リバイスFORWARD 〜仮面ライダーリバイと叛逆のデモンズ〜 作:大島海峡
――奇しくも同日。
ブルーバードの地下、旧文書室に、半ば居候に近い形で探偵事務所を開いている
連れ添いは、彼女が別の名を使っていた頃からの腐れ縁である
「ほら、これなんか普段使いに良いんじゃない?」
ショッピングモールのアパレルショップにて、さくらの身体に最新モデルらしいワンピースを合わせながら、そう購買意欲を刺激する。しかしさくらは煮え切らず渋って、
「えー、ちょっと高くない?」
と返した。
「フンパツするぐらいがちょーど良いでしょ。また
「あっ、あれは家着だからだしっ!」
花に揶揄われて、赤面しながらさくらはむくれる。
そうして和気藹々とする様は如何にも少女相応で、とてもかつて悪魔崇拝組織の象徴的存在とそのライバル、その後は共に対悪魔戦線の第一線で戦った戦士……仮面ライダーだとは思えない。
激闘を制し、
そんな二人の寄り添う姿は、さながらニリンソウ。
その花言葉は、『ずっと離れない』
「……まぁ、金額のことは良いんだけど……もう限界じゃない? 色々」
そうさくらが目線を投げた先には、両手に紙袋を持たせられた、玉置がいる。
日用品、服など、今日の『戦利品』のことごとくを担わされた彼は、ヒィヒィと呼気を引き攣らせている。
「何よー、その程度で情けない。それでも我が夏木探偵事務所の助手なの?」
「いや、ちょっと……待っ」
「言っとくけど、一つでも落としたらオシオキだかんね」
「そんなぁっ」
「付き合ってもらってるんだから、意地悪言わないの。ごめんね、玉置君。ほら、外雨降り出したし、いくつか持ってあげる」
「そっちこそ甘やかし過ぎ!」
やれやれ、と玉置は息を吐く。
両手に華、と自ら買って出た荷物持ちだが、世の男性が羨むようなシチュエーションなど訪れることはない。
男として頼りにされているだとか異性として意識されているかではなく、むしろこれは
(子どもの方針を巡って言い争う、両親……?)
という具合だった。
「あのーぅ、お客様」
と、中々に入りづらいその空間に、にこやかに近づく店員がいた。
「お迷いでしたら、こちらなどは如何でしょうか?」
客よりも目立つ格好をした、ソバージュをかけた若い女性で、上着をもって来て愛想を振りまく彼女のために、玉置は間を空けた。だが
(こんな人、さっきまでいたっけ……?)
と、その横顔を見て訝る。
いや、確かにどこかで見た覚えは確かにあった。だがそれは、こことはもっと別の場所、それも身近なところだったはずだ。
「ふぅん、割と良いじゃない」
「えー、ちょっとハデじゃない?」
紹介された服に顔を突き合わせて吟味する少女たち。その真ん中で笑みを貼りつかせながら
「いえいえ、ハデなぐらいがちょうど良いですよ――ギフの花嫁と末裔、その死装束には上等すぎるぐらいよ」
変わる声音と表情。さくらたちと、その女の表情が険しいものに変わる。
そして少し間をとっていた玉置は、その服越しに向けられた、黒光りするハンドガンを認めた。
「危ないッ!」
とっさに玉置は彼女たちへ向かって跳んだ。己が命を顧みない挺身あって、突き飛ばされた彼女たちは弾丸から免れた。
が――
「あ」
代わり、彼が持ったままだった紙袋に、焦げ目と弾痕がついていた。
幸いにして弾はその中で止まって彼の身に貫通することはなかったものの、本日の成果の大半が無為と帰した瞬間だった。
「たーまーきー……!」
上体をもたげた花がその惨状を見、そして憤怒の形相で助手を睨む。
「いや、そんなことどうでも良いから!」
とたしなめられつつ、彼女はさくらと共に互助して起き上がる。
「だから、私情を交えるな雛守。信念を持て……隊長のように」
ブティックの出入口に、アンダーリムの眼鏡をかけた青年が立っている。
その装束は、ブルーバードの前身たるフェニックスの戦闘服を黒く塗ったもの。
その手には、狼のシンボルが浮き上がるスタンプ。
「ウルフ……!?」
反応する玉置の股下を、どこから迷い込んで来たものか、蜘蛛型が二体、通り抜けていく。
「ハッ、この悪魔ども相手に、怒りなんて抑えられると思う?」
そして彼と、派手派手しい服を脱ぎ捨て同じくフェニックスの戦闘服に着替え、同じく鳥型バイスタンプを握りしめた女性の足下へ。
〈ウルフ!〉
〈オウム!〉
〈Decide up! 仮面ライダー・トラップデモンズ!〉
そして蜘蛛の吐いて回る糸が彼らの身を包み、内側から装甲をまとった怪人へと作り替える。
その様相、いくつかのパーツとカラーリングが異なれども、デモンズトルーパーに酷似していた。
〈ウルフ・ゲノミクス〉
そして眼鏡男だった方のトルーパーには、管楽器か、でなければ如雨露に似た銃器――玉置がデッドマンズ時代に使っていたルヒールが召喚される。
〈オウム・ゲノミクス〉
その偽店員の女の右手の甲には、左右非対称の色の羽でデコレートされた、傘と盾とが一体化したかのような武装が装着される。
「デモンズ……!?」
何故味方であるはずのデモンズ部隊が自分たちを――?
