実はハイド、とある理由で草むら入れなくって、ちょっと前までポケモンゲット出来なかったんですよ!」
「君はちょっと静かにしてて…。…実は僕、どくタイプだけでポケモンリーグ制覇を目指してるんです。でも、アルカからリバタリまでの間にどくタイプのポケモンってなかなかいなくて…」
「へぇ…!そっか、確かにニドリーノとナゾノクサ…。」
「はい。どくタイプにこだわる理由はいくつかあるんですけど…。」
「ふーん…。…あ!ねぇ、この後ちょっと時間あるかな?来て欲しい所があるんだけど…。」
「来て欲しい所、ですか?」
「うん!きっと君なら、喜んでくれるはず!」