ナンジュ達と別れた後、マグメルタウンに宿泊する選択肢を捨て、僕達は直ぐにリバタリシティに向かう事にした。旅と迷子の対応で疲労は確実に溜まっていたのだが、あんなポケモンを見せられたら前に進まざるを得ないと思ってしまったのだ。4番道路の十字路を南側に左折すると、リバタリシティに向かう5番道路に出る。5番道路は基本的に下り坂なので、精神的苦痛は少なかった。それどころか、辺り一面に広がる夕焼けで朱色に染まったイデアルの海は寧ろ心を躍らせた。1日中歩き回ったのに、つい走り出したくなってしまう程だ。実際は足がパンパンなのでそんなこと今の僕には出来たもんじゃ無いのだが。自転車でこの下り坂を駆け下りていく時の爽快感はハンパじゃ無いだろう。「いつか5番道路を自転車で下る」というメモをレポートに残し、リバタリシティに向かっていく。
リバタリシティに着く頃には辺りはすっかり暗くなっていた。噴水の近くのベンチで地図を開いて、アルカタウンとリバタリシティの位置を確認する。自分の足でここまで歩いてきたのかと思うと、やはり感慨深い。しかし、ここで目標達成ではない。むしろ、ようやくスタートラインに立ったというレベルの話だ。明日はいよいよリバタリジムのセリに挑むことになるだろう。今日はトレーナーズホテルでゆっくり休んで…なんてことを考えていると、ふと声をかけられた。
「あれ…!?ハイド!?」
「ん、レンジア。君も今着いたとこ?」
「いや、私はもうお昼からここに着いてたよ!その証拠に…じゃんっ!1つ目のジムバッジ、ゲットしちゃいました〜!」
彼女はそう言うと、自慢気にジムバッジを見せつけてきた。なんということだ。僕が食べ歩きしたり、迷子対応したりしている間に、こいつはもうジム1つクリアしてるなんて…また出し抜かれた…。
「…う…そっか…じゃあ今回は僕の負けだ。僕は今着いたとこ、今日は休んで明日ジムに挑む予定だよ。」
「ふふん…じゃあ、明日はハイドのジム戦、観戦しちゃおっかなぁ〜?今のところ、私が先輩だし〜?」
こいつ、ニヤニヤと…。完全に調子に乗ってる。
「…セリさんはどうだった?苦戦した?」
「んぇ〜?うーん…。…ちょっとした…。」
「…何その言い方。」
「いやぁ…あはは、実は1回負けちゃった。ジムリーダーって強いねぇ…午後の部で勝てたけど、それもギリギリだったよ~…。」
よし、それなら話は変わる。形勢逆転のチャンスだ。
「…さっきも言ったとおり、僕はここに着いたばっかでまだセリさんに挑戦してない。つまり、一発勝利したら君より成績良いってことになるね。」
「う…まだ明日まで分からないじゃん!いいよ、見といたげるから!」
「あぁ、ちゃんと目に焼き付いといてよ、僕が勝つとこ。」
相変わらずこいつと話してると煽り合いになってしまう。しかし、今の僕とこいつはライバル同士。変に馴れ合うくらいなら、お互いを敵視する位の方が丁度いいのかもしれない。
「あ、そういえばハイドはこれからどうするの?夜ご飯食べた?」
「いや、食べてないよ。適当にフレンドリィショップでなんか買ってホテルで食べようかなって思ってたけど。」
「お!じゃあさじゃあさ、一緒にレストラン行こうよ!今日は私賞金貰ったから、奢っちゃう!よし、行こ!」
全く…何から何までこいつには敵わない。しかし、そんなに言うなら仕方ない。ここはジムバッジ未所持の後輩として、先輩に気持ちよく奢られてやろうじゃないか。イデアルの誇る港町…海鮮…ふふふ………。
「じゃーん!ここ、お昼に行こうと思ってたんだけどさ、負けちゃって気分がそれどころじゃ無かったんだよね〜!でも、勝ったから自分へのご褒美!お腹いっぱい食べるぞぉ〜!店員さん、すみませ〜ん!」
「…迷う…うーん…じゃあ僕はこの、マーイーカのイカスミスパゲッティにしよっかな。」
「じゃあ私この、ヤドンのしっぽのソテーで!」
かしこまりました、とウェイターが丁寧に注文を受け取り、キッチンに戻っていく。アルカタウンではなかなか見ることが出来ない品の高さである。
「せっかく私が奢ってあげるんだから、明日は勝たなきゃダメだよ〜?」
「言われなくても負けるつもりは無いって。だから、今度は僕が何処かで奢るよ。」
「お!いいねぇ〜!楽しみにしてよーっと!あ、でも私も負ける気は無いからね!ハイドにも、この先のジムでも!」
「ふふっ…そうだよ。そんな簡単に負けないでくれよ。君は僕のライバルなんだから。」
そんな話をしながら、運ばれてきた料理に舌鼓を打つ。流石はイデアルの誇る港町の海鮮料理。美味しかった。それはもう本当に美味しかった…。何より、ポケモン用の料理があったのも嬉しい。上等な料理を食べれて、ニドリーノもナゾノクサも満足そうな表情をしていた。流石にトレーナーとして、この子達の代金は僕が払った。
「ハイドは明日午前の部から挑戦するんだよね。じゃあ、今日は早く寝ないとだね!」
「そうだね。…今日はありがとう。明日は頑張るよ。」
「うん!頑張ってね!私もこの子達ゆっくり休ませないと…!」
レンジアを部屋まで見送る。僕はこれから、自分の部屋で『イデすす』を読みながら明日のイメージトレーニング、そして何よりぐっすり休まなければ。
初のジムリーダー戦。緊張と興奮が入り交じる。『イデすす』を読み終わって、布団の中で目を瞑る。意識が夢に落ちるその瞬間まで、僕の瞼の裏ではナゾノクサとニドリーノが暴れ回っていた。
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【週刊イデアル地方のすすめ!】
『リバタリシティ ジムリーダー・セリ』
「波にノってる ジムリーダー!」
専門タイプ:みずタイプ
今期の戦法:対でんきはウパーに、対くさはキャモメに期待。
チャレンジャーに一言:「見習いジムリーダーだからって、簡単にバッジは渡しません!顔洗って出直してきなさい!」
一口メモ:「ヨーソロー」を「ようこそ」という意味で使っていたが、どうやら違ったらしい。