紫陽花が夢を掴むまで   作:通俗的な丑の時参り

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【第12話 沼の先・タモシティ】

レンジアに「すぐに向かう」なんて言ってはいたが、手首のポケッチはもう夕暮れ時を指していた。結局夢中になって特訓をしてしまった。それはそうと、得たものも多い。基本的に技の寸止めや回避を重視した戦闘だったので普通に野生ポケモンを倒すより貰える経験値は低かったが、その分対じめんタイプの心得は掴めた。大まかにではあるが、特訓中にタモジム戦での作戦も練った。まず1匹目にナゾノクサ、2匹目にニドリーノの順で出す。そしてクズモーには、殿を任せるつもりだ。沼道の脇に『ヤチェのみ』が成っている木があった。『ヤチェのみ』は、こおりタイプの効果バツグン技を半減する効果がある木の実だ。これをナゾノクサに持たせれば、万が一カラナクシがこおり技を使ってきてもダメージを軽減できるという寸法だ。ちなみにこの考えに至ったのは、セリのウパーが『リンドのみ』を持っている事を思い出したからである。マッギョにしても、じめん・でんきの技範囲ではナゾノクサ相手に有効な行動は多くないだろう。先鋒のナゾノクサに可能な限り場を荒らしてもらうつもりだ。本来であれば、ニドリーノやクズモーに『シュカのみ』という、じめんタイプの効果バツグン技を半減する効果を持つ、どくタイプパーティには垂涎モノの木の実を持たせたかったのだが…残念ながらこの沼道でそれを見つけることは叶わなかった。そうそう、殿を任せているクズモーなのだが、この子はまぁ良くも悪くも血の気が多い。分かっていたことではあるのだが。「なるべく技を当てないで」という指示をガン無視して野生のポケモンにみず技を連発する様は、『特訓』より『襲撃』という言葉の方がしっくりくる。彼らには本当に申し訳ないことをした…お詫びにオボンのみをいくつか献上しておいた。

 

沼道の特訓で泥まみれになりつつも、ようやくタモシティに足を踏み入れることが出来た。イデアル最大級の港町・リバタリと比較すると、やはりこの町は田舎に感じる。ジメジメした空気、草の匂い、広がる畑…。むしろ、アルカタウンというイデアル最小級の田舎出身である僕にはこちらの方が慣れている。さて…到着した事だし、早速トレーナーズホテルに…

「おっそぉ〜〜い!!」

…あぁ、そうだった。これは流石に「すぐに向かう」なんて言っておいて特訓に夢中になっていた僕が悪い。

「沼道入るって言ってから全然来ないじゃん!心配してたんだからね!?」

「ごめんごめん…どくタイプでじめん使いのドドナさんと戦うにはいつも以上の特訓が…」

「…ふ〜ん?やっぱ私に先を越されて焦ってる〜?」

…こいつ…こっちが下手に出ていれば秒で調子に乗るじゃないか……。ここで「焦ってる」と言っても「焦っていない」と言っても、どの道煽ってくるだろう。はぐらかしてやろう。

「…ドドナさん、どうだった?」

「ん〜?…なんか…めっちゃやりづらかった…怖いと言うかなんというか、独特な人…。」

「セリさんも同じこと言ってたよ。僕も『イデすす』で見てるし…まぁ、只者じゃないってことは何となく分かる。」

「でもね…多分良い人。上手く言えないけど…実際に会って、戦ってみればきっと分かるよ!」

良い人、か。唯一知っているジムリーダーのセリの事を思い出す。彼女はポケモンに並々ならぬ愛情を注いで、努力もして、ジムリーダーになっている。であれば、同じくジムリーダーのドドナにも、彼女をジムリーダーたらしめる理由があるのだろう。しかし、どうしても『イデすす』に綴られていた彼女の言葉がひっかかる。

 

『あぁ、では…今期ご自身が期待しているポケモンと、チャレンジャーの皆様に一言お願いしてもよろしいでしょうか。』

『…カラナクシとマッギョ。…別に特段期待してるとかは無いけど…。』

 

「期待していない」。ジムリーダーとは、ポケモンへの愛情が無くてもなれてしまうものなのだろうか。…それとも、そんなもの必要としない程に彼女のバトルセンスが高いという事なのだろうか。

「…レンジアはこの後どうするつもり?リバタリの時と同じように僕の試合見てく?」

「うーん…それも考えたんだけど…私は先のジムに向かおうかなって。」

「…ジメジメしてて、むしポケモン出てくるのが怖い?」

「はは…せいかーい…」

カバンが膨れているのは、きっとむしよけスプレーを大量に買ったからなのだろう。行きの沼道で相当痛い目を見たんだろうな。

「という訳で、私は一足先に次のジムに向かってるよ。…それじゃ、頑張ってね!ハイド!」

「うん、ありがと。待ってて…いや、待たなくてもいいや。すぐ追いつくから。」

「ははっ、言うねぇ〜?じゃあ逃げ切ってあげる!」

彼女は挑発的な笑顔を浮かべながらこちらに手を振り、沼道に入っていく。…さて、僕も明日に備えてトレーナーズホテルに向かおう。

 

タモのトレーナーズホテルは、やはりエルドラやリバタリと比べて小さい。ジムバトル目当てに来るトレーナーくらいしか利用者はいないのだろう。

「…あら、ごめんなさい。」

「あっ…いえ、こちらこそ。」

トレーナーズホテルに入ろうとした時、1人の女性とぶつかりそうになった。片田舎に似つかわしくない、とても美しいモデルのような女性だった。

「ねぇ、今のって…!」「えぇ、絶対そうよ…!」

すれ違った女性の方をチラチラと見る地元民であろう方々。やはり有名なモデルさんだったりするのだろうか?いや、確かに美人ではあったが、正直今の僕には関係の無い事だ。今僕がすべきことは、部屋を借りて、シャワーで体に着いた泥を落とす。そして、明日の午前の部に備えてイメトレしながらベッドで今日の疲れを全て取る。

泥を洗い流したのに泥のように眠るとは、これ如何に。

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