戸惑いはあるものの、何をすべきか、優先すべき感情は決まっている。
……あの、無惨に紙袋に空いた穴を想えば。
「何が目的か知らないけど……!」
「あんた達、ゼッタイに許さないッ!」
前門の狼、後門のオウム。それぞれに背中合わせになる形で、二輪の華は起立する。
その手には、彼女たちのスタンプが納まっている。
〈コブラ!〉
〈クイーンビー!〉
そしてその腰にはすでに戦士たるものの身嗜み――もとい、各ドライバーが。それにスタンプをセットした彼女たちは異口同音に
「変身!」
と、唱えた。
〈リベラルアップ! Ah Going my way! 仮面ライダー! 蛇! 蛇! 蛇! ジャンヌ!〉
〈Subvert up! Wow! Just Believe in myself! 仮面ライダー Ah! アギレラ!〉
さくらを囲う青き仕切りが仲間たちを守り、それを自らで破り、各々の鎧を纏う少女たちが現れた。
おそらくは地上のどんな服よりも、より彼女たちに相応しい装い。
青きコブラのインファイター、仮面ライダージャンヌ……と、その供、ぬいぐるみが如き悪魔ラブコフ。
白き女王蜂のスピードスター、仮面ライダーアギレラ。
理不尽に対して、自らがただ手折られる花であることを許さず。戦装束に着替えた乙女たちは、再び戦いに身を投じる。
「おれも戦います!」
「あんたは、無事な服の死守と他のお客さんの避難っ!」
「は、はい……」
そんな二人に気圧されて、玉置はそのサポートに回ったのだった。
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「はーい、今日はね、外はあいにくのお天気なんですけど! 『しあわせ湯』は絶賛営業中でーす!」
自撮り棒で吊り上げた携帯で銭湯内の様子をぐるりと撮影して回りながら、五十嵐
「幸四郎くんも、今日は特別なお客さんが来てるってことでね、お出迎えがんばってまーちゅ!」
と、崩れ切った相好で背負った愛息の手を掴み、大きく振ってみせる。
だが寝起きだったところを驚かされて、幸四郎は声をあげて泣き始めた。
「あーあー、もうっ、パパさんったら強引なんだから!」
と番台から出てきた妻の
「えー、そんなに強く握ったかなぁ? ごめんねぇ、ママさん、幸四郎!」
両手を合わせて頭を低くする元太。
そんな三人の様子は、顔を変え名を変え時を経て、幾たびの災難を乗り越えて来た今、その湯の名の通り『しあわせ』そのものだった。
「にしても、一輝の奴遅いなぁ……傘、持たせたんだよね?」
訝る元太だったが、そのすぐ後に、暖簾をくぐって男性客が三人、現れた。
「あ、いらっしゃー……」
と出迎えた元太が一瞬言葉を詰まらせたのも無理らしからぬことであった。
そのうちの一人の頭頂に、エビフライの如く屹立するもの、それは赤く染めたモヒカンだった。
もう片割れは、ゆうに二メートルは越えていようかという大男で、『火照る』という奇妙な印字のされたTシャツを、その隆々と盛り上がる胸筋に張り付かせている。そして、明らかに日本人ではない彫りの深い顔をしていた。
もう一人は、時期外れのネックウォーマーに、ミリタリージャケットを羽織った若い男。
「ハハ、これはまた、個性的なお客さんで……」
さしもの元太も、圧倒的存在感に気圧されてたじろぎ、自撮り棒をそっと下ろした。
