そろそろ、マグメルタウンに到着する頃だ。エルドラシティとは打って変わって、静かな街である。
マグメルタウンには、イデアル地方最大級の霊園『マグメル霊園』がある。この街で見かける人達の大半は、お墓参りか元々マグメル生まれマグメル育ちの土着の民である。心做しか、外を出歩いている人達年配の方が多いような気もする。やはり長年連れ添った家族がここに眠っているのだろう。
正直、ジム制覇を目的とした旅をしている上で、この街にあまり用はない。このまま真っ直ぐ4番道路に抜けて、リバタリシティに向かおう。
…と、思っていたのだが、どこからか子供の泣き声が聞こえた気がした。勘違いだったら良いのだが、流石にこれを無視するわけにもいかない。声の聞こえた方に走る事にした。
人通りの少ない通りに出ると、そこには座り込んで泣いている少女がいた。
「うぇぇ……おにいちゃぁあん………!!」
「…え、えっと…君…どうしたの…?」
「うぅ…お兄ちゃんと…はぐれて…ひぐっ……まいごに…なっちゃってぇ……ぐすっ……」
迷子の少女は「トト」と名乗った。どうやら、兄と2人でマグメル霊園に来たのだが、退屈だったので外に出たらそのままはぐれて迷子になった、というわけらしい。
「それで、お兄さんはどんな格好してるの?」
「ぐすっ…えっと…しろいふく…マントみたいな…?」
「うんうん。…他には?」
「えっと…お兄ちゃんより背が高い…」
ここでいうお兄ちゃんというのは、僕の事だろう。まぁまだ僕の成長期はこれからだから仕方ない。僕より背の高くて、白いマントを羽織ったお兄さん。これだけ特徴的なら、直ぐに分かるだろう。ポケモンセンターに向かってアナウンスして貰えば、きっとすぐにお兄さんと合流できるはずだ。僕はトトの手を握り、一緒にポケモンセンターに向かう事にした。
お兄さんを待っている間に、お兄さんの話を沢山聞いた。お兄さんのお名前は「ナンジュ」。僕よりも10歳くらい年上で、それはもうべらぼうにポケモンバトルが強いらしい。いずれ僕がジムバッジを制覇してヒドノ先生にも勝利する程のトレーナーになっている頃には、ナンジュさんとも手合わせ出来るだろうか。
『トトさん。トトさん。お兄さんのナンジュさんがお越しです。』
ポケモンセンターの館内アナウンスが流れる。先程まで不安に曇っていたトトの表情がみるみる晴れて、カウンターの方に走っていく。
「おにいちゃああん!!!!!」
「トト!だからあれだけ離れるなって言ったのに…馬鹿っ…!心配したんだぞ!!」
「…えっと…ナンジュさん、ですか?」
「…あぁ。…君は…そうか、君がトトをここまで連れてきてくれたんだね。ありがとう…。…それにしても、妹を見失った挙句迷子にさせるなんて…兄として情けないよ。」
「いえいえ、そんな…無事に会えて良かったです。」
「…うわ…最近の子、立派過ぎないか…?…えっと…うん。君が言う通り、オレの名前はナンジュ。トトの兄だ。もし良ければ、君の名前も教えてくれないかい?」
「えっと…ハイドって言います。」
「ハイドくん、か…いやぁ、しっかりしてるなぁ。君はマグメルの子なの?」
「いえ、たまたま通りかかったと言うか…生まれはアルカタウンです。」
「…アルカ…!?あんな遠くから、1人でここまで…!?」
「はい。実は僕、ポケモンリーグ制覇を目指してて、今からリバタリシティに向かう所だったんです。」
「…!そっか、ジム巡りで…!なるほど、それはそれは…いやぁ、本当にごめんね、大事な旅の途中なのに。」
ナンジュは謝罪を繰り返す。一方トトは、兄を離すまいとナンジュのマントを握りしめている。
「リバタリ目指してるって事は、駆け出しトレーナーって感じかな?いやぁでも、君みたいな立派な子ならきっとジム制覇なんてすぐすぐ!」
「あはは、ありがとうございます。」
彼は思ったよりも気さくで話しやすい人だった。それどころか、お礼にときのみ詰め合わせセットまで頂いてしまった。
「…それじゃ。色々とありがとね、ハイドくん。またどこかで!」
「じゃーねー!紫のお兄ちゃん!ありがとー!!ばいばーい!!」
「いえ、こちらこそ!またどこかで会えた時は、その時はよろしくお願いします!トトちゃんも、またね!もうお兄ちゃんから離れちゃだめだよ!」
「…はは、本当に良い子だなぁ。…よし、じゃあ帰るよ!出てこい、サザンドラ!」
――――ここで初めてナンジュのポケモンを見た。
サザンドラ。きょうぼうポケモンとして名高いドラゴンタイプのポケモンをいとも容易く手懐けている。トトの言っていた通り、この人のトレーナーレベルは尋常ではない。一目でそう思った。
「…それじゃあ、ジム制覇頑張ってね!応援してるよ!」
ナンジュはトトを抱き抱え、サザンドラに跨る。サザンドラは呆気に取られる僕に目もくれず翼を羽ばたかせ大空に飛び立った。ナンジュに抱き抱えられたトトは、見えなくなるまで僕の方に向かって手を振っている。
「…僕も、ナンジュさんみたいなトレーナーになれるかな、ニドリーノ。」
隣に立つ相棒に目を向ける。ナンジュのサザンドラを見て彼も思う所があったのだろう。その感情が、畏怖なのか、興奮なのか、決意なのか、或いはその全部なのかは分からない。しかし、そこに「立ち向かってやる」という気持ちを抱いていることは分かった。であれば、隣に立つトレーナーの僕がやるべき事はただ1つだ。
「…うん、そうだね。…ふふっ、また目指す相手が増えたね。」
追う背中はいくつあってもいい。どうせ最後には、全てに追いついてるんだから。