時刻は朝8:00。気付いたら10時間くらいぶっ通しで寝ていたことになる。片田舎の実家からこんな大都会まで何時間も歩いた上で、その大都会でも練り歩いたのだ。トレーナーズスクール卒業したての12歳の身体には、流石に堪えたようだ。
寝癖がとんでもない事になっていたことにニドリーノの視線で気づいた。そういえば昨夜はシャワーを浴びた後、『イデすす』に夢中になったあと泥のように眠ったんだっけ。乾かすくらいはしておくんだった。
ともあれ、『イデすす』でリバタリジムのジムリーダー、セリの手持ちと戦法を知ることが出来た。この収穫は大きい。寝癖を直したらすぐにでもリバタリに向かわなければ。…それはそうと、流石大都会エルドラ。食べ歩きの店の品揃えのなんと素晴らしいことか。目移りに目移りを重ねた結果、もう数十分…いや、1時間くらいはここにいようという結論に至った。
3番道路は、1番道路や2番道路に比べるとやはり舗装が進んでいた。この3番道路はエルドラシティと、霊園のある「マグメルタウン」を繋ぐ道路だ。我々の故郷のように土着の民だけが使うのではなく、多くの人が行き交う道なのだろう。しかし、環境が違うということは住んでいるポケモンも違うということ。そう考えると、確かにこちらはオタチやコラッタのような小動物系ポケモンはなかなか見ない。
さて、昨日の計画通り、ここでは対リバタリジム用のポケモンを捕まえておきたい。なるべく消耗せずにウパーを突破出来るポケモンは…なんて事を考えていると、不意に草むらが揺れた。
飛び出てきたのは、野生のナゾノクサだ。
ふと、昨日のインタビューでセリが言っていたことがフラッシュバックした。
『ウパーを出してたんですけど、やっぱりくさタイプがキツくて…。』
こんなチャンスがあるだろうか。ウパー対策に悩む(自称)どくタイプ使いである僕の前に、くさ・どくタイプのナゾノクサのお出ましだ。
「…これは運命だよ、ニドリーノ。…さぁ、行くよ。どくばり!」
ニドリーノの気合いの入った一撃がナゾノクサ目掛けて飛んでいく。しかしその一撃はひらりと躱され空を切ることとなった。
「ふふ、なかなかすばしっこいね…良い活躍してくれそうだ。だけど、そんなに動き回ったらスタミナが持たないはず。ニドリーノ、1発でも当てれればいい。みだれづき!」
下手な鉄砲も数打ちゃ当たる作戦。身軽なナゾノクサでも流石に全部は避けきれ無かったようで、一瞬の隙を突いて1発良いのをお見舞いしてくれた。
「よし、怯んだ…今だ。…頼む、捕まってくれ。」
モンスターボールを投げる。見事ナゾノクサに命中すると、数回揺れた後にカチッと小気味いい音を立てた。
「…よっし…!ほらニドリーノ、初めての友達だよ!良くやったね!」
ニドリーノは満足そうにこちらに近づいてくる。
ここで僕がどくタイプのみで旅を続ける第3の理由を説明したい。
1つは、草むら侵入禁止令を出されてポケモンを捕まえられなかったこと。
1つは、どくタイプエキスパートの恩師にどくタイプだけで勝つため。
そしてもう1つ。それは、ニドリーノの友達を作るためだ。ニドリーノの特性である『どくのトゲ』。これは触れた相手をどく状態にしてしまう特性で、これを無効化できるのは基本的にどくタイプかはがねタイプのポケモンしかいない。つまり、手持ちにこのどちらかのタイプがいないと、この子はずっと他のポケモンと触れ合うことすら出来ないのだ。実際、じゃれ合ってるつもりでレンジアのオタチをどく状態にしてしまった時のこの子の申し訳なさと寂しさの入り交じった表情と来たら…。そんな理由もあって、僕は手持ちのポケモンをどく一色に染め上げたいと思っていた。
「じゃ、さっそく出そっか。出てこい、ナゾノクサ!」
モンスターボールを早速投げる。そういえば、自分の力で捕まえたポケモンをパーティに入れるのはこれが初めてだったっけ。自分のポケモンがボールから出てくるこの感覚も、一人前のトレーナーっぽくてなんか嬉しい。ちなみにニドリーノはボールに入らず、いつも僕の横を歩いている。
ニドリーノは、出てきたナゾノクサの匂いを執拗に嗅いでいる。対して、ナゾノクサは臆病な性格なのだろう。逃げるどころか、固まってしまっている。あのすばしっこさが、バトルに活かされればいいと思ったのだが…。
「大丈夫だよ、ナゾノクサ。こいつ、顔は怖いけど心は優しいから。」
『顔は怖いけど、は余計だ』と言わんばかりに睨まれた。おお、なんてこわいかお。こりゃ素早さも下がるわけだ。
「はは、ごめんごめん。ほら、2匹ともどうぞ。」
昨日買ったポケモンフーズを手渡す。相変わらずニドリーノは遠慮ないが、ナゾノクサは警戒している。
「…ほら、お食べ。」
こちらに敵意が無いことが分かったのか、一口つまんでくれた。どうやら口に合ったようで、先程の警戒心はどこへやら、むしゃむしゃと食べだした。臆病だけど可愛い弟が出来た喜びなのか、ナゾノクサを見つめるニドリーノの頬の緩み方が凄い。そんな表情、僕に対してもなかなか見せないのに。なんて若干の悔しさはありつつも、やはりそこ
はトレーナー。パートナーに新しい友達が出来たことへの幸福が勝つ。
「…ナゾノクサ。君と出会えて良かった。今から僕らは、ジムバトルに行くんだ。第1の目標はリバタリジム。相手はみずタイプだ。頑張ってくれるかい?」
ポケモンフーズを食べ終わったナゾノクサは『やってやらァよ!』と言わんばかりにぴょんぴょん飛び跳ねる。臆病な性格ではあるが、バトルに消極的な訳ではなさそうだ。
「ふふっ…いい意気込みだね。さ、ニドリーノ。僕らも負けてられないぞ。僕達みんなで、まずは1つめのジムバッジゲットだ!」
かくして、僕らは3番道路で素敵な仲間と出逢えた。マグメルタウン、4番道路、5番道路と抜けたら、リバタリシティはすぐそこだ。
僕らの長い旅路に、小さな足跡が1つ増えた。