男たちの中心に立つモヒカン男は、顔をしかめて
「あのーぅ、この辺りなんか焦げ臭くないっすかね」
と鼻の頭をわざとらしく擦りながら言った。
「え、そうですかねぇ? ママさーん、ちょっと火の元見てくれない?」
元太は自らの鼻で嗅いでみたものの、いつもと変わりがない。
だがそんな無邪気な彼の前で、ネックウォーマーの男が、
「いいや、臭いの元はオメーの中に燻るギフの遺伝子さ……
と、低い声で彼を、二十五年前の名前で呼んだ。
「……っ! 下がれッ、元ちゃん!」
常連客であり事情を知る古馴染み、ブーさんこと
その彼の腹を、大男の蹴りが直撃し、壁まで叩き込まれた。
「ブーさん!」
幸実が彼を案じる声を飛ばす。幸四郎はなお泣き止まぬ。
「大義ノタメノ、犠牲ハ、オ前ラ」
ブーさんを蹴り飛ばした男は、カタコトでそう言うと、バイスタンプを手にして押した。
〈フンコロガシ!〉
その幅広な肩には、蜘蛛型のメカが載っている。
「このぼろっちい銭湯、オメーらの業火で燃やしてブッ潰してやる!」
〈キリン!〉
「良いねェ、悪魔の巣穴と燃やす炎、まさしくベストマッチだ!」
〈ニワトリ!〉
揶揄と憎悪、それらを双眸に宿した残る二人も同じく、手にはバイスタンプ、肩には蜘蛛。そして彼らを包むのは鈍色の繭。
〈仮面ライダー・トラップデモンズ!〉
それが、内側から熱線で食い破られた。
異色のデモンズトルーパーとなった三人が、中から現れる。
モヒカン男の四肢には、蒼炎が覆う翼と手甲脚甲。
ネックウォーマー男の腰を四脚のメカ・フットが伸び上がり、その左手首からは、ハシゴ車のように長く伸びる、黄色にオイルのような水玉がついたクレーンとフック。
変身してもなお体格差余りある大男の右手には、それに相応しい、紫色に割れ物注意のシールが貼られた、巨大なショベルアームが展開されていた。
――本来ならば、並の女性ならば、ここは悲鳴をあげて逃げるところだろう。
しかしそこは流石の五十嵐幸実といったところか。
「パパさんっ!」
真新しく青く輝くドライヤー……ではなくドライバーと、それに対応するバイスタンプを元太に投げ渡すや、幸四郎を背負い直しノビたブーさんの腕を取り、
「何が何だか知らないけど、遠慮なくやっちゃって!」
と、元気一杯に力強く頷く。
「任せなさいっ」
〈ヘラクレス!〉
それを励みに、両アイテムを掴み取り我が物とした元太は、まず一度押印。
〈Contract!〉
起動モードに移行し、複数のスクリーンが空間に展開される中、両手でスタンプを己に向け、抱くがごとく叩き込む。
その様はさながら、
「Whoa! ハラキリネ」
と大男が揶揄するように、切腹に似た仕草だった。
かつてはその心持に近かった。紅の悪魔から、家族を守れなかった己に対する自罰意識、自傷行為の表れ。
〈Spirit up! Slash! Sting! Spiral! Strong!〉
――だが、今は違う。
もう決して、家族を失うまいという、決意の証。
「変身……!」
〈仮面ライダーデストリーム!〉
鋼の蛹となった彼はその殻を打ち砕く。
中より現れたのは、一家最年長の変身者でありながら、もっとも若々しく洗練された、白きアンダースーツと青いアーマーを持つライダーシステム。
仮面ライダーデストリームに変身した五十嵐元太は、その決意のもとに三人の兇徒を入口より押し返した。