数日振りに空が晴れた。まだ少し雨粒の残る窓ガラス越しに外を眺める。
「…お散歩にでも行こっか、ニドラン。」
数日前に、幼馴染のレンジアに譲って貰ったニドラン♂に問いかける。このニドラン♂とは、正直良い出会い方をしたとは言えない。僕がレンジアと隠れんぼをしている時、僕が隠れ場所として使った所がこの子のナワバリだった。そしてこの子に見つかり襲いかかられた時、レンジアが駆けつけてこの子を捕獲して、「仲直りのために」と僕に譲った。と、こんな所だ。
つまりこの子からすると、僕の第一印象は「家を荒らしたやつ」ということで最悪だっただろう。それでも、仲直り(機嫌を損ねたらまた噛まれるかもしれない)のためにオレンの実をあげたり、ポケじゃらしで遊んだりしてる内に少しは打ち解けれたと思う。じゃれ合いでも噛まれたら痛いけど。
今日ニドラン♂を散歩に誘ったのには理由がある。この子との交流の為に散歩をしたかったが雨続きで出来なかった、と言うのも理由の一つだが、僕の力で捕まえたポケモンをレンジアにあげたい、と言うのが一番の理由だ。
レンジアは遊びでもポケモンでも、全てにおいて一歩先を行っている。幼馴染として、何もかも負けっぱなしは悔しいので、せめて引き分けにでも持っていきたかったのだ。
「…どうする?お散歩、行く?」
ニドラン♂の顔を覗き込む。満更でも無さそうだ。良かった、頭突きとかされなくて。
お母さんに「ニドランと散歩に行く」と伝えて外に出ようとも思ったが、前回の件もあってものすごく心配されて、最悪の場合家から出して貰えないだろうと思って「おるすばんしときます」と言っておいた。お母さん、ごめんなさい。僕は今から、ニドランと散歩に行ってきます。
ニドラン♂と出会った草むらに着いた。一応隠れんぼで来たことはあるし、この子のナワバリでもあった場所。少しくらいなら動けるでしょ。さぁ、コラッタでもポッポでも、ギャラドスだろうが、なんでもいいからかかって来い!
ニドラン♂の耳がピンと立つ。まだ僕には聞こえないが、ポケモンが近付いてきているのだろう。表情を見れば分かる。この顔は、何かに備えてる顔だ。
…あぁ、僕にも聞こえた、草むらを掻き分けるあの音。この子と初めて会った時のあの感覚。…来る。
草むらから飛び出してきたのは、ニドラン♀だった。僕はニドラン♂とニドラン♀の顔を交互に見る。明らかにお互いを警戒している。
「…ねぇ、ニドラン。君たちもしかして…?」
言葉を最後まで聞かず、僕のニドラン♂は頭突きを繰り出した。ニドラン♀はそれを躱し、お返しだと言わんばかりに襲いかかった。
「ニドラン!!」
身体が勝手に動いた。僕はニドラン♂を庇おうとして、ニドラン♀に思いっきり腕を噛まれた。ニドラン♂が心配そうに僕を見つめる。
「…っ…!…はは、大丈夫だよニドラン。…ねぇ、君達もライバルなんでしょ?僕とレンジアみたいに…。」
そうと分かれば、この子を連れて帰らない理由は無い。この子をレンジアに渡して、トレーナーとポケモン同士、芯からライバルになってやろうじゃないか。
「…よし、行くよ…ニドラン、どくばり!」
僕の掛け声と共にニドラン♂の繰り出した攻撃が当たった。ニドラン♀が怯んだその隙に、僕はモンスターボールを投げた。
「お願い、捕まって……!」
ボールがニドラン♀を捉えて地面に落ちる。何回か揺れた後に、ボールの動きは止まった。僕は初めて、自分と自分のポケモンの力で、ポケモンを捕まえたのだ。
「やっ…た……?やった…!やったよニドラン…!!」
あぁ、この子も喜んでくれている。それが僕の喜びを感じ取って一緒に喜んでくれているのか、因縁の相手に勝った事になのか、それともまたこのニドラン♀とライバルを続けられるという喜びなのか…どういう喜びかは分からないが、少なくともこの子が喜んでいるのは分かった。
そしてレンジアの家に着いた。帰り際にモモンの実が成っていたのでそれも一緒に渡すつもりだ。ニドラン♀に刺されたら毒で腫れるだろうし、その痛みはよく分かっている。気が利く男は格好いいぞ、ハイド。ウキウキでチャイムを鳴らす。
「はぁ〜い。…あれ、ハイドにニドラン?仲直り出来たの!良かったぁ…!…ん〜…?それにしては傷だらけだけど…喧嘩…?大丈夫…?」
「…あぁ、いやこれは…ちょっとね。それより、はい。この子、受け取ってくれる?」
「…え、ポケモン…!?もしかして、あなた達で捕まえてきたの…?」
「うん、そう。この前のお返しに誰か…と思ってたんだけど…その子、うちの子のライバルだったんだって。だから、トレーナーとポケモン、どっちもライバル同士に、なれたら、なー、って…。ねー。」
自分で言ってて恥ずかしくなってきたので、照れ隠しでニドラン♂とじゃれ合う振りをしてみせる。
「…そっか…私とハイド…ニドラン達がライバル…。」
「…僕は別にいいけど、この子達のためにも受け取ってくれないかな。僕はいいけど。」
強がっているが、本当は僕が1番受け取って欲しい。一方通行のライバル視なんて、あまりにも格好悪すぎるから。
「…うん、本当に嬉しい。ありがとう、ハイド。」
…そんな真っ向から感謝されると、それはそれで恥ずかしい。
「…よぉし、そうと決まれば特訓だね、ランちゃん!」
そういえば、レンジアは自分のポケモンにニックネームをつけて呼んでいる。オタチはオタちゃん、ヤヤコマはコマちゃん、ルリリはルリちゃん。この子はランちゃんになったようだ。
「…僕達も、負けてられないね。ニドラン。」
ニドラン♂がフンスッと鼻を鳴らす。こっちも気合十分だ。
これで正式に、僕とレンジア、ニドラン達はライバルになった。僕達がトレーナーズスクールを卒業したその日から、どちらが早くポケモンリーグを制覇するかの勝負を始める誓いを立てたのであった。
そしてニドラン♀に噛まれて傷だらけで帰った僕は、本格的に草むらに入ってはいけない令を出されるのであった。