『イデすす』を閉じた後、思わず僕は布団にダイブして頭を抱えてしまった。大きく分けて、理由は2つだ。
1つ、文面からも伝わってくる気まずさ。タモシティのジムリーダー・ドドナは良くも悪くも(悪い方が強い)写真通りの人で、読んでいるこっちが辛くなってくる程の陰気さだった。こんな事言うのも失礼だが、インタビュアーのタヒチさんも相当苦労した事だろう。文字に起こしていない無言の時間の方が長かったのではないだろうかとすら思ってしまった。
2つ、深刻さで言うとこちらの方が上だ。ドドナはじめんタイプのジムリーダー。はがね、エスパーに並ぶ、どくタイプの3大天敵タイプの1つだ。幸いにも、こちらのパーティはじめんタイプに有効な技を繰り出せるナゾノクサやクズモーがいる。しかし、それを差し引いても驚異であることに変わりは無い。じめんタイプ使いであれば、カラナクシは特性『よびみず』でみずタイプ技の対策を取ってくるだろうし、場合によってはこおりタイプの技を採用している可能性だってある。マッギョもトリッキーなポケモンで、攻守妨害、様々な型が考え得る。公開されているこの2匹だけでも、どくタイプ使いの僕にかけてくるプレッシャーはかなりのものだった。
「読んで良かった…」という気持ちと、「読まなきゃ良かった…」という気持ちがちょうど50:50で入り交じる。…いや、100%読んで良かったのだ。そう思おう。
それはそうと、シャワールームが騒がしくなってきた。暴れ散らかすクズモーをなんとか宥め、モンスターボールに入って貰った。ごめんよ、ニドリーノ、ナゾノクサ。今度は僕がちゃんと見てるから、広いプールでみんなで遊ぼう。
モーニングコールで起こされる。昨夜は結局、眠りにつくまでベッドの中でドドナ対策について考えていた。何とか頭を捻って、やはり勝利にはクズモーというピースが必要だという結論に至った。となると、じめんタイプの巣窟であろうタモの沼道でクズモーとの実践を積むのが1番なんじゃないだろうか?そんな事を考えながらチェックアウトを済ませる。…そうだ、ジムバトル開始まで時間があるし、最後にリバタリシティを出る前にセリに挨拶しに行こう。
「お、ハイドくん!レンジアちゃんとはバラバラ行動?」
「はい、あいつは僕よりも先にタモジムを制覇してやるって、昨日の夕方リビタリを飛び出ていきました。」
「はは、そういう事か。確かに、昨日凄い急いでた感じしてたもんなぁ…それでも私に挨拶しに来てくれたから、やっぱいい子なんだろうね。」
良かった、挨拶はしていて。
「…あ、そうそう。レンジアちゃんにも渡したんだけどさ、これハイドくんも持っていきなよ!」
「…これは?」
セリから腕時計型の端末を渡される。
「シンオウ地方で新しく出た『ポケッチ』っていう機械なんだけど…アプリとか色々入れられるし、これで連絡取れたりもするから便利だよ!」
「えっ…良いんですか、こんなの貰っちゃって…?それにレンジアにも…?」
「はは…私が買ったタイミングでポケモンリーグからジムリーダー用にって1台支給されちゃってさ…。しかもその2つとも耐海水性じゃなくて…2台余っちゃったから、せっかくだし君達にと思ってね!」
「そんな…ありがとうございます…!」
「いいっていいって!あ、せっかくだし連絡先も交換しよっか!レンジアちゃんも『ハイドに連絡先教えても良いですよ!』って言ってたしさ!」
クズモーからポケッチ、レンジアの面倒まで…頭が上がらない。
「…ハイドくんももうタモに向かうんでしょ?ドドナさんは…うん…強いジムリーダーだよ。…ちょっと癖強いけどね。それじゃ…頑張ってね!」
「…何となく、そんな気がします。ほんと、色々とありがとうございました。」
セリに感謝と別れを告げ、僕はリバタリを後にした。
ようやくタモの沼道、入口に辿り着いた。「ようやく」というのは、5番道路を上るのがそれはもうしんどかったからである。リバタリに向かう時は下り坂と素晴らしい海景のお陰で何も苦では無かったのだが、景色の変わらないゆったりとした長い上り坂はやはりしんどい。ベンチに腰かけて小休憩を取り始めてから数分後、ポケッチに通知が来た。
『レンジアです!
セリさんから連絡先教えて貰いました!』
『タモシティのジム、午前の部で制覇した!!ドドナさん、めっちゃ強かった…!』
『無敗で先に一発勝利、今回は私の勝ちかな??』
…こんなメッセージを貰ったら、休憩なんてしてる場合ではなくなった。『タモの沼道で特訓したらすぐに向かう』と送り、ベンチから立ち上がる。
沼道に入ると、読み通りじめんタイプのポケモンの巣窟だった。ウパーやドジョッチ、ガマガルなどのじめん・みずの複合タイプが多く見られる。他にもヒポポタスのような大型のじめんタイプのポケモンもいて、対カラナクシ、対マッギョの特訓をするには持ってこいだ。しかし外敵が少ないからか、見た感じ基本的にここのポケモン達は温厚だ。戦う気も逃げる気も無いポケモン達を、効果バツグン技で急襲するのも忍びない。
「…ニドリーノ、ナゾノクサ、クズモー。ここの子達には基本的に攻撃は寸止めにしよう。沼の足場に慣れるのと、じめん技を避ける事に専念しよう。逃げる子は追わなくていい。…それじゃ、行くよ!」
かくして僕達は、仮想ドドナ戦としてタモの沼道に足を踏み入れたのだった。