「…まさか、知らなかったの?」
…正直、本気で知らなかった。そもそもズイナはおろか、僕はセリとドドナ以外のジムリーダーを全員知らない。振り返ってみれば、確かに僕はテレビでやってるポケモンバトルより、ニドランと遊んでたり、ヒドノ先生と出会ってからはどくタイプ特集を見たりしていた。…バトルに関してやっていた事なんて、何も無かった。強いて言うなら…
「…一応、『イデすす』読んでたんですけど…。」
「あんなの旅雑誌のコラムみたいなものでしょ…。それにしたって、アレ読んでるならあの女の顔だって見ると思うんだけど。次からはちゃんとジムチャレンジ用の雑誌でも読む事ね。」
「…はい、ありがとうございます。でも、『イデすす』も面白いですよ?間接的ですけど、憧れのジムリーダーとコミュニケーション取れてる気がして。」
まぁ、ジムリーダーが誰かなんて知らなかったわけだが。
「…インタビュー、大失敗したからその話はしないで。」
自覚はあったんですね、なんて口が裂けても言えなかった。
「…で。そろそろ午前の部の準備をしたいんだけどいいかしら。今日のチャレンジャーはあんただけだし。」
「…はい、分かりました。色々とお話、ありがとうございます。それじゃ、改めて…今日はよろしくお願いします!」
「…ふん…眩しい顔するわね。前を向くのは結構だけど、足元掬われてもしらないわよ。」
最後まで皮肉を吐いて、彼女は関係者入口に向かっていく。セリといい、ジムリーダーというものは意外と戦う前のチャレンジャーにもコミュニケーションを取ってくれる。そして、実際にドドナと話してみた上で、『イデすす』での彼女を振り返って気になった点が2つある。
1つ、『…わ、分かってるわよ…ゎ…私だって…みたいになれたらどれだけ楽か…』。この発言は恐らく、ズイナに向けたものだろう。確かに双子の姉がトップモデル兼ジムリーダー最強女史なんて、妬んでしまうのも理解出来る。
2つ、『…カラナクシとマッギョ。…別に特段期待してるとかは無いけど…。』。…彼女がポケモンを信頼していないという発言。これは…戦って見れば分かる。愛が無いのであれば、純粋に実力とセンスだけでジムリーダーになった猛者だ。逆にもしセリのようにポケモン愛に溢れているのにこんな発言をしたのであれば、その意図をバトル後にでも聞いてみよう。
「…よし、こんな所かな。それじゃ、そろそろドドナさんとのバトルだ。…準備はいいかい?」
手持ちのポケモンに問いかける。作戦通り、ナゾノクサが先発。ニドリーノに出来るだけ暴れてもらい、殿はクズモー。セリから学んだ戦法、沼道で得た経験、全てを活かしてタモジムを攻略する。呼吸を整え、スタジアムに足を踏み入れた。
『それではこれより、タモジム・ジムリーダードドナとチャレンジャー・ハイドによるバトルを行います。それでは…バトル開始!』
「…行って。」
「よし、頑張ってね、ナゾノクサ!」
ドドナが繰り出したのはカラナクシ。対面としては最高だ。
「…あの本を読んでナゾノクサを先発に置いたって所かしら。ふん…いくら私が出来損ないだからって、そんな取ってつけたような対策が破れないほど落ちぶれちゃいないわよ。…カラナクシ、『すなあらし』。」
後続のポケモンのための環境を整えに来ている。場を整えられる前に、早いところこちらのペースに持っていきたい。
「…ナゾノクサ、一気に決めるよ。ギガドレイン!」
タイプ一致弱点の強力な特殊技。セリのウパーのようにリンドのみを持っていたとしても、一撃で持っていく可能性は十分にある。…が、しかし。ドドナのカラナクシが倒れることは無かった。
「…はっ…読めてるわよ…そっちが見え見えのくさ技を撃ってくることも、カラナクシがそれを耐えることも。…お返しよ、カラナクシ。『ミラーコート』。」
『ミラーコート』。相手から受けた特殊技のダメージを反射する技。相手のポケモンの行動の予測と、自分のポケモンの耐久を信じていないと成立しない上級者向けの技だ。タイプ一致弱点をまともに受ける選択を取るなんて…。しかも、そんなダメージを跳ね返されたとなると…。
「ナゾノクサ……!!」
まともに立ってられるなんて事はまずありえない。吹き飛ばされたナゾノクサは今にも倒れそうになりながら、ふらふらとスタジアムに佇んでいる。…このままバタりと、戦闘不能になってもおかしくはない。
しかし、ナゾノクサが倒れることは無かった。その小さくも立派な足で、決して地に伏すまいと震える体を支えている。
その姿は、出逢った頃の臆病な彼ではない。立ち向かう勇気で溢れている。踏みつけられても挫けない雑草魂で溢れている。
「さぁ、早く指示をくれ」。そう言われた気がした。
不意に、彼の体が強く輝き出す。眩い光とともに、その姿は変貌を遂げる。
それは、逆境を乗り越える覚悟の証。どんなに辛くても諦めない決意の証。
雑草はやがて赤い蕾をつけ、大輪の花を咲かせる礎となる。
ナゾノクサは、クサイハナに進化した。
一部内容を修正致しました。
今の今までカラナクシを「じめん・みず」タイプだと思っていました。
コメントを下さった方、本当にありがとうございます。