「…さぁ、いくぞクズモー。『みずのはどう』!」
「…シンプルに殴りに来たわね。良いわ、真っ向勝負といこうじゃない。…マッギョ、マッドショット。」
特訓中にクズモーの特異性に気付いた。なぜあんなに獰猛だったのか。なぜあんなに技の威力が高かったのか。彼女の特性が『てきおうりょく』だったからだ。『てきおうりょく』は、自身と同じタイプの技の威力が上がる技。クズモーに関して言えば、みずタイプ、どくタイプの技の威力が上がる訳だ。つまり…。
「…っ…マッドショットが…っ…!」
そう。同じ自身とタイプが一致している技でも、通常のポケモンと比べて出力が違う。加えて、相手のマッドショットの技タイプはじめんタイプである。タイプ相性でも、こちらが有利だ。
「…さぁ、クズモー!そのまま洗い流せ!!」
クズモーのみずのはどうが、マッギョのマッドショット諸共直撃する。ニドリーノが善戦してくれたこともあり、相手のマッギョは戦闘不能になった。
「…随分良いの持ってきてくれたわね。」
「はは…あとはこの子がパーティにも適応してくれたら完璧なんですけど…。」
「…それはトレーナーの貴方の役目でしょ。その子に押し付けることじゃないわ。」
「……そう、ですね。」
「…ま、見たところ貴方は信頼されてる方だと思うけど。…さて。こっちは最後の一匹。…準備はいいかしら。」
ドドナの目が変わった。全てを引きずり込む執念の目。
「…行って。」
フィールドにモンスターボールを投げる。繰り出されたポケモンはナックラー。ありじごくポケモンだ。…なるほど、これは…。
「…クズモー、油断してると本当に引きずり込まれる。慎重に行こう。」
「…ナックラー。」
彼女が名前を呼ぶと、ナックラーが技を放つ。
「っ…!指示も出さずに…!?」
対応が遅れた。ナックラーの放った技は『むしのていこう』。命中した時、相手のとくしゅ技の威力を下げる効果を持つ。威力自体はそこまで恐れる程じゃないが…
「…これでご自慢のみず技も、鈍ったわね。…ナックラー、畳み掛けるわよ。」
またもや、ドドナは指示を出していないのにナックラーは動く。クズモーに接近し、『かみつく』を放った。
「っ…クズモー!『みずのはどう』で抵抗!」
「ふん…無駄よ。威力が下がってる。一撃程度じゃその子は離さない。」
ドドナの言う通り、みずのはどうを受けてもナックラーがクズモーを離すことは無かった。そしてそのまま、ナックラーはクズモーを『あなをほる』で地面に引きずり込んだ。
…何故ドドナが指示を出していないのにナックラーはドドナの思惑通り動ける?何故ナックラーがどう動くかをドドナは把握している?未熟なトレーナーである僕は、その答えを弾き出すのに時間がかかってしまった。
簡単な話だった。ドドナは自分のポケモン達を「信頼していたから」である。
まず1匹目のカラナクシ。ナゾノクサのギガドレインを耐えるという事を信頼して、ミラーコートを選択していた。
そして2匹目のマッギョ。地中で指示が聞こえないはずのマッギョが、ドドナの合図とぴったりに『とびはねる』を繰り出した。
そして、最後の一匹のナックラー。このポケモンに関しては、技の指示すら出していない。相当信頼が深いということが分かる。ずっと長い間連れ添って、言葉も要らないほどの信頼。
ここまで戦って、その事に気付けなかった。
「…そろそろね。出てきて。」
地中からクズモーを咥えたナックラーが顔を出す。あの暴れん坊のクズモーが、完全にナックラーのテリトリーに引きずり込まれてしまった。
「…その子はもう戦闘不能。そして、ここからお互い最後の一匹。」
「…えぇ、そうですね。…さぁ、ここが正念場だよ。行くぞ、ニドリーノ!」
ニドリーノとナックラーが対峙する。なんとしてでも、この山場は乗り越えなければならない。
「…ふふっ。さぁ、あんたはどうする?私はまだ諦めてない。いつだってあんた達を引きずり込める。」
…気のせいでは無かった。間違いなく今、ドドナは笑った。今までの自罰的な笑みではない。バトルを楽しんでいる目だ。それだけじゃない。確実に獲物を捉える捕食者の目。一度噛み付いたら絶対に離さないという目。
この震えが畏怖か武者震いか分からない。だがこの瞬間、ドドナが改めて恐ろしいトレーナーであることを実感した。
「……くすっ。」
「…ズイナさん?どうされました?」
コートの2人をプライベートルームから眺めるズイナに、彼女のマネージャーが尋ねる。
「んーん、ドドちゃんのあんな顔久しぶりに見たから。あの子…ハイドくんって言ったわね。…将来楽しみね。」
「…ズイナさんが仰るなら、そうなんでしょうね。」
「あら、私じゃなくても思うわよ?特に、ジムリーダーみたいなポケモンのプロはね。…ま、今はそれと真正面で向き合ってるドドちゃんが1番分かってると思うけど。」
「そ、そうですか…。はは、我々素人と違ってやっぱりジムリーダーは違いますね…。」
「ふふっ、そりゃあね?あーあ、私も早く手合わせ願いたいわ。早く勝ち上がってきてくれないかしら。…あ、もちろん、ドドちゃんにも勝って欲しいけどね?」
ズイナは辛抱できない、と言った様子で腰元のモンスターボールを指先でなぞる。
「…頑張ってね。ハイドくんも、ドドちゃんも、ナッちゃんも。」